第11章 決闘前夜
夜風が冷たい。
月は雲間に隠れたり、また顔を出したりを繰り返しながら、静かな光を落としている。
カイは丘の上に立ち、遠くに見える街の灯りを眺めていた。
半年――長かったのか、短かったのか、自分でもうまく言葉にできない。ただ、振り返れば、常に剣を握り、血と汗と涙にまみれた日々だった。
黒衣の男たちのもとで受けた修行は過酷を極めた。
剣技の鍛錬はもちろん、精神を揺さぶるような幻影の試練、仲間を守るために己の身を削る判断を迫られる模擬戦――。
その一つひとつが、確かにカイを形作ってきた。
「……ここまで来たんだな」
思わず呟いた声は、夜空に吸い込まれていく。
背後から足音が近づいた。
振り返れば、セラが立っていた。肩には薄い外套を羽織り、手には湯気の立つカップを二つ。
「寒いでしょ。飲む?」
「……ありがとな」
受け取ったカップからは、甘い香りが漂う。口に含むと、張り詰めていた心が少しだけほどけていくのを感じた。
「明日が本番ね」
セラは月を見上げながら言った。
その横顔は強く、けれどどこか不安げでもある。
カイは彼女の表情を盗み見ながら、ゆっくりと答えた。
「負けるつもりはない。……でも、怖いんだ。俺が倒れることよりも、みんなを守れなくなるのが」
セラは少しだけ目を細め、笑った。
「カイらしいわね。でも、ここまで一緒に戦ってきたじゃない。リィナも、私も、黒衣の人たちも。あなたはもう、一人じゃない」
胸の奥が熱くなる。
そうだ。半年の間に何度も死地を越えた。それでも生き延びられたのは、仲間がいたからだ。
「……ありがとう、セラ」
「ふふっ。明日は、ちゃんと勝ってよね」
そのやり取りのあと、しばし沈黙が流れた。
空を見上げれば、星々が瞬いている。まるで「お前の行く道を見ているぞ」と言っているかのように。
やがて、遠くで鐘の音が響いた。
決闘の刻限が、もうすぐそこまで迫っていることを告げていた。
カイは深く息を吸い込み、決意を固めた。
明日――すべてを懸けた決闘が始まる。




