第6章二度目の影
森を駆け抜ける三人の頭上で、月が不気味に光っていた。
だがその光は、森の奥から滲み出る黒い闇に呑まれていく。
「……来る」
リィナが立ち止まり、短剣を構える。
風が止まり、虫の声すら消えた。
代わりに聞こえたのは、地面の奥から響くような低い振動。
カイは息を呑む。前回、この感覚を味わったのは……妹を失ったあの夜だった。
木々の間から、巨大な影がゆっくりと姿を現す。
全長は十数メートル、しかし輪郭は曖昧で、まるで濃い霧が人型を形作っているようだ。
その中心に二つ、深淵のような黒い瞳が輝いた。
「……やっぱり、“主”だ」
セラの声は震えていた。
前回は、その姿を見ただけで動けなくなった自分。
だが今回は違う――そう自分に言い聞かせ、カイは白光の刃を握り直す。
“主”は無言のまま、腕を振り下ろす。
その動きは、ただの一撃で地面を割り、木々を粉砕するほどの力だった。
カイは刃を振るい、衝撃を光で切り裂く。だが防いだ衝撃の余波だけで、肺が押し潰されそうになる。
「リィナ、あれを倒す方法は――!」
「ない。ただし、“今は”ね」
リィナは短剣を逆手に構え、影の中へ飛び込む。
「時間を稼ぐ! カイ、セラ、逃げ道を作れ!」
影の触手のようなものが何本も彼女を絡め取ろうと伸びるが、その動きは信じられない速さで切り裂かれていく。
しかし、カイの胸に嫌な感覚が走った。
――前回の遭遇では、“主”はほとんど本気を出していなかった。
では今は?
答えはすぐに来た。
“主”の瞳がゆっくりと輝きを増し、森全体が闇に飲まれていく。
それは「遊び」ではない。本気で、三人を消そうとしている光だった。
カイは咆哮した。
「セラ! 援護を!」
「うん!」
白光の刃と魔力の矢が交差し、闇を切り裂く。
しかし、その奥に潜む圧倒的な存在感は、微塵も削がれていなかった。
二度目の遭遇――それは、逃げられない戦いの始まりだった。




