エピローグ 求萌
「アキラ! 待て、あの日の答えを聞かせてくれっ!」
背後から放たれた頼斗の叫びは、充満する空気をいとも容易く貫いて、ボクの耳へと運ばれた。荒げる呼吸音が迫ってくる。ボクはそれに制止を掛けるために後ろを振り返った。
「ボクは頼斗が求めるような新属性など持ち合わせてないよ」
冷たく言い放つ。声が裏返ってしまっているし、情けなく震えていたのでほとんど拒絶する雰囲気は醸し出せなかった。
頼斗の顔がくしゃりと歪んだ。ボクから距離を少し開けたところで足を止めた。
「そんな事は……どうでもいいんだよ。アキラへの気持ちを守るために使ってた言い訳なんだから。アキラ、頼む、あの日の答えを聞かせてくれ!」
「だから、ボクは頼斗が求めるような存在じゃない。それに、言い訳といっても十分に楽しんでいただろう? あれが嘘だとは思えない。そして、ボクには新属性なんて無い」
「あぁぁ、もうっ! どうしてそう素直じゃないんだよっ! わかった、新属性があればいんだろう? なら、アキラは新属性を持っているさ! その名も、『グーデレ』だ!」
「ぐーでれ?」
「ああ、そうだ。普段はぐだぐだと行動が遅く、いつもぼーっとしているけど、好きな人と二人っきりになるとデレてくる! まさしくグーデレ! これでいいだろう?」
必死になって馬鹿みたいだ。それに、グーデレってぐーたらの間違いじゃないか?
ボクは答えを求める頼斗を一瞥し、再び背を向けた。ゆっくりと歩を刻む。
「……アキラ、俺の事……もう好きじゃないのか? やっぱり、あんな奇行を続けたせいで幻滅しちまったのか?」
涙ぐむ声を聞いてもボクは足を止めなかった。だけど口が勝手に動いた。まるで帰宅の時に発生する条件反射のように。
「頼斗、ボクと一緒に帰りたいなら荷物持ってよ……昔みたいにさ」
「え?」
「それと、ずっとそのままだったパフェも奢ってよ。それから――」
「わかった。約束はすべて果たすよ。……アキラ、ありがとう」
本当にボクは何をやっているのだろうな。血迷ったのかな? それとも毒電波にやられちゃったかな。どちらでもいいか。
耳に響く頼斗の駆け寄る足音が心地良い。
ボクは懐かしの記憶の中で弛みながら、フッと笑みを零した。
頼斗は約束を守った。そう、絶対に後悔させないと言ったのを見事果たしたのだ。
帰り道は手を繋いで歩いた。
無言の歩みの中には、離れ離れになった空白の日々を埋める心地良い沈黙が存在した。
馬鹿げた擦れ違いの日々は幕を閉じる。
そういえば立派なメイドになると宣言した姫野さんや、お兄様と慕ってくる三須先輩への対応はどうしようかな。……今は余り深く考えなくていいか。どんな答えを出せばいいのか今一わからないしね。とりあえず頼斗を殴っておこう。
明日の登校には、入学式以来クローゼットの中で眠り続けていたスカートを穿いていこうと思う。さて、頼斗の反応が楽しみだ。
これにて完結です。
原稿用紙100枚の物語、という事で書いたので……一応は短編? なのでしょうか。中途半端かもしませんが、正直にいえばこれ以降の展開は一切考えていないので、完結でいいのかなと思っています。
ちなみに、最初の段階は思った以上に長くなってしまい、一万文字ぐらい削りました。その八割がアキラのリアクションによるネタだったので、電波具合が倍以上でした。
……やっぱり二人のその後や、百合ロードを爆走し出したロリやヤンデレのお二人のその後などは気になったりするものですか?
要望があれば番外編……書くかもしれません。
こんな作品でも少しでも楽しんでもらえたなら幸いです。
ここまで読んでくださった読者様方にお礼を申し上げまして、筆を置くとします(まあキーボードですけどね)。