第21話 ドロップアイテム
「まさかあのマルティがお姫様だったなんて、びっくりしたよね」
お城の正門を出てすぐセリスがやっと喋れたとばかりに口を開く。馬車で宿まで送ってくれる手筈だったが、頭を整理したかったので帰りは歩くことにしたのだ。
「なんとなくこの間別れる時の雰囲気から貴族かも?とは思っていたけどまさかお姫様だとは思わなかったな」
「だよねだよね!報酬追加は有り難かったけど、マルティまでパーティーに入るなんて、私がラオムを独り占めできなくなっちゃうのがなー」
「え?それ本気だったの?」
「よし!今のうちにいっぱい独り占めしておこうっ、と」
そう言って俺の腕におもむろにしがみついてくる。
「あの!?セリスさん、何か当たってるんですけどー!?」
「んふふー、あーてーてーるーのぉ!!」
しがみつく力が増してグイグイ押してくるので歩きにくいことこの上ない。
ましてや俺も健全な男の子。
歩きにくいの意味がちょっと違う。少し前傾姿勢になり、ポケットに慌てて手を突っ込んで押さえるがやはり歩きにくい。
「あっ、そういえば、この間の戦闘の魔石とかをギルドに預かってもらっているんだった。言うの忘れてたよ」
「あーそうか、あいつも魔物だったんだよなぁ。人語を話していたからすっかり忘れてたよ。魔石落としていたのか」
「魔石と一緒に何か色々ドロップしてたけど、全部預かってもらってるんだ。私1人じゃ持てないからね」
「そうか、それなら今日はもう宿に戻って休んで明日の朝一でそのあたりを確認しに行くか」
俺が目を覚ましたのが昼過ぎだったせいか、今は夕方になっていた。何をするのにも中途半端な時間なので今日のところはゆっくり休むことにした。
ミザールの町で定宿にしている『星と目覚めの鳥亭』に着いた。
受付をしているルーリアちゃんに挨拶をしていつものように手続きを行う。
「なんかラオムさんって変わってますよね」
突然、ルーリアちゃんからそんな事を言われる。
「えっ、どうして?俺なんか変なことしてる?」
「もう半年以上もうちを贔屓にして泊まってくれているのに毎回短い宿泊契約で長期契約しないんですもの。大概の冒険者の人は1ヶ月とか3ヶ月、長い人だと6ヶ月契約とかまとめてしてますよ」
「ああ、その事か。確かに長期契約で前払いした方が得なのはわかってるよ。でも冒険者だからね。いつどこで倒れて帰ってこられなくなるかわからない。長期契約しているとそんな帰って来れなくなった人の部屋も毎日掃除してキレイに維持しなきゃでしょ?」
「うん、まあ、仕事だし・・・」
「一生懸命、毎日部屋を掃除していて契約期間が終わっても姿を現さない契約者。なんかそれを想像したら物凄く寂しいなって思ったんだよ。って俺の自己満足だけどね」
そう言って軽く肩を竦める。
「そう、でしたか。お気遣いありがーー」
「それにこっちの方が毎回ルーリアちゃんといっぱいお話出来るからな!」
一瞬、キョトンとした後、クスクス笑い出すルーリアちゃん。
「もう、私狙いだったんですかぁ?」
「そうだよ。近隣の宿屋を見て回ったけど、ルーリアちゃんが一番の可愛かったから、いっぱい見て話して来る度に毎回癒されたいじゃない?痛っ、痛いってセリス!」
「ふーんだ!」
ルーリアちゃんとのやり取りを黙って聞いていたセリス嬢はお冠らしく、腰の辺りを思いっきりつねられてしまった。
「ほらほらラオムさん、こんなに可愛い彼女さんがいるのですから浮気なんてしたらダメですよ」
クスクス笑いながら言われてしまう。
まぁ、いいや。そう言うことにしておこう。
次の日、朝から冒険者ギルドで預かってもらっているらしい先日の戦利品を受け取りに行く。
受付窓口は数ヵ所あるがいつものようにアトリさんの所に向かう。
「アトリさん、おはようございます」
「ラオムさん、おはようございます。あ、先日の預かっている荷物の件ですね?少々お待ち下さい」
挨拶しかしてないのに用件がピタリと当てられてしまった。ま、掲示板も見ずに真っ直ぐ受付に向かったからな。それしかないか。
しばらく待っているとトレイを持って戻ってきた。
トレイの上には、30cm程の黒い魔石、たくさんの小さい魔石の山、指輪2つ、手袋一組が置かれていた。
「とりあえず今私が持てるだけを持ってきました。この他の素材等は裏の倉庫に保管してありますので後で確認してくださいね」
「このデカい魔石があいつのか。こうしてみると大物だったんだな」
同じ階層主でもスケルトンロードのは5~6cm程度。倒した後の魔石の大きさで魔物が持っていた魔力の量や強さが推定できる。
「私もこの大きさの魔石は初めて見たので過去の記録を調べてみたところ50階層の階層主と同程度でしたのでビックリしました」
「ええ!?そうなんですか!?強敵ではあったけど、それほどとは思わなかった。あそこでLV.が上がっていなかったらヤバかったもんなぁ」
「ラオムラオム!こっちの指輪みてもいい?」
目を輝かせながら袖を引っ張り、催促するセリス。
「引っ張るなって。見てもいいけどまだ着けるなよ。鑑定してもらってからじゃないと呪われてるかも知れないからな」
「あ、ギルドの方で僭越ながら鑑定させていただきました。どれも呪われてはいませんでしたのでご安心下さい」
「そうなんですか。ありがとうございます。で、鑑定したってことはどんな能力があるか分かっているんですよね?」
「もちろんです。こちらにまとめてありますのでご覧下さい」
アトリさんは1枚の紙を渡してくる。
・王獣の指輪
装備者に『身体強化LV.5』が付与される。
・魔導の指輪
装備者に『全属性強化LV.5』が付与される。
・技巧の革手袋
装備者に『器用さ強化LV.5』が付与される。
「これってかなりいいアイテムですよね?」
「かなりというか『凄く』ですね。身体強化にしろ、全属性強化にしろ、私は『腕力』だとか『風雷属性』とか単独の性能を上げる装飾品しか世間一般には出回ってないのでこの性能は破格だと思います」
神妙な表情で感想を言ってくれる。
複数属性が付与された装飾品も存在はしているし、一部の生産者から販売されているが、属性は2~3個。LV.3までが限界と言われている。
それが世間一般の基準として考えれば、どれ程の装備が想像がつくだろう。
「この綺麗な指輪にそんな能力が有るんですか?信じられないなぁ」
「こらセリス、手のひらで2つの指輪をコロコロするなよ、傷がつくだろ」
「これくらいで傷なんてつかないよ。まったくラオムは貧乏性で心配性なんだから」
「とりあえず魔導の指輪はセリスが装備がしとくといい。他はどうするかな?」
王獣の指輪の効果は重複しないらしいので俺が装備する意味はない。技巧の革手袋も力押しの今のスタイルには不要なんだよな。とりあえず保留だな。
とセリスがおもむろに魔導の指輪を渡してくる。
「ん?どうしたんだセリス?装備できなかった?」
「着けさせて欲しいの、ラオムに」
視線をそらし、右手を頬に当ててすっと薬指を強調させながら左手を出してくる。
受付の向こうからは「あっ!」と息を飲む声が聞こえる。
強調している薬指を無視して中指に着けてやる。こういう魔法のアイテムは魔力を流してやれば装備者の体型にアジャストしてくれる。
「よし、じゃ行くか」
セリスのアピールをさらっと流すために話題を変える。そんな対応にセリスは不満顔だ。
「相変わらずラオムは恥ずかしがり屋さんなんだからぁ、もう」
「あ、ラオムさん、先程も言いましたが裏に置いてある素材も回収しておいてくださいね。ご要望いただければ、買い取りもしますよ」
「アトリさん、ありがとうございます。素材は後で依頼達成のために使うことにするので回収だけしておきます」
冒険者ギルドを出た後、消費したハイマジックポーションを補給するため道具屋に向かう。
「さっきはなんで魔石とか素材を依頼として処理しなかったの?さっきするのも後でするのも同じじゃないの?」
「あぁ、その事か。あの場で全部始末してしまえば、その後いれる予定の新しいやつとのギルドランクに差が出来るだろ?」
うんうん、と頷くセリス。
「今後依頼を受けるときに出来るだけ高ランクの依頼を受けるための対策だよ。例えば俺一人のランクが高くても他のメンバーのランクが低かったら、高ランクの依頼が受けずらい。出来るだけパーティーのランクは近い方が都合がいいんだよ」
「えと、つまりどゆこと?」
「パーティー内のランクを均一にするために今ある素材は新しく入るやつのランクを上げるために取っておくってことだよ。美味しい依頼があったとしてもランクが足りなくて受けれないってのは避けたいからな」
今のパーティーランクはDランクだ。
これに新しいメンバーが入れば、Eランクに落ちてしまう。そうなると依頼の質が落ちてしまう。
一番高いやつのランクを均一に上げるより低いやつを底上げした方がパーティーランクは上がりやすい。
ちなみにランクは、
ギルドランク スキルLV. 強さの目安
G LV.1初心者
F LV.2 初級者級
E LV.3 中級者級
D LV.4 上級者級
C LV.5 ベテラン級
B LV.6 将軍級
A LV.7 王級
S LV.8 伝説級
SS LV.9古代級
SSS LV.10 神話級
となっており、ギルドランクに対応するスキルLV.数がポイントになっている。
CランクとEランクを足して人数で割るとDランクのパーティーとなる。
「なるほどねー、そう言うことならラオムや私が依頼達成してランクを上げるよりも新しいメンバーに使った方がいいのもわかるよ」
「だろ?高ランクの依頼を受けて、新メンバーのパワーレベリングやるつもりだからな。早く戦力になってもらわないとな」
「新しいメンバーの人、御愁傷様です・・・。あれ?新しい人ってマルティのこと?」
目を閉じて両手を合わせてスリスリと擦っていたセリスの顔がパッと上がる。
「いや、前々から気になっていた『あの』奴隷を買おうと思ってるんだ」




