第20話 スキルの書
『スキルの書』
初代オルスティア王が迷宮から持ち帰ったとされる、オルスティア王家に伝わる秘宝の一つ。
噂によると神から授かったスキルの改編が可能らしく、77ページあり、そのページ数分だけ改編することができるという。
これだけ聞くと物凄く貴重なアイテムのように思うがこの話には続きがある。
改編にはデメリットが伴うのだ。
デメリットの内容は一定ではなく、改編される程度による。
対象となるスキルの貴重性、能力、変更する内容等、様々な要因がある。要因が多ければ多いほど代償は大きく、小さければ代償も小さい。
例えば過去には、スキル効果の一部を改編して巨万の富を失った者、スキル自体を全く別なスキルに改編して自身の親族全てを喪った者、改編したスキルのみを残して他のスキルを全て失った者等、改編には必ずデメリットが付きまとう。
上手くデメリットと渡りをつけて、成功した者もいるが失敗した方が多いため、ここ数百年は使用希望者がおらず、宝物庫の飾りに成り果てていると聞いた。
もちろん使用希望者と言っても貴族が最低条件。しかもそれなりの功績がなければ使用許可は下りたことがない。普通なら一介の冒険者が使用を希望したところで許可など下りるはずがないのだが、
「・・・『スキルの書』か。その存在を知っているということはどのような事になるか知っておるであろう?それでも『使う』というのか?」
「千載一遇の好機と思いました。デメリットは承知の上です。何卒、使用許可を」
貴族しか使用することを許されないアイテムが使えるかもしれない。こんなチャンスはもう来ないかもしれない。この可能性に賭けてみたい、そんな思いがあった。
「そなたも誠に冒険者よのう・・・。良かろう。スキルの書がどんなものか、理解して居るならば良い。確か残りの枚数にも余裕があったはず。それではラオム、そなたに『スキルの書』の使用許可を与えるよう!但し、予め代償になりそうなものは自分で用意しておくのじゃぞ?わかったな」
「承知致しました。ありがたき幸せにございます」
こうして俺たちの始めての謁見は終了となった。
「悪かったなぁ、セリス。俺が勝手に追加褒賞決めちまって」
「全然いいよ。今回私、大したこと出来なかったし、ラオムも何か考えがあるみたいだから構わないよ。気にしないで」
「そか、ありがとな、セリス。イルスさんもここまで付き合っていただき、ありがとうございました。お陰でそんなに緊張せずに済みました」
「陛下からの命令だったからな。めんどくさかったがなかなか面白い内容であった。ラオム達もあんまり無茶苦茶して私の仕事を増やすんじゃないぞ?いいな?」
そう言ってニヤッと笑ったイルスさんは来た方向とは別の方へ歩いていった。
「さて、俺達も帰るか」
「そうだね」
俺とセリスは王城を出て帰ろう、と入ってきた出入り口へと向かう。
王城の内部へ入るための入り口を出て城の正門に向かうための馬車に乗ろうとしたその時、
「ラオム様、セリス様、御待ちください」
俺とセリスを呼び止める声が聞こえた。
声がした方に振り替えるとそこにはいかにも執事といった初老の男性が立っていた。
「あの、俺達もう帰るところなんですけど、何か御用でしょうか?」
「第三王女マルガレーテ様がお呼びです。申し訳ありませんが私の後について来てもらえないでしょうか?」
そういえば『スキルの書』は彼女の口利きがなければもらえなかった可能性が高いな。わざわざ向こうから呼んでくれるのだ。お礼を言っておくべきだろうな。
セリスにもそう説明すると同意してくれたのでマルティの元へと案内してもらうことにした。
案内されたその部屋は先程の謁見室とは言わないまでもそれなりの調度品で整った、とても品のある部屋であった。その部屋に通され、ソファーに座ってしばらく待っていた。
すると俺達を引き留めていたマルティが現れ、向かいの椅子に座る。
「待たせましたわね、ラオム。こんな形で再会出来るなんて思いませんでした」
「そうだな。まさかマルティが第三王女で謁見の間にいるなんて考えもしなかったよ」
「それは当然ですわね。そうやって身分が分からないように隠していたんですもの」
「とりあえず、さっきはもう1個褒賞を追加してもらえるように進言してくれてありがとうな。『スキルの書』が使用できるなんて思ってもみなかったよ」
「気になさらず。森で助けていただいたお礼ですわ。私としては、もう少し価値のありそうなものをねだると思っておりましたが『スキルの書』とは意外でしたわ」
「それは期待に応えれなくて悪かったな。それとも『第三王女様が欲しい!』とでも言えば良かったか?」
からかい半分でマルティに語りかける。
一瞬で耳まで真っ赤になったマルティは、キッとこちらを涙目で睨み、
「ば、ば、ば、馬鹿なことを言わないで下さいなんでこの私が王女である私があなたなんかと結婚して子供を5人も産まなければならないのですかあっでも5人も子供がいたら毎日楽しくて幸せそうでじゃなくて、じょ、冗談も休み休み言いなさいそんなお願いなんて私はまったく全然これっぽっちも望んでおりませんのよ勘違いなさらないで下さいまし!!」
睨んでいたかと思えば、にへら~と笑い、またキッとした顔になり、早口で一気にまくしたてられた。
忙しいやつである。
「えーと、俺は結婚とか子供の話なんて一言も言ってないんですけど・・・」
「残念でした!ラオムはこんな小さい頃から私と約束しているんです!もうこれ以上お嫁さんなんて必要ないんです!先約済みなんです!間に合ってるんです!」
左に座っていたセリスが腕を回してギュッと抱きついてきて、そんな台詞を言い出す。
あの?セリスさん?なにを?
「くっ!幼馴染、という訳ですわね。これは強敵ですわ!ふふっ、いいでしょう。貴方を私のライバルと認めましょう!必ずや私が貴方を追い出してその位置を貰い受けますわ!」
いつの間にか二人の間で火花が散り、お互いの背後にセリスは犬?マルティは狐?の幻影が見えた気がした。
「あー、何かよくわからんがセリスはただの幼なじみで冒険者仲間なだけだぞ?今の俺の冒険者生活には必要不可欠だから別れる気なんてないけどな」
「ガーン、ラオム酷い・・・」
「くぅ、別れる気がないだなんて。だけど私は諦めませんことよ」
何かよくわからないがセリスが落ち込んでしまった。仕方ない、あとでフォローしておくか。
「それで?マルティ、そんな事を言うために俺たちを呼び留めた訳じゃないんだろ?依頼か?いったいどんな目的があるんだ?」
「・・・あぁ、そうでしたわね。私としたことがうっかり忘れておりました」
「おい、今本気で忘れてなかったか?・・・まあ、いい。忘れるくらいなら大した用事じゃないんだろ?冒険談でも聞きたいのか?」」
「違います。それでは単刀直入に伝えます。私をラオム、貴方のパーティーに入れなさい。こんなこと滅多にないんだから光栄に思うといいわよ」
「「 は? 」」
セリスと2人して目が丸くなる。
マルティがパーティーに入りたいって聞こえたんだが?王族がパーティー?なにそれ、気を使ってしょうがない。正直、こんなめんどくさそうなパーティーメンバー欲しくない。だが、要らないとは言えず、返事に困っていた。
さて、何て言って断るべきか?
「あ、そういうの間にあってますので。結構です」
おぉぅ、セリスよく言ったぁー!
ここ最近で一番役に立ったぞ!
「ふう、あなた方の言いたいことはわかります。王族がパーティーにいると色々と気を使ったり、面倒事が増えるとお思いなのでしょう?」
「あ、言え、別にそんなことはーー」
「その通りです!」
今日のセリスは何か違うぞ!頼もしい!!
「その点はご安心下さい。私のことは一冒険者として扱ってください。パーティーのリーダーもラオムで構いません。もちろん護衛騎士など連れてきたりしません」
「んー、それならまあ、いいのかな・・・?」
「何故、そうまでして冒険者になりたいんですか?王族としての通過儀礼ですか?」
「それもあります。ですが通過儀礼など現在女性に対しては形骸化しております」
「ならーーー」
「私はラオムと共に冒険に行きたいのです!これは御父様にも許可は貰っております!」
くっ、そこまで手を回しているとは。
・・・でも待てよ?
そうなるともうこれ、断れないのでは?
考えようによっては、『スキルの書』の使用許可が報酬前払いとも取れる。
断って許可を撤回されるだけならまだしも、相手はこの国の王様だ。やろうと思えば、適当な罪状で投獄も可能だ。
「はあ、わかったよ。俺たちの敗けだ。パーティーに入るのを許可しよう」
「えっ?ちょっとラオム、本気!?」
人差し指をピッと立てて、
「但し、俺のパーティーは貴賤関係無し。みんな同列に扱う、完全平等主義だ。それでもいいか?」
「むしろ望むところです!」
静かだが力強い返事が帰って来た。
「と言うことだ。セリス、諦めろよ?」
「ぐぬぬぬ・・・」
「まぁ、マルティが俺達のパーティーに入れるようになるまでもう数年あるから様子を見てやれよ、セリス。さすがに戦闘系のスキルが無きゃ冒険者なんて出来ないからな」
「「 えっ? 」」
「 えっ??」
セリスとマルティがキョトンとしている。
「・・・ラオム、何言ってるの?」
「私は今、14歳。もう1ヶ月後には15歳になりますわよ?」
「はい?・・・14歳?どう見ても10~11歳くらいの身体付きじゃ・・・」
途端、2人の目付きが鋭くなり、キッとこちらを睨む。
「酷い、ラオム!マルティの身体しか見てないの!?顔つき、言動、考え方、どこからどう考えても立派な同年代じゃない!」
「セリスばかりみていたラオムには幼児体型に見えるのでしょうね。えぇ、そうですよ、どうせ私は幼児体型ですよーだ・・・」
「あ、あはははは・・・、ごめんなさい」
笑って誤魔化そうかと思ったが、後が怖そうなので素直に謝った。
「まぁ、いいですわ。確かに今はスキルを授かっていないわけですし、無いまま冒険者として付いていっても足を引っ張るだけですからね。御父様には私からお話ししておくから、誕生日まであと1ヶ月。忘れないで下さいね。あっ、ちなみに王族は戦闘系のスキルしか授かりませんので」
ニッコリとしかしとてつもなく冷酷な冷たい顔でそう告げられた。
・・・1か月後、このパーティーはどうなってしまうのだろうか。今からとんでもなく不安になった。




