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父親の懸念

「ロルフ様、リーゼロッテが怒っていましたよ」


 私の旦那様は、変なところで頑固です。

 変なところ、というよりは、彼の中で明確に基準があるのですが、それを隠そうとするから傍目には変なところでという評価になります。


 片手では数えられない年月を共に過ごしてまいりましたが、全ての譲れない一線が分かる訳ではありません。ロルフ様はロルフ様でひた隠しにする信条と言うものがあるのかもしれません。


 ただ、今回だけは、何が駄目たったのかは分かります。

 ――娘のためを思って、という事は絶対ですから。


「譲りたくないのは分かりますしリーゼロッテのためだとは分かりますが、ああいう言い方をすればリーゼロッテは反発しますよ。リーゼロッテはリーゼロッテなりに考えての事ですし、ウーヴェが悪い訳ではないでしょう」


 ウーヴェ、というのは先日従者として雇った……というかリーゼロッテが拾ったというか、倒れていた身寄りのない少年です。道端に倒れていて、リーゼロッテが治癒術を使って助けてあげたのです。

 ……まだまだ大怪我は治せないとはいえ、治癒術を使えるなんて、我が子ながら才能が恐ろしいというか。


 家に運んで休ませてあげて、数日経ち回復してから事情を聞いたら親もおらず空腹と怪我で死にかけていたそうで。

 そこからリーゼロッテとなんやらやり取りがあったらしく、この子を従者として雇いたい、という事になったのです。


 家長であるホルスト様が許可して雇う事になったのですが、ロルフ様が後ろ楯もなく身分も分からず怪しげな少年を側に置くのはどうか、と駄目だししたのですよ。


 ロルフ様の言う事もごもっともではありますし、まだ幼いリーゼロッテの側に見知らぬ男の子を置くのは危険だ、という主張はよく分かります。

 もしスパイだったり暗殺目的とか誘拐目的だったらどうするのだ、とリーゼロッテに却下を出そうとしたら、リーゼロッテが怒っちゃった訳です。


 友達は自分で選ぶし側に置く人も自分で決める、と自立心たくましい言葉を叩き付けてロルフ様からウーヴェを連れて離れてお部屋に立てこもっている状態に。

 その時点でロルフ様がはらはらしてるのもリーゼロッテは分かってやっていると思います。


「……エルは、危ないとは思わないのか」

「そうですね、危険性が全くないとは言いません。……それはホルスト様も承知で、彼の言葉を元に身辺調査を行って安全確認をした上で決定していますよ」

「……それは知っている」


 本人の証言を元に目撃情報やら何やらをきっちり集めて他家の息がかかっていなさそうな事を確認してから、許可は出しています。

 この辺りはある程度で諦めなければならないのですよね、後ろ暗い事があるという証明は証拠さえあれば出来ますが、潔白という証明は出来ませんから。どこまでも疑おうと思えば疑えますもの。


 ある程度探って出てこないのであれば、あとは許容です。


「それに、コルネリウス様が色々と」

「兄上がか?」

「よく知りませんが、取り敢えず色々と聞き出してみて安全と認めたそうです」


 コルネリウス様は姪であるリーゼロッテをいたく可愛がっていますし、彼なりの調査で合格を出したみたいです。

 何をしたのか、とかは何だか怖くて聞き出せませんが、人道に背く事はしてないそうなので多分大丈夫でしょう。


 私としては、彼は安全だと思うのですよね。

 理由を言えと言われると困るのですが、こう、人の悪意をずっと感じてきた身として、彼の気配とか表情とか眼差しは、邪気がないものだと思います。

 勘と言われればそうなのですけどね。


「……ロルフ様、どうしても認められませんか?」

「……将来危険がないとも限らまい」

「そうですね。でもいつまで箱庭で遊ばせるおつもりで?」


 その一言に、ロルフ様は固まって、私を見つめます。


「まだまだ親の庇護が必要なのも分かりますよ。今はまだ親が守ってあげないとならない時期です。けれど、抑圧する事はならないでしょう。危険の可能性だけ排除していくのも結構ですが、それではリーゼロッテのためにはなりませんよ」

「しかし……」

「……ではこうしましょう。しばらくの間は経過観察、従者は一旦置いておきましょう。ロルフ様が彼の言動を見て、雇うかどうか決めましょう。その間客人として滞在してもらえばいいかと」


 追い出したらリーゼロッテが多分泣いて家を飛び出すでしょうから、手元に置いていた方がずっと良いです。

 一緒に過ごせば彼がどのような人で本心から側に居たいかくらい分かってくると思うのですよ。


 頭ごなしに駄目だと否定して悪者だと決め付けたら、ウーヴェの教育上にもよくありません。彼も、リーゼロッテより少し歳上というだけ の子供なのですから。


 私の提案にロルフ様は少し眉を寄せたものの、このままではリーゼロッテが部屋から出てこないとも分かっているので、重々しく頷きます。


「そうだな。経過観察して、問題なさそうなら試用期間を設けてもいいだろう。どちらにせよ、彼には教育が足りないのだ。……私がしっかりしつければいいのか」

「……ほどほどにしてあげてくださいね」


 ロルフ様が本気でしごくとなると、大変なことになりそうです。

 でも、認める方向にいったのは進展でしょう。……多分そうでもしないとリーゼロッテが怒ったまま、というのがありますが。


 魔法の才は流石にないそうなのですが、リーゼロッテの側に置くなら武術や礼儀作法を片っ端から叩き込みそうなロルフ様。

 親馬鹿ってよく周りの皆さんからは言われますが、間違いでもないでしょう。娘への深い愛情のせいでたまに暴走するので、私はすっかり宥め役になってます。


 多分危険人物云々もあるけど男の子を側に置くのが抵抗あるんだろうなあ、とは思いはしたものの納得してくれたらしいのでわざわざ指摘はせず、まあうまくまとまったからいいや、と微笑むのでした。

 明後日7/4に『旦那様は魔術馬鹿2 奇跡を導く燐光花』発売です。

 大手通販サイト等では既に発売しているところもあるようです。はやくてびびりました。

 二巻でお話がまとまってるので、是非お手にとっていただけたらなあと思います。

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