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愛娘の失踪(?)

 どうしましょう、リーゼロッテが何処にも居ません。


 今日はお庭でリーゼロッテと遊んでいたのですが、少し東屋で休憩していたら居なくなってしまいました。

 目を離した私が悪いのですけど、ちょっと目を離した隙に居なくなるなんて……。


 庭を探しても居ませんし、家でアマーリエ様達に聞いても見ていないと仰るのです。


 コルネリウス様はお出掛けしていますからコルネリウス様の所に行った可能性はありません。アトリエも一応見てみましたが、誰も居ません。


 ……思えば、リーゼロッテは好奇心が強い子です。

 これまではおうちの中で遊んでいさせたのですが、お外にも出てみたいと零していました。


 勿論まだ許可出来ない……というのもありますが、私やロルフ様と行きたがっていたのです。


 けど、私が身重なので外に思うように出れず、ロルフ様もそんな私の側に居る事を望んでいるので、お外に連れていってあげる事もままならず。

 広い敷地も幸いして敷地から離れない範囲でしか出せなかったのです。


 けど、リーゼロッテもお外には出たかった筈。


 我慢ならなくて、もし一人でお外に出て行ってしまったとしたら……!


 どうしましょう、と暗い未来ばかりが頭をよぎる。


 ただちょっとお散歩しているだけ、なのかもしれません。

 けれど、もし悪い誰かに連れ去られてしまったら、怪我でもしたら、と思うと胸がぎゅっと締め付けられます。


 リーゼロッテは、ロルフ様のように小さい頃から魔法が使えるなんてないです。学んでないのですから、当然なのですが。


 外に居るのはいい人だけではありません。リーゼロッテが思うよりも、危険が満ちています。

 もしお菓子を餌に誰かに連れ去られでもしたら、私はロルフ様に合わせる顔がありません。


 駆けて探したくてもこの体ではそれもままならず、寧ろアマーリエ様達には無理に出歩かない方が良いと言われて居間で待たされる事に。


 この時ばかりは自由の聞かない体が口惜しいです。

 大切な子供が宿っているので無理が出来ないとは分かっていますが、目を離したのは私の責任。

 もし、何かあったら……っ。


「おかーさま!」

「あ、」


 きゅ、と唇を噛み締めた瞬間、扉を開けて飛び込んできたのは先程まで探していたリーゼロッテ。後ろ手で何かを隠しているようにも見えます。


「あのねあのね、さっきおそとにいってみたんだけどね」


 ああやっぱり、言い付けを破って外に出てしまったようです。


 あれだけ心配していたのに直ぐに帰ってきてくれて、ほっとすると同時に――胸の中で、どうしていいのか分からない憤りが、少しだけ滲んでしまいます。


 目を離したのは私。悪いのは私なのです。ちゃんと言い聞かせなかったのが悪いのです。


「……リーゼロッテ、どうして約束を破って外に出たの?」


 それは分かっていても、言い方がきつくなってしまうのです。

 ああほら、リーゼロッテが怖がってしまう。叱りたい訳ではない、無事で良かったって安心したいのに。


「あれだけ一人で出てはならないと言ったでしょう? どうして言い付けを破ったの」

「えっと、それは、」

「凄く心配したのよ? お願いだから、大人に何も言わないで何一人で何処かに行こうとしないでちょうだい。あなたに何かあったら、私は……」


 考えるだけで、涙腺が緩みます。

 ああ、いけない、子供の前で泣き顔を見せるなんて不安にさせてしまう。


 私は、失うのが怖い。

 初めて得た幸せが崩れ去ってしまうのが何より怖い。ロルフ様と築き上げた幸せが壊れてしまうのが怖い。

 大切なリーゼロッテにもしもの事があればと思うと、震えが止まらない。


 目頭に熱が集まり始めた私に、リーゼロッテはおろおろ、と困った表情。


「ご、ごめんなさい、その、」

「夫人、責めるなら僕にしてくれないか。彼女を連れ出したのは私だから」


 とうとう零れそうになった目元を拭った瞬間、聞こえる筈のない声が聞こえてきます。

 顔を上げると……照明を受けて揺れる金糸。聡明そうな光を宿した、綺麗な翠色の瞳。


 ――そう、レオナルド王子殿下その人です。


 リーゼロッテは私とレオナルド王子殿下を見比べて、それからしゅんと眉を下げてしょんぼり。


「……ごめん、なさい、おかーさま。レオさまと、おそといってたの」

「レオナルド王子殿下、と? それは、」

「ごめん、ちゃんと言っておくべきだったね。連れ出したというか、門を飛び出して直ぐの所で保護したんだけど、彼女がどうしても行きたい所があるからって懇願されて」

「……リーゼロッテ?」

「あ、あのね、おとーさまが、いえのちかくにきれいなおはながさいてるから、おかーさまがげんきになったらいこうなって。でも、おかーさまいつもつらそうだから」


 だからね、と、後ろに隠していた手を、そっと前に。

 小さな手には、野花で作られた冠が握られていました。


 あ、と声が漏れます。 


「えっとね、だから、ないしょでおそとにいきました。ごめんなさい、しんぱいかけて」


 ……リーゼロッテは、私が花が好きで、妊娠からの体調不良で外に行けない事を気にして、なにかしようと考えてこれを作ってくれた、のでしょう。


 ああ、もう。

 これでは、とてもではないけれど、我慢出来ません。


 泣き笑いを浮かべてしまった私にリーゼロッテが慌てて「ごめんなさい、しんぱいかけて」と謝るのですが、私はそんなリーゼロッテを抱き締めます。

 花冠を潰さないように優しく包み、それから「ありがとう」と囁きます。


 ……リーゼロッテに窮屈な思いをさせてしまったばかりか、私の事を心配させてしまったようです。

 最近また体調があまり良くなくてリーゼロッテを構えなかったから、不安になったのでしょう。


「ごめんねリーゼロッテ、私こそ心配をかけて。……レオナルド王子殿下も、ありがとうございます。リーゼロッテを守ってくれて」

「いやいや良いよこれくらい。可愛いレディの付き添いが出来たんだから」


 柔らかく慈愛に満ちた微笑みと眼差しで私達を見つめたレオナルド王子殿下は「リーゼロッテ嬢、楽しそうに夫人に贈るんだって作ってたよ」と告げるものだから、ついつい涙が零れてしまいます。

 いけませんね、涙腺が本当に緩くなってしまった。


「……ありがとう、リーゼロッテ」

「げんきになった?」

「ええ、とっても。……でも、今度からは無断で外出したりしちゃ駄目よ。私もロルフ様も心配するからね」


 これだけは言っておかなくては。

 私が喜ぶからって何度も同じ事をされてはひやひやしてしまいます。せめて、家族の誰かは連れていって欲しいです。


 アマーリエ様かホルスト様、コルネリウス様なら付き添ってくれるでしょう。ロルフ様だって、時間があれば一緒に遊んでくれますから。


 めっ、と注意した私にリーゼロッテは反省するように少しだけ眉を下げて、それからじいっと私を見上げます。


「こんどは、げんきになったおかーさまとおとーさまと、いきたいな」


 その言葉に目を丸くして、それからゆっくりと唇を笑みの形に。


「ええ。……次は四人でお出掛けしましょうね」


 お腹の子も含めて、皆でお出掛けしましょう。……きっと、楽しい事になります。


 そんな幸せな未来を想像して、私はまた泣きながら微笑みました。

気が付けば書籍発売まで一ヶ月切っていました。そわそわしております。

あ、皆様ちらっと活動報告見て頂けたでしょうか。素敵なカバーが上がっておりますので宜しければご覧下さいね!

発売記念で何かしたいなあとか思ったのですが、未だに悩み中です。プチリクエスト企画(人が来るかは未定)して発売日当日に一斉放出とかですかね?

あとコルネリウス編やりたくてそわそわしてます←

そんな私は新連載始めました(コルネリウス編ではないという)

タイトルは『忌み子なぼっち王子様を手なずける方法』です。良ければこちらも応援していただければ幸いですー!


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