義兄の決意
「おや、レオナルド。さしもの王子殿下も親友の子には興味津々かな?」
和やかにレオナルド王子殿下と会話をしていると、私達の様子を見に来たらしいコルネリウス様がひょっこりと顔を覗かせます。
そういえばレオナルド王子殿下とコルネリウス様ってどういう仲なんだろう、と思考を掠めたものの、まあ当然ですが仲が悪い訳もなく。
レオナルド王子殿下はコルネリウス様を気さくな笑みで迎え入れます。気安い雰囲気は、親しい証拠でしょう。
「そりゃあまあ、色々と心配だったからね。まあこれで心配も要らないかな」
「はは、まあ安心してくれたなら何よりだよ。いや私も心配だったんだよねホント。最初なんかエルちゃん泣きそうだったしさ」
「あ、あはは……ご心配をおかけしました」
コルネリウス様は結婚式の時の様子を言っているのでしょうけど、あれはまあ、うん……本当に暗かったですよね、私。その後もロルフ様に力を見出だされるまでは、冷えきった仲みたいなものでしたし。
あの頃の私は、今の私なんて絶対に想像出来ないんだろうなあ。こんな、幸せな未来なんて。
あの頃が、懐かしい。……こんなにも人は変われるんだって、私が生き証人になれましたね。自分でも、変わったと思いますから。
ご心配をお掛けした事は申し訳ないのでうっすらと苦笑を浮かべる私に、あくまでコルネリウス様は穏やかに微笑むのです。
「まあ弟夫婦が幸せな家庭を築けそうなら良かったよ。これで私も心置きなく家を巣立てるよ」
「……え?」
家を、巣立つ?
「また何処かに行くつもりなのか、コルネリウスは」
「私が一ヶ所に落ち着けないのは知っているだろう」
「相変わらず移り気というか落ち着きがないというか」
レオナルド王子殿下はその言葉を至極当然そうに、あっさりと受け入れている。
巣立つ、って事は、家を旅立ってしまう、という事?
でも、どうして。コルネリウス様はこの間、他国から実家に帰ってきたばかりなのに。
「……コルネリウス様は、家を出ていってしまうのですか……?」
「将来的にはね。まだ出るつもりはないよ、二人の子供も見たいし」
これを見逃したら一生後悔すると思うんだ、と悪戯っぽく笑ったコルネリウス様。
『まだ』出るつもりはない、そうコルネリウス様は仰ったのです。つまり、その時さえ来てしまえば、コルネリウス様は躊躇なく出ていってしまうのではないでしょうか。
「この子が生まれたら、行ってしまうのですか?」
「まあね。もうロルフが家を継ぐようにと両親には進言してあるし、二人も承諾してるから」
「そんな……」
もう、二人に出ていく旨を伝えているだなんて。
私には何も言われてなくて、レオナルド王子殿下がこうして言わなければ、知らないままその時を迎えていたに違いありません。
コルネリウス様としては、家はロルフ様が継ぐべきだって思ってるだろうし、ロルフ様もそれは認めています。もう、ロルフ様に敵う人など、多分、居ないでしょうから。
だから家督相続の事は分かりますけど、そのまま旅立ってしまうなんて、夢にも思っていなかったのです。
「君らに家の事を押し付けていくのは悪いんだけどね、適材適所ってやつだよ。私には、一つの場所に居るのは性に合わないんだよね。私には家庭もないし」
「そろそろ探しなよ」
「レオナルドもね」
軽口を叩き合う二人を、私はぼんやりと眺める事しか出来ません。
もう、家を出る事は、コルネリウス様の中で決定事項なのでしょう。
コルネリウス様がそう願うなら、私が止められるものでは、ありません。私が止めて良いものでもないと、分かっております。
けど……個人としては、寂しいな、と思ってしまうのです。
私にとって、コルネリウス様は良き義兄で、アドバイザーでもあって、頼りになる方で。……ロルフ様の事にもあれだけ相談に乗って貰ったし、本当に、お世話になっているのです。
……行かないで欲しい、なんて、我が儘でしょう。引き留める権利は私にはありません
「……エルちゃん?」
「あっ、いえ何でもないです。……その、おうちを出るのは寂しいですけど……それがコルネリウス様の選択でしょうし。また、帰っては来るのでしょう?」
「そりゃあね。エルちゃん達の子供の成長が気になるし。またふらふらして帰ってくるよ」
決して、帰ってこないという訳ではないようで、一安心です。
今生の別れとなったら、寂しいです。コルネリウス様は、私の大切な家族ですもの。ロルフ様とは違った意味で、好きな人です。私の、自慢の義兄ですから。
「コルネリウスは基本的に腰を落ち着けられないから、また飽きたら帰ってくるよ。基点はこの家だから」
「そりゃあね。外に行って嫁さんでも見つけられたら良いんだけどねえ」
「おや、結婚願望はあったのかい」
「そりゃあ、仲睦まじい弟夫婦を見ていたらねえ」
あんないちゃいちゃ見てたらねえ、とにやっと笑ったコルネリウス様に頬を染めてちょっと拗ねたように見ると、コルネリウス様はまたからりと笑って。
……居なくなるのは寂しいですけど、もし、コルネリウス様がお嫁さんを連れて帰ってきたら……奥さんとも仲良くできるかな、なんてちょっと夢見てしまいました。
コルネリウス様も家庭を築いて、コルネリウス様の奥さんとも仲良く過ごしていける、そんな未来もあるかもしれません。……そうなったら良いなあ、とは思うのですよ。
その為にはコルネリウス様を送り出さないといけないのでちょっと悲しいものですが、コルネリウス様の意思で出ていくので止められないですし、また帰ってきてくれたらな、と。
その頃には、多分、また家族が増えてる気がするんですけどね。
勝手に想像してふふっと笑う私に、二人のきょとんとした顔が向けられて、私はまた小さく笑ってしまうのでした。
コルネリウスにもちゃんと奥さんは出来ます、弟夫婦にあてられてばかりのお兄ちゃんじゃない←
しかし魔術馬鹿では書ききれなさそうな件。
あと今している連載の【最強魔法使いの弟子(予定)は諦めが悪いです】が終わりそうなので、新たに始めてみました。
【最強魔王様の婚活事情~居ないなら、喚んでしまえ、旦那様~】というタイトルで連載開始です。基本ゆるコメディ。ぽんこつ魔王様と苦労性側近の主従関係でじれじれします。
此方も応援していただければ幸いです|ω・)




