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8.宣言されました。3

 そうこうしていると、はしゃぎすぎて芝生の上でぐったりしていた美幼女が、むくりと起き上がった。



「そうじゃ、ついうっかり遊んでしまったが。わらわは、そなたと勝負をしにきたのじゃ!」



 びしい! と指をつきつけられる。



「勝負?」


「そうじゃ」


「って、なんで?」


「なんでもじゃ! だというのに、ついうっかり遊んでしまうとは。恐るべき誘惑の手管。わらわの意志の弱さをつくとは!」



 いや、誘惑の手管って。



「難しい言葉を知ってるんだね~、お嬢ちゃん。でも、子どもは良く遊ぶのも大事だよ。いっぱい遊んで、学んで、ぱったり倒れてぐーすか眠って、どんどん大きくなるものです」


「む? そうか? いや、そうではなく! 勝負だと言っておるだろう、小娘!」



 五歳児に小娘呼ばわりされるあたし。なんか微妙。



「お嬢ちゃん、礼儀がなっていませんよ~。初対面の相手を小娘呼ばわりは、ダメでしょ。

 あたしは透子。透子お姉ちゃんって言ってみな?」


「なんでそのほうを、『姉』と呼ばねばならんのじゃ!」



 むきーっと怒ってから美少女は、真っ赤な顔で、だんだん! と足を踏み鳴らした。ちまちました手足がぽてぽてっと動き回るさまは、なんと言うか、愛くるしい。


 ……と、思っていたら、なにやら背後で、ヘロしな犬耳兵士が感動にうち震えている。



「おおおおお……愛憎渦巻く三角関係が、いま、ここにっ!(じゃじゃ~ん!)」



 きらきらと、何かの光がセリフと共に舞った。ぱぱぱ~っとスポットライトが、彼とあたしたち(ロザリーはのぞく)に当たる。



「陛下を巡り、魔王城で繰り広げられる、悲しみと愛の物語。二人の女性から想われる、美しき青年王の悲劇!(どど~ん!)」


「別に三角でも四角でもないし、愛も憎しみも渦巻いてないから」



 五歳児相手にどう渦巻けと。



「ぬ? 何を言うか、小娘。わらわとそなたは、恋のら、ら、らんばだ、とやらではないか!」



 そこであたしの突っ込みに、美幼女が反応した。ランバダ?



「姫さま、それを言うなら、恋のヤンバルクイナでございます」


「おお、そうじゃ! やんばるじゃ! 良いか、陛下はわらわのものじゃからな。いくら異世界のやんばるクイーナでも、そなたには渡さんぞ、小娘!」


「あたしはいつの間に人間じゃなく、鳥類に分類されるようになったんでしょーかね……」



 ロザリーの訂正も意味不明な上、あたしは人間ですらなくなってしまった。異世界のヤンバルクイナって。



「うるさい、やんばれクイーン! わらわは、そなたと勝負するからな!」


「さらに変な言葉に進化してるんですが!? やんばれな女王さまクイーンって何!?」



 ヤンキーがバレちゃった女王さま?


 その間も、カクートの語りは止まらない。



「むき出しの心と心がぶつかり合い、ここに悲劇の幕が上がる! ああ、なぜ、憎しみあわねばならないのか!


 愛。それは理不尽なまでの心の激流(ざっぱ~ん! ぴからっ、ぴからっ)。


 愛。それは世をゆるがす宿命の叫び(どっぱ~ん! ぺからっ、ぺからっ)。


 惹かれてはならないと思いつつも、婚約者のいる相手を想い、勇者さまの心は千々に乱れる……(る~る~るるる~……)、


 彼の婚約者は美しい貴族の姫君。それに引き換え、わたしは、何も持たぬただの異世界人。


 あきらめよう、けれど(ざざんっ)。わたしを見つめた、彼の、あのまなざしが忘れられない(ざざざんっ)。


 名も知らず、身分も知らず、出会ったあの夜のバルコニー! ああ、あれが、宿命の! 運命の夜ぅぅぅぅ!(だだだだ~~~んっ! ぺからぺっかぺか~)」


「『二人の愛は夜空の星に誓って』の一場面ですね。会員ナンバー550、『ベタなロマンス大好きっ子』による作品。身分違いの恋に揺れ動くけなげな魔王さまと、陛下をあきらめきれない勇者さまの苦悩が素晴らしい小説でした」



 冷静に解説するロザリー。



「夜空の星……? ってか、あたしたち、バルコニーで出会った訳じゃないし!」


「わらわが美しいのはともかくとして、それではわが背の君と、この異世界人が両思いのようではないかっ!」



 思わず突っ込むあたしと共に、推定年齢五歳の美幼女が叫ぶ。



「そんな二人の間で揺れ動く、魔王さま!(ぱぱぱぱ~ん!)」



 しかしそんな言葉は一切斟酌しんしゃくせず、語り続ける犬耳兵士カクート。ある意味すごい。



「ああ、あのひとはどなただろう(しゃららら~ん……)。忘れられない、あの微笑み(きらきらきらきら)。ふと目があった、あの一瞬。それは、永遠にも似ていた。


 あのとき、確かに、わたしとあの人は、魂と魂で触れ合っていたのだ……。


 けれど、いけない。わたしは魔族の王。この恋心は封印しなければ……っ(ざざざ~んんんっ)!」



 苦悩の表情で、タラちゃんの独白らしきセリフを吐くカクート。すぱーん、と当たっているスポットライト。


 どうでも良いんだけど、実は君が主役じゃね?




※ランバダ 南米から発祥したダンスの一種。


※ヤンバルクイナ 沖縄で1981年に新種と認定された鳥。レッドリストに載っている絶滅危惧種。天然記念物に指定されています。


※やんばれ ……なんだろうね。ヤンがばれるって。



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