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7.尋ねました。波平さん編。

 巨大化した桔梗屋と戦う世紀末英雄な一休さんに、いろいろと気力を吸い取られてしまったが、ここまで来たら、死なば諸共。という捨て鉢な気分になったので、勇気を奮い起こして尋ねてみた。



「波平さん。ちょっと尋ねたいことがあるんだけど」


「なにかな?」


「異世界の物語って、聞いてたりします?」


「ああ。サージャの婿殿が広めている話だね。なかなか面白いものだね」


「あ、聞いていらっしゃる……、えーと、たとえば、どのようなものを」


「うん、色々とあるけれどね。わたしはあれが好きだな。『ル・ベンスの犬』」


「るべんすの……? (もはや原型が想像できない)」


「異種族同士の友情を描いた物語だよ。耳長族の少年ネロと、炎狼族のパト・ラッシュのやりとりが、切なくてねえ。

 今も思い出したら、涙が出るよ」


「ああ、……『フランダースの犬』」


「ネロはねえ。弱小種族の耳長族だったんだけど、芸術方面に優れてて。それって、精霊魔法にむいてる素質なんだよね。

 パト・ラッシュは、呪詛を受けて話せなくなった炎狼でね。人族につかまって虐待を受けていたパト・ラッシュを見て、ネロは必死で引き取るんだよ。

 呪詛を解こうとしたんだけど、ダメでね。でも、二人は仲の良い友人になるんだ」


「へえ~……(今回は、割とまともだな)」


「ネロは、おじいさんが死んでしまって。住んでいた家を追い出されてさ。最後の望みをかけて、精霊魔法コンクールに出るんだけど落選してね。

 でもそれは、耳長族に魔法が使えるはずがないって、偏見の為だったんだけど。本当はネロが優勝するはずだったんだよ」


「はい(まともだ。絵画コンクールが、魔法コンクールになってるけど)」


「せめてパト・ラッシュの呪詛を解きたいと、ル・ベンスの呪術絵を見たいとネロは願ってね。ああ、ル・ベンスは精霊魔術の天才だった人なんだけど。ネロはずっと、彼を目標にしていたんだ。

 でも、貴族の館にあってねえ。一般の魔族は閲覧禁止だったんだよ。

 全てを失ったネロは、でも最後に。友人の呪詛を解きたいと、貴族の館に向かい。

 閲覧を禁じられていたル・ベンスの呪術絵を、


 盗み出すんだ」


「……おいぃ!」


「ジ・ゲンとゴ・エモンという友人と三人で、深夜密かに」


「ルパンかい! ちょっ、感動の話じゃなかったのぉ!?」


「いや~、素晴らしかったよ。走るネロ。補佐するジ・ゲン。警備をかいくぐり、かいくぐり、奇想天外なからくり仕掛けで、混乱する貴族の私兵を翻弄し。

 そしてゴ・エモンの名セリフ! 『またつまらぬものを切ってしまった……』」


「ネロとパトラッシュの純粋なお話がああああ!」


「逃げるネロ。しかし追い詰められ、最後には一人に……そんなネロを案じて駆けつけるパト・ラッシュ。しかし、口のきけない彼は魔獣と誤解され、追いかけてきた兵士に撃たれてしまう」


「えっ! パトラッシュが撃たれるの!?」


「『パト・ラーーーッシュ!』叫ぶネロ。『ダメだ! 僕を置いて死なないでくれ! いま、いま、呪詛を解いてやるから!』」


「うわ~……」


「ネロはパト・ラッシュをかかえ、運河を行く船に飛び乗る。そうして、呪詛を解くために精霊魔術を使う……光に包まれるパト・ラッシュ。

 呪詛は解けた。けれど、撃たれた傷は深かった」


「ああ」


「『ネロ。ネロ。ずっと言いたかった……今まで、ありがとう』ネロに擦り寄るパト・ラッシュ。涙ぐむネロ。『パト・ラッシュ。ぼくの友達。ずっと一緒だよ』

 二人を追う、兵士たちの怒号が近づく。そのとき、月の光に照らされて、浮かび上がる魔王城。

『見てごらんよ、パト・ラッシュ。魔王さまのお城だよ。綺麗だねえ……』」


「……」


「『あの城の金銀財宝、君と一緒に盗みたかった』」


「をい」


「耳長族は、天性の盗賊なんだよ。だからネロが精霊魔法の使い手であると、認めてもらえなかったんだけどね。

『ネロ。耳長族への偏見さえなければ、お前が優勝していたのに。そうすれば、優勝者への特例として、魔王陛下への謁見が認められ、


 盗み放題だっただろうに』」


「パトラッシュもかい!?」


「『だが、今はもう』荒く息をつくパト・ラッシュ。もう身動きができそうにない。かすむ目で魔王城を見上げ、パト・ラッシュはつぶやいた。


『魔王城か。家族か。何もかも、みな、懐かしい……』」


「沖田艦長~~~~っ!?」


「がくりと首を垂れたパト・ラッシュ。涙とともに、ネロもまた、力尽きた……呪詛を解くのに力を使いすぎたのだ。

 そうして、二人は、微笑みながら天に召されていったのだった……。

 もうね。聞いた時、わたしは号泣してしまったよ」


「え~……あ~……(なにやら微妙な顔)」


「少数民族への偏見は、魔族にもあるのだよ。この物語は、偏見に目を曇らされれば、取り返しのつかない事になるという、良い教訓になったよ」


「そうなんですか」


「シューゴは、我らのことを良く見ているよ。その上で、我らも気付かなかった偏見や、見過ごされてきた小さなことを、物語の形で教えてくれる。

 彼には本当に、感謝している」


「そうなんだ……(浜野さん、そうだったの?)」


「この物語が流行った後、少数民族の置かれている状況を見直そうという動きが起きたからね。その運動で、ネロとパト・ラッシュは、旗印になった。新しく設立された『少数民族対応課』のシンボルマークは、耳長族の少年と、炎狼だよ」


「へえ~~……」


「スローガンは、『コスモ・クリーナーさえあれば!』」


「うをい!?」


「ル・ベンスの描いた呪術絵、『コスモ・クリーナー』! それがネロとパト・ラッシュの住んでいた移動風車『ヤ・マト』にあれば。悲劇は起こらなかったんだ。

 『少数民族対応課』のような課がありさえすれば、貴族に交渉して呪術絵を借り受けることだってできた。

 この物語は、悲劇を繰り返さないよう、『少数民族対応課』の職員全員に語り継がれ続けている。彼らは毎朝、声をそろえて言うんだよ。

 『イス・カンダルからコスモ・クリーナーを受け取ろう!』」


「なぜそこでイスカンダル!?」


「ル・ベンスに呪術絵を所持していた貴族の名前が、イス・カンダルのスター・シア」


「浜野さん……!(絶句)」


「実はわたしは、『対応課』の課長をしているんだ。毎朝、職員と一緒に言ってるよ。


『ネロとパト・ラッシュの悲劇をなくすため、イス・カンダルからコスモ・クリーナーを受け取ろう!』」


「うわ~……」



 職員さんも波平さんも真面目にやっているんだろうけど、状況を想像すると、頭を抱えたくなった。って言うか浜野さん、絶対趣味で話作ってるだろう!


そしてパト・ラッシュを撃った兵士の名は、デスラー。


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