7.尋ねました。フネさん編。
コスモ・クリーナーを次元と五右ェ門の協力を得て盗み出すネロとパトラッシュに、それこそ『何もかもみな懐かしい』という気分になってしまったが、脱力しそうな自分を自分で励ましつつ尋ねてみた。
「フネさん。ちょっと尋ねたいことがあるんですが」
「なんじゃ?」
「異世界の物語って、聞いてたりします?」
「おお。あれはなかなか良いものじゃな。わらわは長らく己を鍛え、戦うことにのみ喜びを覚えておったが。サージャの婿の紡ぎ出す物語は、まことに秀逸。
世の中にはかようにわらわの心を躍らせ、魅了する、面白きものもあるのだと、聞くたびに思わされる」
「ええ、そんなに感動されたんですか……、えーと、ちなみに、どのようなものを」
「あ~、……その、笑わぬか?」
「え、何でですか?」
「いや。わらわは、……しっとりと落ち着いた物語が好きでな」
「あ、良いですね。あたしも落ち着いた話って好きです(こっちで聞いた浜野さん作、魔改造物語にはどれも混乱、惑乱させられてるし)」
「そうか! そうであろう! しっとりとした物語は、聞くたびに心を潤す。良いものじゃ。そなたにもわかるか!」
「もちろんですよ! 心の落ち着きは人を成長させる、隠しスパイスみたいなものです! それがあるから魅力も倍増するんです!
オアシスのない砂漠は枯れるばかり! 癒し要素のない男性はハゲるばかり!
たとえどれほど外面を取り繕おうと、中身のない男は畑の肥やしにもなりゃしません。知識と経験、知恵に裏付けされた人生の深みと優しさ、それが落ち着きとなって魅力を放つんです! いぶし銀の男性は貴重なんですよ!」
「好みの男の話か?」
「あ、いや、そうでなく(いかん。今まで聞いた物語が、意外とストレスになっていたらしい)」
「そうか。トオコは中身のない男が嫌いか」
「あ、ええっと、……まあ。そうですね。
だってね~……、この世界に来た時にね~。美形な王さまと、上品な神官さまに出会いましたけど。多分あの人ら、顔も地位も、知識とかそういうのも、一級品だったとは思うんですけど。
誘拐した人間に呪いかけて、死にに行けって平気で命令できる神経とか、それやったらこの先どうなるの、とかいう想像力が皆無なんですよ~、あの人ら。
あたしは一瞬で、それまで大切にしていたもの奪われた。それを奪ったのは自分たちのくせに、理解すらしてないんですよ。自分たちが何をしたのか。
それがどうしたって言われました。きょとーんとした顔で。
術を使えば、異世界人が出てくるのが当たり前。
出てきた異世界人を使うのも、当たり前。
何が悪いんだって。
あたし、あんな中身スッカスカで、バカやろうな人たちに呼び出されたんですよ。前からこうやってきたから、とりあえずこうやってりゃ~良いやみたいな、惰性で魔術使うような人たちに。
もげろって今でも思う」
「もげろ?」
「あ、あっちの世界の、まあ、悪口?」
「そうか。もげろか。うむ。もげろ」
「あ、いや。悪口なんで、あんまり言わない方が(フネさん、なんか迫力あるから、本当にもぎ取りにいきそうだ)」
「シューゴも同じような事を言っておったな」
「浜野さんが?」
「うむ。サージャにな。そう話しているのを聞いた事がある。
正直、その時には、あれが何を言っているのかわからなんだ。魔力もなく、力もない、弱きものが強きものに従うのは当たり前であろう、としか思えなんだ。
したがのう。シューゴの物語を聞いておる内にな。思ったのじゃ。弱きものがそれでも、精一杯自分らしく生きられる、そのような世界があっても良いのではないか、とな」
「フネさん……」
「そのためになら、このフニーエ・スァンデス、魔族を守る剣にも盾にもなろう。いや、そのゆえにわらわは武勇を磨いてきたのじゃ。そう思えた。
シューゴの語る物語を聞いて」
「浜野さん……、きらりなお嬢さんヤンキ-とか、ケンシロウな一休さんとか、なんじゃそりゃ~! な物語ばかり作ってたと思ったけど。すごいや~、ペンが武器に勝っちゃったんだ~。
ところで、フネさんがそう思えるようになったお話って……?」
「うむ。……本当に笑わぬか?」
「? どうしてです? 笑うわけないじゃないですか」
「そうか。いや。トオコならそうじゃろうとは思っていたのじゃが……そのう。わらわはの、若い頃は『北の暴れん坊』と呼ばれたほど、武勇を誇る将であってな」
「そうなんですか?」
「うむ。いろいろと無茶もした。他領の魔王に殴り込みをかけて、配下ともどもぶっ飛ばしたり、三つ首の魔犬を二頭ずつ、尻尾をくくりつけて松明を背負わせて、人族の領地に放ったりのう。
お茶目な日々であったわ」
「それって、お茶目って言って良い事ですか(汗)」
「そんなわらわが戦や軍略の話ではなく、しっとりとした物語を好むなどと言うと、笑う者もおるのじゃ」
「ああ、……や、でも良いと思いますよ、あたしは。趣味とかそういうのは、好き好きでしょ」
「うむ。トオコならそう言ってくれると思った。実はな。わらわが好きなのは、」
「はい」
「『明日のジョー』じゃ!」
「…………はい?」
「健気な少年、ジョーが逆境の中、殴りあい、戦いあい、己の腕力のみを頼りに生きる物語じゃ!」
「そのどこがしっとり!?」
「ジョーは魔族と、人族との間に生まれた少年じゃ。ゆえに寿命は短く、魔力すら持たぬ身であった。儚く、弱く、しいたげられ。生きる道すら見つけがたい日々であったのじゃ。
魔力を持たぬ、しかも後ろ盾すら持たぬ身とあらば、強き者に隷属するか、妾となって生きるより他に道はない。しかし、ジョーはそのどちらをも選ばず。人族同士を戦わせ、娯楽とする、拳闘場の闘士となる道を選んだ……」
「は、はあ」
「その高みを目指し生きようとする姿は、われら魔族の涙を誘った!」
「ええ!?」
「たとえ弱くとも、その心は気高い。たとえ短き命でも、その志は美しい。しいたげられても、しいたげられても、起き上がる、
なんと美しく、そして健気な少年であろうか!」
「ええ!??」
「同じ境遇にある美しくも哀しいリキ・イッシーとの儚い友情! 傷つけあうしかできなかった二人! その果ての死に、わらわは号泣した!」
「えええ!!??」
「『真っ白に燃え尽きた……』そう言って息を引き取った少年の儚さには、今も涙があふれる! その時に思ったのじゃ。この世には、力の強さも、魔力の大きさも関係なしに、尊重されねばならぬ重要なものがあるのじゃと!」
「え、う、それは、いったい」
「『可愛いは正義』じゃ! ジョーも、リキ・イッシーも、まこと、健気で可愛らしすぎるぅぅぅぅぅ~~~~っ!!」
「えええええ~~~~っ!!???」
「笑いたい者は笑え! わらわは! この物語を聞いて以来! 愛らしいもの、可愛らしいものを愛でたくて愛でたくてたまらなくなったのじゃ! ジョーもリキ・イッシーも存分に愛でてやりたい! 愛でてやりたかったとも!
ゆえに、トオコ! そなたもわらわに愛らしい姿を見せてくりゃれ! ここにドレスがある!そなたに似合いそうなものを見つくろってきた!
さあ! 思う存分、愛らしい姿をわらわに見せてくりゃれ~~~!」
「ひょ、ひ、ひょえええええ~~~~~っ!!!」
その後、浜野さんから聞いた話では、『明日のジョー』は、こちらに来てからしばらくしてから話した物語で、できる限り原作通り、設定にもほとんど手を入れず語ったらしいのだが、
『魔力も待たないかよわい少年』(=ジョーや力石)が『見世物』(=ボクシングの試合って、こうとしか表現できなかったらしい)にされ、お互いに友情を意識しながら戦いあった挙句に『息を引き取ってしまう』という結末に、あまりにも健気、あまりにも儚い、そしてあまりにも哀れであると、聞いた魔族が全員号泣。
今ではジョーと力石は、儚げな美少年の代名詞、『明日のジョー』は元の世界の、一昔も二昔も前の、ベッタベタな少女マンガのような扱いの作品となってしまったらしい(あれだけ汗臭い、根性と殴り合いの物語が……)。
いくら常識が違うにしたって、それはないだろう。と、フネさんに着せ替え人形にされ、疲れ果てたあたしは思った。とりあえず、
立て。立つんだ、あたし。
下手をすればゴルゴ13も、魔族の常識では『健気で儚い美青年』だろう。




