第32話 温泉郷と伝説の城
ワシとティナは王都を出て、北の方角へと旅をした。
「見えて来たぞアッシュ。あれがクフィーンの温泉郷だ」
「ほー。あれがあの有名な――」
山間の集落に、立派な宿が立ち並んでいる。
この辺りは良質な温泉が出るという事で、世界有数の保養地となっているのだ。
ワシは来るのは初めてだが、確かに立派なものだ。
「先は長くなるかも知れない。折角通り道にあるんだ、まずは骨休めでもいいだろう?」
と、ティナがワシを見てにっこりと笑う。
「ああ、そうじゃなあ。若返ったとはいえ、最近戦い続きじゃったから――ちょっとゆっくりしたかった所じゃ」
見た目こそ10歳だが心はジジイ。
少し根を詰めると、疲れて休みたくなるのも仕方ないだろう。
「まあ、惜しむらくはアッシュが子供の姿な事だが……とは言え、私はちゃんと大人だ。若くてピチピチした私を存分に楽しんでくれ」
「な、何をして楽しめと……!?」
「それは……見るも良し、触っても良し、何ならそれ以上でも構わない。私はいつでも準備できているからな?」
ティナは妖艶な笑みを浮かべながら、自分の胸をぽんと叩く。
豊かな胸が、それに合わせてふるんと揺れていた。
隣にいるだけで香って来る甘い匂いや、この魅惑的な光景。
何故か昔よりも扇情的で、魅力的に思える。
それを気にする余裕がワシに生まれたからだろうか。
この年代のワシは、無力感と絶望感に打ちひしがれていた頃だったから。
「いやいやいや……今のワシはこの通りの子供じゃからなあ」
「そう。それだ、アッシュ」
「?」
「私達は同じ『生命の宝珠』の生命力に満ちた姿に若返るという効果を共有しているのにも関わらず、見た目の年齢が離れてしまっている。これはどういう事だと思う?」
「いやあ、それはワシも気になるんじゃが……分からんとしか」
「私の仮説だがな、恐らくお互いがそれぞれ、自分が一番良い状態だったと思う時期に戻ったのではないか、と。私は能力的にも全盛期で、何よりアッシュと一番愛し合える時期に。アッシュは15歳になって、【収納】のスキルを得る前に……きっと辛い事が多かったから、無意識に避けたのだと思う」
「そう……なのかも知れんなあ、確かに15歳になってからのワシは、無力感と劣等感に苛まれ続けておったよ。ジジイになって能力が花開いてくれたから、まだこうしていられるがのう」
「うん。まだアッシュは、人生を振り返ってこれで良かったとは思い切れていないのだと思う。だから無垢な子供に……と、なれば私のやる事は一つ――!」
ティナはワシをギューッと強く抱きしめる。
恐らくわざとだとは思うが、顔がティナの胸に埋もれて天国のような感触である。
「ど、どうするつもりじゃあ……!?」
「ふふふ……過去の事などみんな忘れて、とにかく目の前の私を抱きたいと思うくらい、滅茶苦茶に誘惑しまくってやるぞ。理性が吹き飛べば、欲を果たすのに適した姿になるさ、きっとな?」
「そ、そういうものなのかのう……!?」
「仮説だからな。分からないが試さないよりマシだし、どうせ何も無くとも同じような事をするから問題は無い。というより、せずにいられる自信が無い」
「『生命の宝珠』の出所を追うのはどうするんじゃあ?」
今【収納】効果でワシ等を若返らせてくれている『生命の宝珠』。
これの類似品や、あるいは手を加える事で、年代を変える事が出来ないかという考えに至るのは不自然ではないだろう。
そしてバーヴェルに聞く所によると、『生命の宝珠』は封印されて身動きの取れないバーヴェルの前に現れた、とあるダークエルフが置いて行ったのだそうだ。
名前も名乗らなかったそうなので、それ以上は分からないとの事だった。
ならば、ダークエルフに会って情報収集してみようというわけで、ティナがダークエルフの集落に心当たりがあるという北方に向かっていた。
そしてティナが収めていたラーシア王国の北側の国境付近に、丁度このクフィーン温泉郷があったのだ。国を完全に出る前に、寄り道もいいだろう。
「もちろん、そちらの線も追うぞ。だが同時に沢山の可能性を試す方が、私が早くアッシュの子供を授かれるだろう? そういう事だ、さあ行こう!」
笑顔のティナに手を引かれ、温泉郷に到着する。
早速宿を取りに街中を進んで行くのだが――
「うん……?」
「どうしたのじゃ? ティナ」
「やけに人通りが少ない気がするんだ。前に来た時はもっと賑わいが凄かったんだが」
「ふぅむ……? 何かあったという事かの?」
「確かめるためにも、宿に向かうとしよう」
というわけで、ティナの選んだ『石花亭』という宿に入り――
「すまない。二人で何日か泊まりたいのだが。部屋は二人で一部屋で構わない」
と、ティナが入口近くのカウンターにいる女将に話しかける。
「あら、御姉弟? 仲が良くて結構だねえ」
「いいや恋人同士、水入らずというやつだが?」
「ええっ……!? お姉ちゃんちょっとこんな小さな子に手ぇ出すなんて青田買いが過ぎる……! って言うかそれはまあいいんだけど……」
と、女将の顔が少々曇る。
「どうしましたかのう? ワシらは泊められんという事ですかの?」
「? 変な話し方をする子だねえ……妙に年季が入ってるって言うか」
「そこは気にしないでくれ。単に行儀がいいだけなんだ」
「ま、まあ、方言みたいなものでしての」
「そ、そうかい……? まあ、いいんだけどね――部屋も、別にあんた達には貸せないとは言わないよ? ただ……問題があるのはこっちの方でね? 今、いつも出てた温泉が止まっちゃってるんだよ――それでもよければ、是非泊って行っておくれ」
「む……!? 温泉宿なのに、温泉には入れんと?」
ティナの問いに、女将は大きくため息を吐いて頷く。
「そうなんだよ――ある日ぱったり、ね。あたしゃ生まれてこの方ずっと、この温泉郷にいるけど……こんな事は初めてさ。ホントに困っててねえ」
「なるほど、人通りが少なかったのはそのためという事か……?」
「うん。そうだね。ウチだけじゃなく他所も止まってるからねえ――このままじゃ、クフィーンの宿が全部潰れちまうよ」
憂鬱そうに言う女将。ティナがワシに耳打ちしてくる。
「アッシュ。温泉は出ないようだが、ここに宿を取っても良いか?」
「ああ、ワシは構わんぞい?」
「それから、暫くここに留まりたいんだ」
「原因を調べるのかの?」
「ああ。ここはラーシア王国の一部だ。私も引退したとは言え、元は女王。少々見過ごせないんだ――すまない、せっかく何も考えずにイチャイチャしたかった所を」
「いや……そもそも温泉を楽しむんじゃなかったのかの――まあええが、ワシも手伝うぞい。ティナの問題はワシの問題じゃからの」
「おおっ! アッシュからの愛を感じて私は嬉しいぞっ♪」
と、ティナは嬉しそうな笑顔を見せる。
「では女将。暫く厄介になろう!」
「そうかい!? どうもありがとう、ゆっくりして行っておくれ!」
「もう一つ聞いておきたいが、誰か国の役人が異変を調査したりはしていないのか? 最新の調査状況を知りたいんだが」
「いや……王都に使いは出したって聞いたけど――」
王都は王都で、あの様子だった。
対応が遅れているのか、それともその使いに途中で何かがあったのか――
「だけど、ここの冒険者ギルドでは、調査依頼を出してるよ。一番詳しいことが分かるのは、冒険者ギルドじゃないかな」
「なるほど――後で行ってみるとしようか。な、アッシュ」
「そうじゃのう。そうしてみよう」
ワシとティナは部屋に入って少し休んだ後、この郷の冒険者ギルドに向かった。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『続きをがんばれ!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)から評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




