第31話 マルティナと屍竜使い21
それから――
ワシ達は暫く、そのまま王都に滞在した。
破壊された王城の復旧を手伝うためだ。
一連の騒動の被害としては、王城の半壊以外は特に目立った物は無い。
ティナがいち早く避難を促し、人々が王都の外に逃げ出せたのが良かったようだ。
今は何事も無かったかのように、街には人が戻り、日常を取り戻している。
そして王城の復旧の方も、かなりのスピードで進んだ。
バーヴェルや、その配下のドラゴニュート達のおかげだ。
力自慢で空も飛べる彼等が、復旧作業で大活躍だった。
ドルミナが倒されたため、その力でかりそめの命を与えられていた彼等は、本来ならば存在し続ける事が出来ないはず。
が、【屍竜使い】のスキルはワシが【収納】したため、その力はこの世に遺されたことになる。
なので、彼等はそのまま存在し続けていた。
バーヴェルの子分達は性格も凶暴化していたようだったが、それも本来の性格に戻す事が出来、喜んで王城の復旧作業を手伝ってくれた。
バーヴェルがドルミナとの戦闘で負った大怪我も、ワシの【屍竜使い】のスキルで治療する事が出来、完全に元通りだった。
そして王城の復旧にもメドが立ち、ワシ達はその日を迎えていた。
勿論、王都を出て冒険に旅立つ日の事だ。
「アッシュ。アッシュ。そろそろ起きろ」
「んぅ……もう朝かのう――」
もう少し寝ていたい欲求はあるが、思い出す。
そうだ、今日はこの王都から旅立つ予定の日だ。
ぱち。
目を覚ますと、ティナの嬉しそうな笑顔がすぐ間近だった。
「おはよう。アッシュ」
「おおティナおはよう。今朝も顔が近いのう」
「うん? 私がキスして起こすのを待っていたんじゃないのか?」
「いや、そういうワケでは……それにどうせ――」
「そうだな。朝晩一回はな――」
ちゅっ。
とワシにキスを一つして、ティナはワシの手を引いてベッドを出る。
「朝食の準備は出来ている。食べて最後の確認をしたら、早速出発だ! アッシュと冒険なんて、50年以上ぶりだな! ワクワクする!」
ティナはすこぶる上機嫌である。
「しかしティナ、本当に良いのかの?」
「何がだ、アッシュ?」
「ティナはこの国の女王じゃ。それをワシが連れて行ってしまうのは……の。ワシの身勝手かも知れんと思ってな」
城の人達は、ティナが無事だった事を本当に喜んでいた。
若返った事には驚いていたが、それによって健康不安が無くなるならいい事だと、それも喜ばれていた。
それらはティナが、人々に慕われている証。
人々に必要とされている証だ。
「身勝手でいいんだ。アッシュにとって私は、そんなに簡単に諦めの付く存在か?」
「いや、そうではない。ただティナが、無理をしてワシに合わせておらぬかと思っての」
「全くそんな事は無いぞ。今まで散々国のためにつくしたんだ、もう私は引退して自由に生きていいはず……その時のために、ちゃんと後継ぎも用意している。余計な気兼ねはせずに、私を連れて行ってくれ。それが私にとっての幸せなんだ」
「そうか――」
と、すすすっとティナがワシの目の前にやって来る。
「あまりうじうじしいてるようなら、また私のキスで元気づけようか?」
「いや、大丈夫じゃ」
「何だ、せっかくのチャンスだったのに……」
と、残念がるティナに、今度はワシからちゅっ、と一つ。
「……!」
「ありがとう、ティナ。何十年もワシを待っていてくれて……本当に感謝しておる」
「うへへへ……アッシュからしてもらうのは、また格別だぞ」
ワシは真面目に言ったのだが、ティナはニヤニヤして余り聞いていない様子だった。
ともあれそのまま準備をして、ワシらはいよいよ王城を出るべく城門へ。
エルフィン陛下や宮廷魔術師のエリカ殿をはじめとして、多くの者が見送りにやって来てくれた。
「陛下――やはりどうしても行かれてしまうのですか?」
「当り前だ。それに私は元陛下。今の陛下はお前だぞ? しっかりしろ」
「し、しかし私にはまだ荷が重く……若返られて健康に問題が無くなったのであれば、もう一度王に復帰頂いても――」
「馬鹿を言うな。私はアッシュと冒険に出る。元々アッシュと冒険する途中の道草で、女王をやっていたに過ぎん。本来の私に戻らせてくれ」
「そうですよ! 何十年も前の約束をお互いに守って、今一緒になられるなんて素敵じゃないですか! ロマンチックです! せっかくのお幸せの邪魔はしてはいけませんよ!」
と、エリカ殿はエルフィン陛下に発破をかけていた。
エリカ殿はティナが旅立つことに肯定的なようだ。
「はははっ! そういう事だ! エルフィン、エリカ。お前達は私が見い出した【聖戦士】と【大賢者】の後継者。二人力を合わせれば、決して私に劣らず上手くやって行けるはずだ。後の事は頼んだぞ」
ティナはエルフィン陛下とエリカ殿の肩を、ぽんぽんと撫でる。
「はい……! お言葉、肝に銘じて――!」
「身寄りのない私達を引き取って、これまで育てて下さり、ありがとうございました!」
二人は涙ぐんで、ティナに深々と頭を下げていた。
「では行こう、アッシュ!」
「おう!」
ワシとティナが城門を出ると、バーヴェルやドラゴニュート達が待ち構えていた。
彼等も、ワシとティナを見送ってくれようというのだ。
「アッシュ! マルティナ! いよいよ門出だな」
「おうバーヴェル。色々世話になったの。礼を言うぞい」
「お互い様だ。そなたがドルミナの力を奪い取ってくれたおかげで、我はまだこうして存在できているのだからな」
「そうっス!」
「俺達も正気に戻れたっスから!」
「感謝してるっス!」
バーヴェルの配下達は非常に能天気で明るく、気のいい者達である。
「私からも礼を言うぞ。お前達のおかげで、城の修復が実に早く済んだからな」
「構わんさ。あの程度、朝飯前だ」
「しかし、お前達はアッシュの眷属になったのだろう? 一緒に来ないのか?」
バーヴェルはふっと笑い、静かに首を振る。
「そんな野暮はせんよ。二人水入らずで、旅を楽しむがいい。なあに、我等はそなたが言うように、既にアッシュの眷属。離れておっても呼びかければ通じるし、召喚する事も出来よう。必要があれば使ってくれればよい」
「図体の割に気の利く奴だな――ならば思う存分、アッシュとイチャイチャさせて貰うとするぞ」
と、ティナは感心している。
「お、おう……」
バーヴェルは少々気恥しそうだ。
ワシも堂々とそう言う事を言われると、少し恥ずかしい。
「だが、ではお前達はこれからどうする? ラーシアに残るのならば、エルフィンに話を通しておくが……?」
「いや、あまり人里に長居をしては、いずれは望まぬ諍いが起きよう。どこか静かに暮らせるところを探して、腕を磨いておくさ」
「そうか――」
「では、我々もそろそろ行くとしよう。ではな、アッシュ、マルティナ!」
ばさり、とバーヴェルの翼がはためいて宙に舞う。
「何かあったら呼んでくださいっス!」
「何も無くても話し相手になるっスよ!」
「逆に何か美味いものがあったら食わせて欲しいっス!」
ドラゴニュート達もそれに続いて行った。
「……では私達も行こうか、アッシュ!」
と、ティナはワシの手をぎゅっと握った。
ワシらの見た目は、ワシが10歳でティナが17、8歳くらい。
こうしていても、恥ずかしいカップルではなく、仲のいい姉弟だ。
そもそも『生命の宝珠』の力を『一蓮托生』で共有しているのに年齢差が生まれるのは謎だ。ワシが10歳ならティナも10歳になりそうなものを。
が、お互いに健康状態に不安がある老人よりはいいだろう。
「ああ、そうじゃの! 特に目的も無い、気ままな旅じゃ!」
「いやアッシュ、私としては目的はあるぞ?」
「うん? 何じゃ?」
「今の私達は、アッシュが子供で私が大人だろう?」
「ああ、そうじゃな」
「これを、もう少しアッシュが成長した姿にする方法を探すんだ! 今のままでも可愛いくていいが、やはりもう少し大人の姿になって欲しいぞ!」
「何故じゃ?」
「決まっている、そのままではまだ私達の子供を作れないだろう? 早く若い男女になって、私を孕ませてくれ!」
「ははは……ティナ、あまりそう言う事は大声で言わんでくれ」
ワシらの歩く場所は、王城から延びる大通り。
ティナの発言が聞こえた人達が、ぎょっとしてこちらを見ていた。
ここまで読んで下さりありがとうございます!
『面白かったor面白そう』
『応援してやろう』
『続きをがんばれ!』
などと思われた方は、ぜひ積極的にブックマークや下の評価欄(☆が並んでいる所)から評価をお願い致します。
皆さんに少しずつ取って頂いた手間が、作者にとって、とても大きな励みになります!
ぜひよろしくお願いします!




