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黄金のメルディーラ 〜魔石で大切な人を楽にしたい〜  作者: タルミア


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76 第八領地

 ヤーネットとのお茶会が終わり、家に帰った。

 そして、一週間後に領主の館へ行こうとしたが、雪が降り始めたので、領主の館に行くことを断念した。


「これから吹雪ですね、明日にはたくさん積もってるかもしれません」


 暖炉の音を聞きながら、カリーレがそんな話を始めた。雪というのは見るのが初めてだったので、何となく気分が高揚している。


「雪は冷たいのよね、たくさん集めたら何ができるのかしら」

「雪だるまができますよ」

「それは何?」


 カリーレは両手をお腹辺りで丸い雪玉と説明してくれる。それを二つか三つをできた雪玉の上に置くことで雪だるまとやらが完成すると言った。


「なら、明日が楽しみね! もう夜だから寝るわ!」

「はい、お休みなさいませ」


 猫型照明器具の灯りを消し、私をベッドへ寝かせるとカリーレは部屋から出て行った。

 天蓋を閉められたベッドの中で、私は眠れないでいる。


「楽しみだわぁ……どれくらい大きな雪玉を作ろうかしら」


 拳ぐらいの大きさから、カリーレ達ほどの大きさの雪だるまを想像しながら、その日は眠りについた。

 その次の日の朝に、私はいてもたってもいられずに飛び起きた。誰も部屋にはいない中、私は一人で窓のほうへ駆け寄り外を見てみる。

 世界が白一色に染まり、日の出をさらに輝かせていた。


「ちらほら降っているけれど、それがもっと綺麗ね……」


 所々に不規則に降ってくる雪を眺めながら、私は窓に手をつけている。

 もっと近くで見たい。そう考えながら湯浴みの時間を待っていた。

 しばらく眺めたあと、見るだけじゃ飽きてきたので、毛布に包まりながら皆が来るのを待った。さすがに冬の朝は寒かった。

 扉を優しく叩く音が部屋中に響き「失礼します」とレオネットの声も聞こえた。


「メルディーラお嬢様、起きていますか?」

「もちろんよ! 早く外へ行くわ!」

「落ち着いてください。カリーレ、マミーユ。なるべく早くしてあげてください」

「かしこまりました」


 早速私は湯浴みをはじめ、私の身をもふもふの服に身を包み込み、早速外へ出た。

 庭にはカリスティーとリュンレルテ、そしてレリアナートまでもいた。


「おはようございます、メルディーラ様」


 一番最初に挨拶をしてくれたのは、カリスティーだ。レリアナートもそれに続き「メルディーラ様、良い朝ですね」と言ってくれる。


「メルディーラはよく眠れたの? わたくしは雪が楽しみで眠れなかったわ……」

「わたくしはよく眠れたわ、今日のためにね!」


 自信満々にそう答え、リュンレルテは少し困惑した顔になったけれど、ニコッと笑顔を見せてくれる。

 早速雪を素手で触ってみる。


「つ、冷たい……」

「それはそうよ、雪だもの」


 こう思うと、この雪がどのようにできているのか観察したくなる。家の中に持っていこうとすると、レオネットに止められたので、渋々庭で観察することにした。

 両手に盛りだくさんの雪を集め、目の中に入りそうな程に雪を近づけてみる。が、白すぎて全く見えなかった。


「メルディーラ、見てみて。握ると少し固くなるのよ!」


 リュンレルテは両手で握った歪な形をした雪玉を作り、見せてくれる。私も早速真似して、歪な形をした雪玉が完成した。


「これ、作ったのはいいのだけれど、どうするの?」

「平民では、投げ合って遊ぶ事がありますよ」


 カリスティーにそう教えてもらい、リュンレルテと目を合わせた。


「メルディーラ、ここで会ったのも百年目、ね?」

「そうね、倍で返してあげる」


 その瞬間、私たちの歪な形をした雪玉が宙を舞う。それは放物線を描きながらお互いの頭に当たり、弾けて消えた。


「これは掃除する心配はないわ!」


 そう思い、たくさんの歪な雪玉を作り、お互いに思い思いに投げあった。

 お互いが体力をなくし、その場で座り込んで息を切らしている。


「なかなかやるわね、メルディーラ……」

「そっちこそ、雪玉の命中精度を上げてきたわね……」

「何を言ってるんですか、二人共全弾当たってましたよ」


 どうやらカリーレから見た雪玉合戦は全弾命中だったとの事。私の精度は完璧だったのだ。

 私とリュンレルテは、お互いに勝ち誇ったような顔をして見つめ合った。その瞬間に何だか笑いが湧き上がる。


「お嬢様、雪だるまを作りましょうか」

「マミーユ、それはどうやるの?」

「まずは雪玉を作り、その後雪の上で転がすだけです」


 少し休憩したあと、マミーユに言われた通りに歪な雪玉を作って転がした。

 雪が雪にくっつき、どんどんとその玉は大きくなっていき、やがて動かせないほど大きくなってしまった。


「私の身長の半分にも満たないのに……」

「私が何とかしますよ、もうひとつ作って貰えますか?」

「もちろん! あとはカリーレに任せるわ!」


 庭の出入口の隣に、リュンレルテと私が作った雪の塊が置かれ、もうひとつ作った雪玉もその上に置かれた。

 あとは小石で目と鼻を作り、長くてやわらかい木の枝で口を作った。これがものすごく楽しい。


 皆で笑い合いながら雪だるまを作り、隙を見てカリーレに雪玉を投げてを繰り返して遊んだ。


「メルディーラ様、お食事の時間ですよ」


 レリアナートからそう声がかかり、たくさん身体を動かしたのでお腹もものすごく空いている。

 私は彼に駆け寄り、作った雪だるまを自慢しまくった。


「ふぉふぉ、これは傑作ですな。お食事の後にでもゆっくり鑑賞させてもらいたいです」

「なら、食べた後にこだわりを教えてあげるわ!」


 レリアナートが興味を示してくれたことに、半ば興奮気味で言った。

 ご飯を食べ終え、雪だるまをレリアナートに鑑賞させた後は魔石研究を始めた。


「楽しかったわ、春になると溶けちゃうのがもったいないわね」

「雪はいずれ消えてしまいますからね。永久保存できたら、いつでも鑑賞できますね」


 マミーユの言う通りだ。ならば私にできることは、冷却魔道具を作り終え、雪だるまを保存させる事が目標となった。

 早速実験に取り掛かり、色々とあれこれを繰り返していくうちに何週間も日を跨いでいた。

 特に進展はなく、窓をガタガタと風で激しく揺らしている時期となった。猛吹雪だ。


「窓も全て閉まっているし、空気が悪く感じるわ」

「メルディーラお嬢様の言う通りですね、どこかで換気ができればいいのですけれど」


 そんな他愛もないレオネットとの雑談をして、雪解けの季節になって行った。もう、王都に行く日が着々近づいている。

 長いと感じない冬が終わり、雪は残っているがほとんど砂肌が見えかけている。


「もう、時間ね」


 猛吹雪の間、レオネットたち従者は引越しのための荷造りをしていたため、私のお着替え以外は終わっている。

 すぐに出立できる準備が整った頃、ブリジストが私の家へ訪問した。


「この地図を見てみなさい」


 応接間の机に大きく広げられた紙は、王都までの道が書かれた地形地図になっている。


「ここが私たちの領地、第八領地だ。雪山を超えたところに王都がある」

「じゃあ、また雪遊びができるのね」

「残念だが、この山を真っ直ぐ行くことはしない。ドラゴンが住まう場所のなので、迂回する」


 ドラゴンも見てみたいし、山がどうなっているのかも気になる。

 まるで冒険者になったような気持ちになり、なんとなくワクワクしている自分がいた。


「喋るドラゴンが見てみたかったのに、仕方ないわね」

「それはおとぎ話だけの話だ。本当なのかどうかなんて誰もわからん」


 結局誰かが誇張した話かもしれない、とブリジストは言った。けれど、喋るドラゴンを求めるのは、ロマンというものかもしれないのだ。一度でも会ってみたい。


「ということで、迂回する。到着まで一ヶ月かかるから、用心するように」

「……はぁい」


 ドラゴンも良いが、皆と度に行くのも楽しみにしていた。昔に一度旅人になってみたいと考えたけれど、お風呂に入れないからと断念したことがあったけれど、今回は本格的な旅になる。

 またもや私の気分は高揚しだし、興奮気味になっていた。


「皆に別れの挨拶をしておくように、出立は三日後だ」


 そう言い残して、ブリジストは私のお屋敷を出ていった。

 にしても、三日後というのが早いと思う。準備はもう整っているけれど、急いでいるように見えた。


「カリスティー、マレリルズを呼んで」

「かしこまりました」


 そのままカリスティーは平民街へ飛び立ち、マレリルズたちを呼びに行った。

 特に挨拶しておくべき人はいなかったので、マレリルズだけだと思う。できれば、結婚した元冒険者二人ともお話はしたかったけれど、来れるのはサンクルーズだけのようだ。


 次の日に、マレリルズ達がやってきて、応接間へ通した。

 マレリルズとボナ、そしてマレリルズの息子のヒュールまでもいる。

 ヒュールは思ったよりも背が伸びており、水色の髪は全て後ろに流していた。前よりも大人になった気がする。

 そして、その後ろには元冒険者のサンクルーズとバルスクが立っており、私の顔色を伺っていた。私の後ろにはカリーレとレオネット、それからカリスティーがいて、他の人たちは荷物の最終確認に出ている。


「久しぶりね、サンクルーズ。ササターニャは元気かしら?」

「あ、はい……今は体調不良で出られませんが、家で元気にやっています」


 思ったよりも敬語ができるようになっていて、正直驚いた。多分、散々マレリルズに教わったのだろう。

 サンクルーズに笑顔で返し、バルスクに目をやった。彼は姿勢を伸ばし、ゴクリと息を呑んだ。


「バルスクも元気そうでなによりよ、無茶な依頼を次々に作ってくれてありがとう」

「いいえ、私……的にもやりがいはありました。剣や盾だけだと正直飽きてきますので……」

「そう、それなら良かったわ」


 そして、ボナやヒュール。ヒュールに関しては、平民街の散歩の時に会ったと思う。こんな短期間でこんなにも成長するとは、男の子とは恐ろしい。


「ボナは女中らしくしっかり働いていて、とても良かったわ。もっと励むといいわ」

「は、はい! ありがたきお言葉でございます」

「ヒュールは大人になったわね、あまり会っていないけど、最初の頃の貴方をしっかり覚えているわ」

「できれば忘れていただきたいと思っています」


 その返事には笑顔で返し、有耶無耶にしたままマレリルズに向き直った。マレリルズは穏やかな笑みをして、私をじっと見つめている。

 こう思うと、マレリルズにはたくさんのお願いや、商談。そして魔道具関連でたくさん勉強になった。一番恩を感じる相手だ。


「マレリルズ、あなたのおかげで魔石研究が捗ったわ。本当に感謝している」

「いえいえ、私とてまだまだですし、何よりたくさん稼がせてもらいました」


 ニヤッと笑いながら悪い顔をするマレリルズも、相変わらず利益の事ばかり考えている。だけれど、それがものすごく助かったところは否定できない。

 王都へ行っても、この人のような商人に出会えればと思う。


「今日は挨拶だけなの。皆、本当にありがとう」


 私はその場で立ち、スカートの裾をつまみ上げながら頭を下げた。

 マレリルズ達は一瞬驚いていたけれど、マレリルズも立ち上がり、皆と一緒に頭を下げた。


「私たちも、本当にありがとうございます。お身体には十分お気をつけください」


 その言葉を聞き届け、マレリルズ達は帰っていった。

 帰り際にサンクルーズがカリスティーを心配していたが、彼女は真剣な目をしてサンクルーズに一つ頷いていた。

 どんな意思が通じたのかは知らないけれど、カリスティーは私が守るととっくの昔に決めているので、安心して欲しいと思う。


 馬車が遠ざかるところを見送り、出立当日になった。


「メルディーラお嬢様、馬車に乗らないと遅れますよ。皆は既に後列の馬車に乗っています」


 玄関から出ると、レオネットが金ピカの聖女専用馬車の扉を開けながら待っていた。

 私は何も思い残すことは無いと思っていたけれど、いざ馬車に乗り込もうとしても足が動かない。後ろを振り返り、まだ開かれたままの玄関扉の中を見てみる。

 今までの思い出が、全てここに詰まっているような気がして、何となく離れ難いのだとすぐに理解した。


「大丈夫です。私たちがついていますから」


 いつの間にか隣にいたマミーユに頭を撫でられる。私もこんな所でうじうじする訳にもいかない。なんたって、聖女になるのだから。


 そう思いを決して馬車に乗り込んだ。


 領主の館へ着き、馬車から降りると、領主様やヤーネット、それからリーレルトとサイベルと騎士の皆が私を出迎えてくれる。


「皆……」

「聖女様! お元気でいてください!」

「私たちは忘れませんよ!」


 騎士たちからそんな声がかかり、私はなんだか背中を押してくれたように感じた。それが何となく、心強く感じる。

 ヤーネットは私の方へ歩み寄り、私の手を握って寂しそうな顔をしていた。


「メルディーラ……いえ、聖女様。二度しかお茶会を開いていないけれど、王都の魔術学院ではたくさんお茶会を開きたい」

「ええ、必ず」


 涙を指で拭ってあげながら微笑みを向けると、嬉しそうに喜んだ。そこへ領主様は話の間に入った。


「メルディーラ、君の異常な行動はよく耳にしている。王都では程々にするといい」

「それは、感情を隠さなくてもいいという意味と受け取っても?」

「私は何も知らない」


 ここで何かを答えてしまえば、領主様の責任を負うことになってしまうため、答えられないのだ。それは理解しているし、領主様も大変だなと思う。


「メルディーラは本当に行っちゃうのか?」


 リーレルトは口を尖らせながら話の間に入ってきた。次会った頃にはきちんとした口調で話してもらわないといけない。


「リーレルト様、お元気でいてくださいね」

「ああ、メルディーラも元気でいてくれよな、私が大きくなれば一対一の決闘を申し込む」

「あら、聖女様に楯突く気ですか?」

「なかなか言うではないか……」


 思えば、リーレルトとのお茶会もそんなにしなかった。また会えたら、ヤーネットと一緒にお茶会を開きたい。そう思いながら私は踵を返し、馬車に乗り込んだ。

 そして、ブリジストも同じ馬車に乗り込んでくる。


「あら、一緒なのね」

「嫌なのか?」

「喧嘩相手としてはいいかもしれないわ」

「君が、私に?」


 最後の言葉を無視し、外にいるリュンレルテを見てみる。彼女は領主様の従者に塗り薬の入った灰色の小壺を渡しており、身振りで使い方を教えているのがわかる。

 しばらくした後、リュンレルテは馬車に乗り込み、私たちは出発した。


 思えば、この領地は楽しかった。一人で脱走した時のような安心する場所も、向こうに着けば遠い場所となる。

 それが何となく、この領地を離れたくないという気持ちが大きくなっていく。


(私は、皆のために。王都で魔道具を広げていくよ)

ここまで『黄金のメルディーラ』を読んでくださり、本当にありがとうございます。

これにて第一部『貴族令嬢編』完結です!


書きたいことが次々と増え、気づけば長い物語になりました。メルディーラたちの日々を、少しでも楽しんでいただけていたら嬉しいです。

ブックマークや評価、リアクションも、書き続ける励みになりました。ありがとうございます。


第二部『王城聖女編』は、11月16日に投稿を開始します。

住み慣れたお屋敷を離れ、王都へ向かうメルディーラたち。その続きを、また皆様にお届けできるよう準備を進めていきます。


少しお時間をいただきますが、引き続き見守っていただけたら嬉しいです。

第二部でも、よろしくお願いいたします!

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