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グレゴール・キング殺人事件  作者: ナツ & Kan
55/64

55 父さんのところに帰るんだ

 階段を急いで降りて、廊下に出るドアの前で荒い息を潜めた。そしてこれからするべきこと、してはいけないことを考えた。少なくとも、あいつらに捕まるようなことは最悪だな、とティムは言った。

 

 その通りだ。捕まったら自殺は難しい。舌を噛みきることは痛くてできそうもなかった。きっと時間も掛かるし、捕まったら途方にくれてそんな余裕もないだろう。くそ、と僕は思った。もっと時間がほしい。一人でくつろげる空間が……。

 

 「ある」とティムは間延びした声で言った。

 

 「どこに? 」

 

 「父さんのところに帰るんだ」

 

 「なるほど」と僕は呟いた。「……部屋に戻るのか」

 

 ティムはこくりと頷いた。それから羽を震わせ、赤い目をすりすりと前足で擦った。彼は眠いのかもしれない。

 

 「はやく行こう」と僕は言った。

 

 しかし、ティムはそれに同意はしてくれなかった。ぴたりと肩に停まっているだけだ。彼はドアの隙間からじっと廊下の先を覗いていた。

 

 「まずいぜ、兄弟」とティムは言った。「あの女の私立探偵がやって来る。エレベーターを使ったらしい。歩幅からして、あと20秒後には対面しちまう」

 

 「一人か? 」と僕は訊いた。

 

 「ああ」と彼はくつくつと笑って、気が狂ったように羽を上下に振った。「あいつはいつも一人だ」

 

 「これはチャンスかな? それとも――」

 

 「チャンスさ。あいつを利用してやれ」

 

 「でも、どうやって? 」

 

 「さあ? 」と彼は言った。「そいつはわからねえ。俺にわかることは兄弟があいつを利用できるってことだけさ。その結果だけが、直感的にわかるんだ」

 

 彼はため息をつくように言った。

 

 「まあ、兄弟。俺みたいなちっぽけな蝿に頼らず、じっくり考えてみろや。そのでっかい脳ミソはなんのためにあるんだよ? 」


 僕は顎に手をやって、メイのことを考えた。彼女は何が好きで、何が嫌いか。年齢や国籍、性別、外見的特徴。全ての彼女についての情報を再確認しようとした。彼女は僕を嫌ってない。(少なくとも、根来と比べてだが)そして男の僕よりも力は劣るだろう。なにかあっても真正面から闘わず、こちらから不意打ちで攻めれば、さすがに打つ手はないはずだ。この二つは利用できる気がした。もっとも、後者の方が僕にとって魅力的だった。それからそれをどのように活用するかを検討した。

 

 僕は答えを得た。

 

 あいつを人質にするべきなのだ。

 

 「兄弟」とティムは言った。「さすがだ」

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