44 三人でお酒を飲んだのは
それから僕は、ずっと気になっていたことをメイに訊いた。
「これから、どうなさるおつもりですか? 無実を証明するとしても、あなたは事件の詳細をよく知らないでしょう?」
メイはさも可笑しそうに笑いながら、それでいて、少し腹立たしそうに話しだした。
「それが、あの根来っていう刑事は口が軽くてね、鎌をかければ、知りたい情報がいくらでも手に入るんですよ。聞いてみりゃ、まったく馬鹿馬鹿しい話です。私が犯人だという根拠なんてどこにもありゃしない」
「そうですか。それで、あなたは、この事件をどのように見ているのですか?」
「どう見ているかって? そりゃあ、長倉 理彩が犯人なわけはないでしょうね。彼女ならもっと上手いやり方がいくらでもあったろうから」
「じゃあ、誰が……」
僕は、どこまで感づかれているのか、不安になってメイを問い詰めた。
「そうですね。ちょっと考えてみましょう。まず、犯人は長倉 理彩に気づかれずに室内に侵入している。ドアの鍵をこじ開けたような痕跡はない。つまり、清蔵さん本人が開けたとしか考えられない。ということは答えは簡単、清蔵さんと顔馴染みの人物が犯人です」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
僕はこの発言を聞いて、さすがに焦った。
「父は精神が不安定だったんだ。事件の前日だって、三人で酒を飲みましたが、やはりどこかおかしかった。思い込みも激しかった。朦朧とした父にドアを開けさせることなんて誰にだって容易だったはずですよ。あるいは、ボーイの振りをして、ドアを開けさせた、とかね……」
メイはさも面白そうにある言葉を繰り返した。
「事件の前日、ね」
メイは、再び全てを見透かしたように僕を見つめると、わざとらしく語りかけてきた。
「三人でお酒を飲んだのは、事件当日の夜だったと聞いているのですが?」
僕は最初、何を言われているのか、よく分からなかった。事件当日の夜に三人で酒を飲んだ? 事件当日の夜には、すでに清蔵は殺されていたはずじゃないか。
「なんですって? そんなことはない。事件の前日の夜ですよ。あなたもおかしなことを仰いますね。事件の当日の夜にどうして父が酒を飲めるというのですか?」
「なるほど。それでは、もうひとつお聞きしますが、事件の起こった時刻を覚えていますか」
6時頃と言おうとして、はっと息を呑んだ。そうだ。事件が起こった時刻は11時半と誤認させているのだ。だから、あの三人でお酒を飲んだのは「事件の前日」ではなく、「事件の当日」に当たるわけだ。いけない。どうにかして、上手く言い逃れないといけないだろう。
「なるほど、事件が起こった時刻は11時半ですね。それならば、三人でお酒を飲んだのは、事件当日に当たるわけですねぇ。いや、僕も死体を発見した早朝の印象があまりにも鮮明なものですから、つい前日だ、などと……。いやぁ、それにしても、ははは、メイさんは時間の認識が正確な方ですね。日本の鉄道会社みたいだ。あはは」
僕の笑い声は、乾いていて、どこか空々しかった……。




