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44話・幸せの青い鳥


「もうね、わしも嬉しくて仕方ないのです。成長を見られなかったのは残念ですが、わしにこんなに立派な息子や、優しい嫁さんもいて、年をとっても可愛い妻がいる上に、愛らしい孫までいた。神さまに感謝してもしきれませんよ」



 泣きそうな顔をするステパンに、「爺ちゃん。それぐらいのことで泣くなよ」と、ダニールが声をかける。それを微笑ましく見守るカーチャに、スターシャ。スターシャは、夫の涙にもらい泣きしそうになっていたのを、私と目が合い誤魔化すように発破をかけた。



「さあさ。これから忙しくなるよ。ぼうっとしていないで、あんたたちはさっさと次のパンを仕込む」


「はいはい。行くよ。爺ちゃん」



 父子が二人で店の奥に消えていく。そこには何の蟠りもないようだった。長いこと家族と切り離されていたステパンは、すぐに家族に受け入れられたようで、それが自分のことのように嬉しく思えた。店の窓には青い鳥が置かれていた。



「あの時の青い鳥?」


「ああ。それね、そこに置くことにしたんですよ。実はその鳥を窓辺に婆ちゃんが置いたら、爺ちゃんが帰って来たんですよ」


「カーチャは幸運を運ぶ青い鳥だって言うけど、たまたまだよ。窓辺に置くようになったらお客さんも今まで以上に増えて来たので有難いけどね」



 カーチャが興奮気味に言えば、スターシャが苦笑いをした。そう言いながらも満更でもない様子だ。



「ステパンさんは石工のお仕事は辞めたのですか?」


「家族と一緒にいたいから、石工の仕事はもう辞めるって。でも、孫たちにせがまれて小鳥を作っていたら、夢中になりすぎて沢山作り過ぎてね。それを見たご近所さん達が欲しいと言ってくれているから、近いうちに旦那の作った作品の展示販売も考えているよ」



青い鳥はスターシャ一家に、幸せを運んできたようだ。青い鳥を眺めているとキラリと輝いたような気がした。



「今日は何にするかい?」


「ノアール、何がいい?」


「そうだな。ロールパンと、チョコレートパイを。サーラは?」


「私も同じのを」


「じゃあ、ロールパンとチョコレートパンを二つずつくれ」



 ノアールと顔を寄せて、商品棚を見ていたらスターシャが「おや、まあ」と、声を上げた。何だろうと思って見返すと、彼女は気まずそうに咳ばらいをし、嫁のカーチャが袋詰めした商品を笑いながら手渡してきた。



「お二人さんは随分と仲が良くなられましたね。誕生祭の影響かしら?」


「……!」


「お二人を見ていると、私達の付き合い初めの頃を思い出して」



 カーチャが微笑む。照れ臭く思われて頷きかけると、スターシャが言った。



「ああ。あんた達も確かに見ていて、ちょっとじれったい感じだったよ。お互い知らない仲じゃないのに、わざわざさん付けで呼び合っていて、手を繋ぐにも相手の承諾を貰っていたからね」


「婆ちゃん」



 姑から若かりし日のことを暴露されて、カーチャが軽く睨むとスターシャは笑った。



「そんなあんた達を見て、あたしも旦那とのことを思い出して甘酸っぱい思いがしたものさ」



 スターシャにも、そんな過去があったようだ。懐かしむように言うスターシャを見ていたら、当たり前のことだが、彼女も初めからお婆ちゃんだったわけではなく、娘時代があって、その中で恋い慕う相手がいてもおかしくはないことに気が付いた。


 結婚して夫のステパンは行方知れずになっていたが、彼女の心に残る夫の姿を胸に、息子を育てあげて今まで頑張ってこられたのだろう。そのスターシャの想いが報われて良かったと心から思った。


 スターシャらに見送られて店を出ると、窓に一匹のヤモリが張り付いているのが見えた。後からノアールに教えてもらったことだけど、ノースデン山の麓の街では、ヤモリが付く家は縁起が良いとされているとか。やもりは家を守る存在として石工達には大事にされているそうだ。ノアールは私が手にしていたパン屋の紙袋を持ってくれた。


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