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16話・リョクショウさん


「リョクショウとやら。おまえは何者だ? ここはアイオライト公爵家が所有する山。許可なくここにこのような住まいを構え、何を企んでいる?」


「企むとは人聞きの悪い。わらわはお館さまに頼まれてこの山を守ってきた」


「お館さま?」


「竜胆さまじゃ。わらわは親に捨てられたのをお館さまに拾って頂いた。お館さまは、わらわの育ての親。そしてわらわはお館さまの後を継いだ」


「竜胆の後を継いだ?」


「そうじゃ。後を託されたのじゃ」



 ノアールに相手にされなかったせいか、リョクショウは緑色に染めた長い爪先を弄び、つまらなそうに答えた。アコダが聞いた。



「先ほどからその竜胆の姿が見えないようだが、竜胆はどうした?」


「お館さまなら身罷られた」


「亡くなっただと? いつだ?」



 彼女は軽く言う。竜胆が亡くなったと聞き、アコダやカルロッタ、ノアールから表情が抜け落ちた。



「去年の秋じゃ。その頃には体力が持たないと言って……」


「嘘だ。そんなはずがない」


「信じられません」



 ノアールが否定すれば、アコダやカルロッタも不審そうに彼女を見た。



「おまえさんからは竜胆の気配が感じられる。まさかおまえさん、竜胆を食らったのか?」


「それの何が悪いのじゃ? 我らの世界は弱肉強食で成り上がっている。それは自然の摂理じゃろうが」



 アコダが怖いことを言い出した。食らう? それってどういうこと? 嫌な想像が頭の中を過る。彼女はそれのどこか悪いのかとけろりとしていた。平然とした態度に怖いものを感じた。



 そこへ奥から声がして一人の若者が姿を見せた。茶髪にこげ茶色した瞳を持つ彼と目があい、彼が誰かに似ているような気がしたが、思い出せなかった。彼とは初めて会った気がしない。



「リョクショウ。お客さまですか?」


「ブルーノ」


「お客さまを屋敷の中にも入れず、このような場所で立ち話とは失礼ですよ。皆さま、どうぞ中へ」



 ブルーノと呼ばれた若者は、この屋敷の使用人なのだろう。主人であるリョクショウを窘めるような様子を見せたが、先代の竜胆を食らったと発言した、妖艶な美貌を誇るリョクショウに仕える者だ。見た目は優しそうな風貌をしているが、うっかりお誘いに乗って屋敷の中に入ったが最後、頭からぱくりと食べられたりするのは御免だ。私は隣に立つノアールの袖口を思わず掴んでいた。ノアールは私の顔を見て言った。



「いや。私達はこれで失礼する」


「あの、何のお構いもしないで申し訳ございません」


 私が慌てて袖口から手を離すと、その手をノアールが掴んでいた。踵を返したノアールに手を引かれるようにしてついて行くと、その背にペコペコとブルーノが頭を下げているような気がしたが、この場から少しでも早く去りたいような気持ちでいた私は、それに対して何も言わずに退散することにした。


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