13話・里子って?
「ここからは歩いての移動になる。大丈夫か?」
「大丈夫です。これでも体力には自信がありますから」
「疲れたらおぶってやるから安心しろ」
「いえ。抱き上げてあげますからね」
ノアールが心配して声をかけてくれたのに平気だと言えば、背後にいるアコダや、カルロッタが疲れたら自分達がいるから安心しろと言ってくる。まるで保護者付きの遠足のようだ。和気あいあいと話をしながら登っていくと、カンカンカンと、何かを叩いているような音がしてきた。
「誰かいるみたいですね。何をしているのでしょう?」
「あれは鉱石? ここでの採掘は許されていないのに?」
皆で音の方へ目をやると、森の中、黙々と一人の中年男性が、一心に鑿や槌を振るっていた。彼が掘っている物を見て、ノアールが眉を顰める。アコダが声をかけた。
「おまえは誰だ? ここで何をしている?」
「あんた達こそ、誰だ? ここはリョクショウさまが住まわれている場所。不法侵入なら許さんぞ」
男は手を止め、言い返してきた。
「リョクショウ? アコダ。何か聞いているか?」
「聞いたこともないな。カルロッタ、知っているか?」
「いや。知らない」
男はこの山には緑青という者が住んでいると言い、その緑青に断りなくこの山に入り込んだ私達を不法侵入者と決めつけていた。
「違う。私達は用があってこの山に来た」
「嘘つけ。ここに入るには、リョクショウさまの許可が必要だ」
「おかしな話だ。この山はアイオライト公爵家が所有している。それをリョクショウなる者が所有しているなんて話は聞いたこともないし、届け出も出ていない」
「誰が所有しているとか、そんな難しい話は俺には良く分からない。何か聞きたいならリョクショウさまに直接聞いた方がいい」
ノアールが所有地の話を口に出すと、男は自分ではその辺りは良く分からないから、リョクショウと名乗る人物に聞いてくれと言い出した。先ほどはこの山はリョクショウさまの持ち物みたいな言い方をしておきながら、都合が悪くなると、今度はそのリョクショウに聞けと言う。責任転換のようであまり好い気はしなかった。
「そのリョクショウにはどこに行けば会える?」
「この道をまっすぐ行った先に門扉がある」
男は雑に指さした後、くるりと背を向けた。私達のことを疑っておきながら、案内する気もないらしい。嫌な男だと、立ち去る背中を見て思った。男の指さした先には、舗装された道があった。石畳のように思えるが、それはクジャクの羽のような模様の入った緑の平たい石が幾つも敷かれている。その緑の道の先に大きな黒い門扉があるのが見えた。そこにお屋敷があるようでその屋根らしきものがちらりと見えた。
「この先と言えば、竜胆の屋敷があったはずだが?」
「あれか? それにしてはずいぶん様子が変わった」
「とりあえず、リョクショウとかいう者に会って話を聞いてみよう」
ノアールが戸惑ったように言えば、アコダも不思議そうに言う。二人は以前、ここに来た事があるような言い方だった。そこが気になった。
「ノアールさんは、ここへ前にも来たことがあるのですか?」
「私は子供の頃、ロージイのもとへ里子に出されていたから、この山のことは良く知っているんだ」
「里子?」
リョクショウを名乗る者に会いに行くことになり、整備された道を歩きながら話をしていると、聞きなれない言葉が出てきて、思わず聞き返してしまった。世間一般的に養子の話はよく聞くけれど、里子なんて言葉を聞いたことはない。どういうことなのだろう? と、思えば、ノアールが言った。
「父親の方針で、物心ついた頃にはロージイに預けられていた」




