9話・領主館に滞在します
「いつものことだから、あの二人は放っておいていいよ」
アコダ達を見ていたら、ノアールにはアコダを心配しているように思えたようだ。彼は荷物を持って歩き出した。その中には私の分もある。
「私、持ちますよ」
「いいよ。これは私が持つよ。男性が女性の荷物を持つのは当然だからね」
雇い主であるノアールに荷物を持たせるなんてとんでもないと思っていたのに、ノアールにそう言われてしまった。手持ち無沙汰で彼の後を追うと、石造りの建物にたどり着いた。そこは領主館で、しばらくここでお世話になるらしい。
「この領主館は町外れにあって、裏手に問題のノースデン山がある。領主館は無人だと聞いていたんだが……」
領主館には明かりがついていた。中に誰かいるのかも? と、思っていると、外に老齢の夫婦が出て来た。私達を見て話しかけてきた。
「もしや、あなた方は調査団のお方で?」
「その通りだ。しばらく世話になる」
「わざわざ遠いところからご苦労様です。わしはこの街の相談役を務めているユコダと申します。こっちは妻のミアムです」
老夫婦は丁寧に挨拶をしてくれた。ノアールは二人に、女王直属捜査官クリュサオルとしての身分を証明する懐中時計を、胸元から取り出して見せた。二頭のペガサスに守られた十字の盾。それはヴィジリタス国の紋章で、その紋章を扱えるのは陛下か、一部の者のみ。つまり彼は女王陛下の代理人だと示している物でもある。
「私はクリュサオル。陛下の命を受けてここに参った。何かあれば協力して欲しい」
「畏まりました。なんなりとお申し付け下さい」
「遠くから参られてお疲れでしょう? お部屋の用意は整ってございます。どうぞごゆっくりなさって下さい。後で食事は運んできますので」
「それは助かる。有難い」
陛下の根回しはされていたようで、町長夫婦はぺこぺこと頭を下げてくる。ノアールの助手でしかない私にも、腰が低い態度で何だか申し訳なくなった。すぐに部屋の方へ案内すると言われたが、ノアールがまだ、連れが来ていないので……と、断った。あとは自分達でするから心配はいらないとお断りして、町長夫婦を帰すと、ようやくアコダ達がやってきた。
「サーラ。さっきは済まなかった」
「怖い目に合わせてごめんなさい」
カルロッタに散々叱られたのだろう。アコダと目があうなり、がばっと頭を下げてきた。その隣でカルロッタも深々と頭を下げてくる。
「もういいです。気にしないでください」
「俺はジグルドの娘だから、てっきり慣れているものだと思い込んでいた」
「父さんは私の前で竜の姿になったことはなかったし、父さんが竜人だと知ったのは伯父さんに会ってからですよ」
アコダは思い込みも激しいのかも知れない。私の言葉でさらに落ち込んでいた。
「本当にごめんなさい。二度とこのようなことはさせないから、もしも、これに嫌なことをされたら遠慮なく言ってね」
「はい」
私は思わぬ味方を手にいれたようだ。伯父はカルロッタには頭が上がらないようで苦笑していた。この館には沢山の部屋があったが、警護の点からノアールはアコダと、私はカルロッタとの同室が決まった。




