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33話・あなたのことは信じられない


「その捕獲に他に関わった者は? このことを知る者は?」


「妻はすでに亡くなっておりますので、現在は私の他に関わる者もいなければ、知る者もおりません。ここで人魚笛を吹けば、その音色に誘われて好奇心旺盛な人魚が勝手に牢の中へ入ってくるので、その後で檻が閉まる造りになっています」


「そして死ぬまで飼い殺しか? 残忍だな」



 子爵の説明を聞いたアコダは顔を顰めた。ノアールの顔が険しくなっていく。



「これは悪質だ。人魚の捕獲に、その涙を商品化して売ってきたとは……」


「人魚は伝説の生き物ですから、保護指定にはなっていないかと」



 子爵は言い訳を口にしたが、ノアールは聞き入れなかった。



「どのような生き物であれ、あなたが行ったことは非道だ。人魚にも家族がいたのではないか? その家族から一方的に引き離し、牢に閉じ込める。つまりこの時点で誘拐と監禁罪が適用する」


「そんな大げさな。相手は人魚ですよ。私は好奇心旺盛な人魚の世話をしていただけです。そしてその対価として真珠をもらっただけです」


「対価として真珠をね。人魚にだって感情はあるだろう。家族を想い、泣いていた人魚からその涙さえ、奪ったように聞こえるが?」


「例えそうだとしてもその証拠はありますか? ここに人魚はいますか?」



 言われてみれば、塔内は静かでガランとしていた。潮の生臭いような匂いはあるものの、牢に人魚は一人もいなかった。子爵は不敵に笑った。



「サーラの話は10年も前の話ですよ。記憶だって定かなものかどうか。それなのに私を非難し、捕縛しますか?」



 話に聞いただけで、はっきりとした証拠もなく自分を捕らえるのかと、子爵はノアール達に挑戦状を叩きつけたように見えた。それが癪に触った。



「では私の父が亡くなったことはどう説明しますか?」


「きみの父親は私だ」



 私は10年前にあったことをもう忘れはしない。あれは確かにあったことだ。あの時の子爵は、私を気持ち悪そうに見ていた。彼の妻がメーラさまだったという発言は、疑わしく思われた。その上、子爵が私を娘だと言い出したのには何か理由がありそうな気もする。



「そう言いながら、今度はここで私を飼うつもりですか?」


「貴様!」



 もしかしたら子爵は、私が成長するのを待っていた? メーラさまの次の管理人として、私を利用する為に? 母親に邪険にされて育った私なら、ちょっと甘い言葉をかければすぐに気を許して、言いなりになるとでも思ったのだろう。



──甘く見られたものね。



 子爵に気を許しかけた私が馬鹿だった。この人が父ジグルドを殺したようなものなのに。



「君を飼うだなんて……。そんなことは思っていない。今まできみに理不尽な思いを強いてきたから、せめてこれからはきみに笑っていて欲しいと思って──」


「10年前の醜悪なあなたの顔を思い出した今は、あなたの言うこと全てが信じられないわ」


「済まない。私は何も知らなかった……」



 子爵が何も知らないはずはない。女王陛下直属の捜査員クリュサオルの手前、誤魔化しているようにしか思えなかった。



「あなたが私に接触してきたのは、私が当時のことを覚えているか探る為? 側において監視していたの? 甘い言葉をかければ懐柔できると思った? あなたって最低。非道だわ」



 非難すると、子爵はあからさまにショックを受けた様な顔をして見せた。これが演技だとしたら素晴らしいものだ。名役者と言えるだろう。



「サーラ。違うの! これには訳があるの」


「兄さん。もう止めて! あの男の振りなんてしなくていいわ」



 落胆する子爵を庇うように声が上がった。声のした方を見れば、息を切らしたクラリーとマリアナがいた。二人はずぶぬれ状態で現れた。


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