31話・どうして私を殺そうとしたの?
「ここは囚人を留めておく牢屋か?」
「違うわ。伯父さん。ここに居たのは囚人じゃない。囚われていた人達よ」
「どういうことだ?」
「何もかも思い出した。ボーモン子爵、あなた方が隠したがっていたこともね。私の父はここに居た人々を逃がそうとした。それをあなたは──」
私はきっと子爵を睨みつけた。子爵は動じなかった。そればかりか呆れたことを言い出した。
「サーラ。きみは私の子だ。私と亡くなった妻、フィロメイラとの間に生まれた子なのだよ」
「嘘よ」
「嘘じゃない。信じがたいかもしれないが、きみはクラリーの手によって、彼女の産んだ子と入れ替えられていた」
「……!」
「長年、きみに強いてきたことをこれで許して欲しいとは言えない。でも、クラリーもマリアナも深く反省していて、きみと仲が回復してきたらこの事実を告げるつもりだった」
私の父だと言い張る男は、母が仕出かしたことを告白し後悔しているのだと言った。母とマリアナの私への態度が別人のように変わっていたのは、そういった事情があったらしい。しかし、私が父親だと認めるのは、黒髪に紫色の瞳をした父、ジグルドだけだ。彼ではない。
「何故、それが今になって?」
ノアールが疑問を投げかけた。
「マリアナの挙式後に発覚した。クラリーが良心の呵責に耐えかねてか打ち明けてきた。マリアナも知っていたらしいが、今まで隠してきたようだ。真相を知って花婿は激怒し──去った」
だから別邸に現れたマリアナは、フィエロに去られたと言ったのかと納得した。道理で捜索願も出せないわけだ。でも、忘れていた記憶を取り戻した私は、全面的に子爵を信じることが出来なかった。
「あなたは私を監視する為、別邸に連れて来たのですね?」
「サーラ。何か誤解があるようだ。きみのことは娘として──」
「それならどうして10年前、私を殺そうとしたの?」
「……何!」
アコダが殺気を放った。子爵は怯えを見せた。
「あなたは父と管理人さんの前で言ったわ。そいつらを逃がそうとするなら、この娘の命はないって」
「知らない。私は知らない」
子爵が真顔で否定するのを見て、忌々しく思った。どうして私はこの人を信用してしまったのか。
「覚えていないの? 10年も前の事ですものね。あなたにとってはどうでもいいことだったのでしょうけど、私は忘れないわ。だって父と大切な人が亡くなった日だもの。それなのにどうして私、そのことを忘れていたのかしら?」
「当時のおまえはまだ、幼かった。父親を亡くした衝撃で、記憶の一部が混乱したのかもしれないな」
「伯父さん」
信用ならない相手と家族になろうとしていた自分に反吐が出る。嘆く私にアコダが寄り添ってくれた。
「サーラ。きみにとっては辛いことかもしれないが、ここで何があったのか話してくれないか。10年前に起きたことを教えて欲しい」
ノアールに頷くと、私はここで起きた惨劇の日のことを打ち明けた。
「あれは10年前。父に連れられてここを訪れた日の事です。父はよく、私に言い聞かせていました。ここの嘆きの塔で見聞きしたことは、おばあちゃんにも下町のお友達や、仲の良い隣近所の小母さんや小父さん達にも誰にも言ってはいけないって」




