表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/99

28話・嘆きの塔にいたのは幽霊ではなくて


 アコダと念話していたら、目的地に着いたようだ。馬車からが勢いよく降りたようで、その振動が伝わってきた。小さい体のせいかひっくり返ってしまった。



──伯父さんっ。



 抗議すると、「すまん、すまん」と、返事が返ってくるが、体を起こしてもらうことはなかった。



──しばらく船で移動になるからそのまま寝ていてくれ。


──分かった。



 不貞腐れてそのままでいると、体が揺すられて上下に行ったり来たりする。気持ち悪くなりそうな気がして、何とか体を横向きにし、体を縮めて身近な布にしがみ付けば、体の揺さぶりからは逃れられた。

 アコダは小舟の櫂を漕いでいるようだ。風に乗ってノアールと子爵の会話が聞こえて来た。



「巨大ですね。まるで監獄のようだ」


「外から来る方は皆、驚かれます」


「嘆きの塔には人魚伝説があるらしいとか?」


「この辺りで古くから伝わる昔話ですよ」


「どのような話ですか?」


「人魚が地上に憧れを持っていて、月夜の晩に一人の美しい人間の娘と出会い恋に落ちた。娘はこの領地を治める領主の娘だったとも、単なる村娘だったとも言われています。この話に着色を付けて、人魚はこの国のお姫様を見初めて振られるという悲しいお話もあるそうですが、ここではお互いがそれぞれの家族から交際を反対されていて、人魚は監禁され、娘の方は幼馴染との結婚を余儀なくされた。二人は味方となってくれた海鳥を介して連絡を取り合い、娘の婚儀の前日の晩に、二人はそれぞれ抜け出してこの嘆きの塔で落ちあい、ナイフで胸を突き亡くなったという悲恋話です」



 私もその話は知っている。ここの領民たちは大概知っていると思う。嘆きの塔では今でも亡くなった娘が亡霊となって、彷徨っていると言われており、月夜の晩には泣き声がすると言われている。そしてその声を聞いたものは不幸になると信じられていて、子供たちは日が暮れたら不用意に嘆きの塔に近づかないようにと、大人達から注意されていた。


 でも、実際は違うことを私は知っている。あの嘆きの塔にいたのは幽霊なんかじゃない。月の光を浴びたような銀髪に菫色の瞳をした、綺麗で儚い姿の女性だった。華奢で青黒いドレスを着ていたが、足が悪いのか歩みはたどたどしく感じられた。その彼女は自らをここの管理人と説明していた。



「もの悲しい話ですね。その話とこの監獄のような塔とはイメージが結びつかない」


「所詮、御伽噺ですから、信憑性は薄いですよ」



 ノアールの感想に、子爵は昔話なんて事実とは無関係だと言わんばかりだった。ようやく着いたようだ。アコダの上下揺れから解放されて私はそろそろと体を起こした。



──おい、大丈夫か?


──平気。



 アコダから心配するような声がかかる。頭を指で撫でられた。



──着いたから、しばらく大人しくしていてくれ。


──はーい。



 今も大人しくしているけど。そう思いながらもこのような小さな体では何もできないので、されるがままだ。返事だけしておいた。

 どうやら一行は嘆きの塔内部に入ったようだ。私の小さな姿では天井しか伺えないけど、潮の匂いが染みついた塔の壁の匂いは記憶していたものと同じだった。



「では、さっそく拝見させて頂きます」



 ノアールの宣言で、レンガで一つずつ積み重ねられてきたような塔の、まずは屋上から見ていくようだ。階段でも上っているようで、カツ、カツ、カツッと三人分の靴音が塔内に響く。



──あの頃と変わっていない。


 私のつぶやきを拾った伯父が、念話で聞いてきた。



──サーラはここに来たことがあるのか?


──父と通っていたことがあるのです。


──ジグルドと?



 念話している私達の先で、ノアールは子爵に色々と質問しているようだ。子爵はそれに答えていた。



「現在、ここは使われていないのですね?」


「はい」


「それにしては綺麗な気がしますが? 建て替えでもなさいましたか?」


「……10年前に火事があったので……」



 初めは調子よくノアールに答えていた子爵だったが、歯切れが悪くなってきた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ