表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
87/206

87 理由

「ええっと……ソフィアは……」


 俺は多少なりとも罪悪感を覚えている。


 彼女はマイスとの戦闘の後、気を失ってどこかへ運ばれていった。

 本当なら彼女の身を案じてすぐにでも様子を見に行くべきだったのだ。


 それなのに……。


「彼女なら、ただいま救護棟で治療を受けています」

「え? 救護棟?」


 そんなのあったか?


「どこにあるんだ、それ」

「学生寮のすぐ裏ですね。

 学園の端の方にあるので気づかなかったのでしょう。

 小さな建物ですから」


 そっか……ソフィアはすぐ近くにいるのか。

 様子を見に行ってみようかな……。


「なぁ……ソフィアは無事なんだよな?」

「何をいまさら」


 ファムはそう言って鼻で笑った。


「無事だと思っているから、

 こんな風に呑気にくつろいでいたのでしょう。

 それとも彼女がずっと気がかりで不安だった――

 ――とでも、おっしゃるおつもりでしょうか?

 しらじらしい」


 返す言葉もなかった。

 ファムの言う通りだ。


 俺はずっと自分の心配ばかりしていた。

 ソフィアのことなんて、まったく考えてなかった。

 今更になって心配したところで、それが相手を思いやっての発言だとは思えないだろう。


 ファムの言っていることは正しい。


「少なくとも、マイスさまとソフィアさんが戦って、

 二人が致命傷を負ったことは今の今まで、

 一度たりともありません」

「そうか……」

「ソフィアさんと戦っても壊れずに立ち上がり、

 再度、挑戦する存在もまたマイスさまだけでしょう」

「……何が言いたいんだ?」


 俺はファムの顔を見上げながら尋ねる。


「ソフィア様にとって、マイスさまは、

 この世で唯一、安心して力をぶつけられる相手。

 この意味が分かりますか?」

「…………」


 ファムは言っていた。

 二人は互いに信じあっているだけだと。


 どんなに力をぶつけても壊れない相手。

 つまりマイスはソフィアにとって……。


「友達になれるかもしれない相手……ってわけか。

 ソフィアはマイスと友達になりたいのか」

「ええ、その通りです。

 そしてご存じの通りマイスさまもまた、

 ソフィア様を大切に思っています」


 ソフィアがマイスを大切に思う理由は、なんとなく分かる。


 棺桶みたいな鉄の箱に入って眠り、力が暴走して被害を出さないようにしているくらいだからな。

 予期せぬ形で他人を傷つけてしまわぬよう、常に気を付けているのだ。

 そんなんで友達ができるはずがない。


 この世界で唯一マイスだけが、ソフィアの能力に耐えられる。

 壊れないでそばにいてくれるかもしれないのだ。

 だから……最高の評価をつけている。


 ってところだろうな。


「なぁ、ソフィアがマイスを好きな理由は分かるんだけど、

 マイスがソフィアを好きな理由ってなんだ?

 あいつにはたくさん友達がいるだろう?」


 マイスはこの学校で大勢の友人に囲まれていた。

 取り巻きたちの彼女に対する態度も自然なものだったし、ご機嫌伺いのために付き合っているとは思えない。

 実際、いい人たちだったしな。


 だから……マイスにとってソフィアは唯一の理解者ってわけでもないんだよな。彼女も最高の評価を相手に送っているわけだが……その理由ってなんなんだろう。


「それは……マイスさまからお聞きになればいいでしょう。

 私が話すことでもありませんので」

「だよなぁ……」

「まぁ、私も教えてもらっていないのですけどね」

「……そうか」


 師匠であるファムにも秘密か。


 二人は互いにスキルをぶつけ合っても壊れない相手として信頼し合っているようだが、マイスがソフィアを思う気持ちはそれが理由ではないと思うんだよな。

 何か他にも……。


「それはそうと、サトルさま」

「……なんだよ?」

「生徒会の方々ですが……

 彼らはどうしてあなたの命を狙ったと思いますか?」

「ううん……」


 俺の方が聞きたいくらいなんだよなぁ。


 まったく心当たりがない。

 恨まれるようなことをした覚えもない。


 そもそも命令を出した副会長とはなんの接点もない。

 会ったことすらない。


「奴らにとって、俺が邪魔になるからじゃないのか?」

「私には他に理由があると思うのですけどね」

「……え?」

「サトルさまではなく、邪魔になるのはむしろ……」

「お待たせしましたわっ……あれ?」


 マイスが料理の盛られた皿を片手に部屋へ戻って来た。

 ベッドに腰かけるファムを見て、表情を固まらせる。


「どうして……ファムさんがここに?」

「師匠と呼びなさい、師匠と」

「え? え?」

「サトルさまはすでに私たちの関係に気づいています。

 計画のことも話しておくべきでしょう」


 ファムがそう言うと、マイスは……。


「このっ……裏切り者!」


 途端に表情をこわばらせるマイス。

 そっとお皿を棚に置く。


 ……怒ってるのに冷静だな。


「そう感情的にならないでください。

 私はアナタの為を思って……」

「うるさい!」


 目を吊り上げたマイスはバチバチと放電を始める。


 まさか……ここでやり合うつもりか?!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ