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86 マイスの部屋

 そこは宮殿かと見間違うようなゴージャスな部屋だった。


 よくある天蓋付きのダブルベッド。

 キラキラと輝く照明器具。

 そして豪華な調度品の数々。


 中でも一番目を引いたのは衣装箪笥だろうか。

 白く塗装された大きな箪笥がドーンと壁際に置かれている。

 いったい中には何着の服が入っているのだろうか。


「さぁ、ウィルフレッドさん。

 とりあえずこちらにお座り下さいな」


 そう言ってベッドに腰かけ、隣をポンポンと叩くマイス。


「え? ああ……うん」


 俺はおそるおそる彼女の隣に腰かける。


「なぁ……このまま……とか、ないよな?」

「どういう意味でしょうか?」


 首をかしげて悪戯っぽく微笑む彼女の真意を図りかねる。

 いったい何を考えているのだろうか?


 まぁ……多分だけど、無理やり押し倒してそのまま……。

 って展開はなさそうだ。


 別に期待しているわけではない。


「とりあえず、これからの予定を立てましょうか。

 放っておいたら生徒会の方々に殺されてしまいますわ」


 マイスは落ち着いた口調で言う。


「なぁ……さっきも聞いたけどさ。

 あいつらが俺を殺そうとする理由に心当たりはないか?」

「そうですね……。

 特にこれ、という点は思い当たりませんが……。

 生徒会の動きが不穏になっているのは、

 ここ最近のことではありませんわ」

「と、言うと?」

「少し前に会長様が姿を消してしまったのです。

 伝説の英雄に最も近いと言われていた、あの会長様が」


 桧山のことだろうな……多分。


「姿を消したって……いつ頃なんだ?」

「数か月ほど前のことですわ。

 誰かに何か告げることもなく姿を消してしまいました」

「…………」


 桧山の話だと、いきなり神様から豚にされたらしいからな。

 誰かに今から豚にされますよ、なんて言えるはずがない。


「そっか……その会長って強かったの?」

「ええ、それはもう。

 一人で敵の軍隊を壊滅させるほどに」


 スキルを使ってじゃんじゃん無双してたわけか。


 能力を使って滅茶苦茶やれば、恨みを買ったりもする。

 敵からは嫌われたことだろう。


 戦争って、人と人とが戦うことだからなぁ。

 英雄だなんだってもてはやされても、高評価に結びつくわけでもない。

 敵に憎まれて平均評価が下がったら元も子もないぞ。


 そう考えると、アルベルトが高評価なのも謎だな。

 戦争で戦ったんなら、敵からの評価は下がるはずだ。

 評価が下がらなかったのは、何か理由でもあるのかな?


「んで、会長が姿を消したのに、

 後任が選ばれないのには何か理由でも?」

「それはわたくしには分かりませんわ。

 でも……副会長が上に手をまわして何かしたとか」

「上? 上ってなんだよ?」

「英雄評議会ですわ」


 要は英雄学園を牛耳る人たちってことだろうか?

 まぁ……そういう人たちがいるんだなってくらいに覚えておこう。


「その評議会の人たちが、なんやかんややって、

 姿を消した桧山君を会長に据えているんだな」

「え? ヒヤマ?」


 おっ、やべぇ。

 口が滑った。


「いや……ひゃー! ひゃー腹減ったなぁ!」

「お腹がすいたのですね。

 スタッフに行って何か持ってこさせますわ」


 マイスは部屋を出て使用人を呼びに行った。

 頼めばすぐに食事が出てくるとか、VIPだなぁ。


「早速、マイスさまのお部屋でお楽しみですか。

 大した御身分ですね」

「うわぁ⁉」


 突然、ファムが俺の隣に現れる。

 驚いた俺は床に転げ落ちてしまった。


 本当に心臓に悪いな、コイツ。


「だから急に現れるなって言ってるだろ⁉」

「申し訳ありません。

 これもスキルの特性なので」


 俺を見下す形でベッドの端に座る彼女は、黒髪をシャランとはらう。

 キュンとする仕草だけど、全然かわいく思えない。


「それで……二人でこれからどうするつもりです?

 生徒会に対抗して戦争でも仕掛けますか?」

「そんな物騒なこと考えてねぇよ。

 つーか、俺たちの話、聞いてたのか?」

「ええ、私のスキルを使えば、なんでもお見通しです」


 そう言って手のひらに黒い物体を生成するファム。

 こいつの能力、本当に便利だな。


「じゃぁ、その能力を使って、

 生徒会の連中の内情を探ってくれよ」

「残念ですが、それはできません。

 生徒会にはキースがいます」

「え? あの猫耳の?」


 あいつ、ファムが警戒するほどの存在なのか?

 戦闘力は皆無に思えるけど……。


「彼はどんな場所に潜んでいようと、

 的確にこちらの居場所を察知しますからね。

 たとえスキルを使ったとしても、

 彼の索敵能力からは逃れられません」


 そんなに優秀なのか……彼のスキルは。


 やっぱり生徒会のメンバーに選ばれるくらいだからな。

 それなりに有能なのだろう。


「それはそうと、サトルさま」

「……なんだよ?」

「ソフィア様のことは放っておいてもいいのですか?」

「……あっ」


 すっかり忘れていた。

 ソフィアはマイスと戦ったあと、どうなったんだろう?

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