85 牽制
「ぶひいいいい!」
ガタガタと鉄製の籠を揺らす桧山。
なぜか奴は生徒会室にいた。
「おっ……おい!
会長っ……あっ、いや。
この豚ぁ! 黙れぇ!」
ゴッツが檻を殴りつける。
いま……会長って呼ぼうとしただろ……。
「うるせぇよ、豚! 黙れ!」
「ぶひいいいい! ぶひぶひ!」
ゴッツが檻を殴りつけると、桧山は大人しくなった。
籠の中で姿勢を低くしてがたがた震えている。
「あの、その豚がどうかしたんですか?
てゆーか、いま、会長って呼びました?」
「え? あ? いや……」
俺が尋ねると、ゴッツは慌てふためいていた。
どうやら豚の正体が明るみに出るとヤバイらしい。
と言うか、桧山は生徒会会長だったのか。
……豚なのに。
「これ、会長が飼ってる豚なんだ。
可愛いだろぉ!」
「ぶひぃ! ぶひぃ!」
そう言って籠を揺らすゴッツ。
桧山が悲鳴を上げている。
「それはそうと、今夜の宿泊先だが……」
「ああ、それなら――
マイスさんの部屋に泊めてもらうことになりました。
そのことを伝えに来たんです」
「そうかぁ……え?」
マイスへ視線を向けて固まるゴッツ。
「ええ、ウィルフレッドさまはわたくしの婚約者。
同じ部屋に寝泊まりするのは当然ですわ!」
「え? やっ……あの……」
「それとも、何か問題が?」
堂々とした態度で尋ねるマイス。
問題ありありすぎると思うが、ゴッツはうまく反論できなかった。
女子の部屋と一緒だとダメとか言っても、聞き入れないと分かっているようだ。
相手にそう悟らせるほどの圧をマイスから感じる。
「いや……別にないです」
「それならよろしくて。
失礼させていただきますわ。
あっ、それと……」
マイスはわざとらしい笑みを浮かべて、三人を順番に見やっていく。
そしてにっこりとほほ笑んだまま、こういうのだ。
「当分の間、わたくしはウィルフレッドさまと共に、
学園内で行動させていただきます。
この方はわたくしの婚約者であると同時に、
従者でもありますので」
「「「…………」」」
三人はマイスの言葉に呆然とした様子で沈黙する。
「それでは失礼しますわ。
さぁ、ウィルフレッド様、行きましょうか」
「あっ……ああ」
俺はマイスと共に生徒会室を後にする。
部屋から出て行く俺たちを、三人は黙って見送った。
「はぁ……」
俺は地べたに腰を下ろし、深くため息をつく。
生徒会室を出た俺たちは傭兵科の校舎へ移動。
誰もいないことを確認して、建物の陰に隠れて一息つくことにした。
「なんなんだよ……あいつら」
「ご安心ください、ウィルフレッドさん。
あんな連中が束になって襲ってきても、
わたくしが返り討ちにして差し上げますわ」
胸に手を置いて自信満々に宣言するマイス。
彼女がいてくれて心強いとは思うが……。
「なぁ……なんか心当たりあるか?
俺があいつらに命を狙われる理由」
「いえ……それがわたくしにもさっぱり……」
「だよなぁ……はぁ」
学校へ来て初日。
早々に命を狙われるとは思ってなかった。
「なぁ、マイス。
生徒会について、知ってることを教えてくれないか?」
「それはわたくしの部屋へ行ってからにしましょう。
わたくしたちがここにいるのを彼らは知っています」
「……え?」
あたりを見渡すが、人の気配はない。
位置的に本館からのぞき見できるような場所でもないが……。
「キースのスキルですわ」
そう言えば、そんな感じの能力だったな。
確か敵の位置を察知するとか、なんとか……。
「彼はどんな場所に隠れた敵でも、
的確に位置を把握するスキルを使えますの。
先ほどはたまたまスキルをオフにしていたようですけど、
今は警戒して発動していると思われますわ」
「ふぅん……」
オンオフの切り替えができるんだな。
昔はできなかったんだろうか?
彼の情報からはそこまでは読み取れなかった。
「どちらにせよ、早く移動した方がいいですわね。
ここにいたら話を聞かれてしまうかもしれませんわ」
「……そうだな」
俺はマイスと共に学生寮へと移動した。
学生寮は四つの棟に分かれている。
騎士科と魔法科の寮は共通で使われており、女子と男子で別れている。
残りの建物は、英雄科の女子寮と男子寮。
つまりマイスの部屋は女子寮になるわけだ。
建物の内部は宿のようになっており、受付には女性の職員がいて生徒たちの出入りを管理している。
マイスは簡単に挨拶を済ますと、俺を連れて部屋へと案内した。
特に文句とかは言われなかったなぁ。
受付の傍に螺旋階段があり、中央が吹き抜けになっている。
その階段を上って最上階へ。
最上階のフロアは広いサロンのようになっており、ソファやテーブルが並べられている。
マイスの部屋はどこにあるのかと思ったら……。
「このフロア全てがわたくしの所有となっておりますの。
置いてあるものは好きに使ってもらって構いませんわ。
あと、常駐しているスタッフが何人かおりますので、
必要なら彼らになんでも命じて下さい」
「…………」
特待生級の待遇だな。
めっちゃ権力持ってるんじゃないのか?
「なぁ……マイスはどこで寝泊まりしてるんだ?」
「こちらですわ……」
そう言って歩き出すマイス。
俺は彼女の尻を追いかけるようについて行く。
フロアの一角に大きな扉があり、その前にスーツを着た男が二人立っている。
マイスが近づくと会釈して無言で扉を開いた。
どうやらここが彼女の部屋らしい。
中へ入ると……。




