44話 君を雇って良かったよ
あいかわらず尻が痛い牛車に揺られながら進む帰り道。
親方様についてきた使用人の一人が御者(牛の場合でもこれででいいのだろうか?)となり、後ろの荷台にウェイバー伯爵と僕。
「しかし、君、なかなかの活躍したそうじゃないか。エッダに居場所を示唆したのは君だって聞いたよ」
「活躍。というほどではないんですよね。別に僕の予想が当たったわけでもないですし」
「結果があたればいい、ってことさ」
「そうは言っても、自慢できるほどの事でもないでしょう。昼飯がでると聞いてたのに、食べ損ねたし」
「気にするのはそこかい?」
僕と親方様の会話をなんとなく聞いていたのだろう。御者がそういって笑い
「君もおなかすいてるだろうと思って会食で残ったやつを詰めてもらったよ。あとから食べるといい」
と荷台の端にくくりつけてある袋を指さした。
「ありがとうございます」
その光景を見ていた親方様は、何を思ったか笑った。
「なんだろうね。君。特に特技なんかないって聞いてたが」
「えぇ、今でも変わりませんよ」
「でもよくやってるじゃないか」
「いやぁ」
この世界に来てやったことは食堂の下働きと豚小屋の掃除くらいだ。
「豚小屋と食堂の下働きはよくやってるとは言いませんでしょ。ここ最近、強いて目立った働きと言えるのは迷子探し、それだって金になったかといえばそうじゃないし、なんかすごい能力でずばっと解決なんてことでもなく、偶然見つけたに近い。こんな僕はそれ以上の仕事ができるとも思えません」
「それ以上の仕事をしようって気は起こさないか?都会に出て立身出世、そこまではいかなくても屋敷から独立して近くに家を買うとか、何か商売をやってみるとか。君がいた場所に帰るために調べ物をしてみるなんてのもあるだろう。これだってわかれば世界で初めてのことになるはずだ」
「うーん」
僕は考える。生まれてこのかた幸福に恵まれた思いではないが、かといって極端に不幸と嘆くほどの人生でもない。
こっちに来てからもそれは変わらない。
異世界といっても何もない田舎、飯は素朴ながらうまい、労働法などあるか知らないが雇い主は何かと気にかけてくれる、同僚はみな優しいし、上司は何かと丁寧に教えてくれる。ご近所さんも噂好きだがいい人が多い。
しいていえば朝が早いのが辛い。水が冷たい。
だがそういう話は些細なことだろう。わがままを言ったらバチがあたるし、水の冷たさと朝のつらさは元の世界でも同じだ。
「先のことは正直なにもわかりません。ただ3つ言えることはあります」
「なんだい?」
「一つ目は立身出世するにも、ここに家を建てて落ち着くにも、都会にいって帰るための道筋を探すにしても、世の中何をするにも金が要るという事。二つ目は今の職場は給料が高いのか安いのか判断はできませんが待遇としては大変良くしてもらってるという事。ですから、当分はよろしくお願いいたしますということで三つです」
それを聞いた親方様は笑った。
御者も笑った。
つられて僕も笑った。
そして親方様が一言。
「君を雇って良かったよ」




