42話 行政上の理由
ロバというのは馬や牛とは違う生き物だ。
当たり前だろうと言われそうだが実際そうなのだ。
人よりゆっくりとした速度とは言え、小柄なおばさんを載せてしっかりとこの荒れた道を歩いていくからすごいと思う。
「この道は馬だと大きすぎてね。私も若い頃は歩いて通えたんだけど膝を悪くしちゃってさ」
このおばさんは話が好きなようであれこれぺちゃくちゃとしゃべる。まぁどこの国でもおばさんってのは世間話が好きなものだからエルフも例外じゃないって事だろう。
「こういう質問するのは失礼じゃないか、って思うんですが一つだけ聞いていいですか」
「なんであんな所に住んでいるのか、って話でしょう」
いろいろな人から聞かれるお決まりの質問のようで、こちらが聞く前に話し出した。
「漁の権利の問題でね。誰か人が住んでなきゃあそこでの漁の権利がなくなっちゃうのよ」
「へぇ。はぁ。別に、膝を悪くしてまでおばさんが漁をやるってわけじゃないんでしょう?なら町か村か、まぁ子供さんところの近くに言った方がいいんじゃないですか。そしたら女の子にこんな道通わせる苦労もなくなる。そうなりゃみんな苦労もしないでしょう」
「私はそうしたいのよ。正直に言えばね。娘も旦那も村の領で一緒にっていってくれてるか、良かったら明日からでも引っ越すんだけど。そうなるとあの辺の川の漁の権利が無くなっちゃうからエルフ領が困るって幹部連中から止められてるの」
「誰か住んでたらいいんでしょ?村から代わりの人をよこしてもらったらどうです」
「住んでたら、というか管理人として常時泊まり込みでいる人間が必要らしいのよね。よくわかってないけど。でもさ、ここらですんでる田舎者のエルフだって険しいっていう道の先なのよ?うちの死んだ旦那も漁師だったんだけど、みんなが使わない漁場を独占をすることを条件に管理人になるって言ってね。それで村では一番二番を争うほど儲けてたから、娘たちの結婚祝いに家を立てるくらいだったのよ。でも旦那が死んじゃってからは村の若いのが漁に来るときにタダで貸してるだけなのよね。そこで取れた魚は村の貴重な水産食品ってことはわかるし大事だと思うんだけど。でもこの森の中に住んで魚食べてる田舎者だってあそこには住みたくないっていうのよ。いやなものよね」
「さっきから田舎者呼ばわりしてますけど、もしかして都会の方から来ました?」
「えぇ、私は公国の首都で生まれたの。こう見えても一応貴族の血筋なのよ。といっても下っ端の下っ端で、本家はとっくの昔につぶれちゃったから威張れるものでもないんけど」
そういっておばさんは笑った。
「旦那はこの領で生まれてね。みんな嫌がってたあそこでの漁に目をつけて独占する代わりに管理人に名乗りを上げたの。この辺じゃ一番魚が豊富な水場だったからそれはもう儲けてね。私の両親がそれをどっかから聞きつけて、嫁にどうだって私を送り付けたわけ」
「都会生まれがこんな田舎の森の中に送られる、なんていやなものじゃありませんか」
「最初は全くその通りだったわ。でも蓋をあけてみれば旦那は荒っぽいけど顔が良くて優しかったし、村の人たちもよそ者の私に優しくってね。何より旦那が金をたくさん蓄えてたのよ。そうなりゃ文句なんてないわよ。それで今まで楽しく暮らしてるんだけどね。こうなると嫌な物よ。一人で、たまに漁に来る若い子たちとお茶を飲むくらいしか楽しみがないの。何かいいアイディアはないものかしらね」
「そうですねぇ」
何かないものかね。




