27話 預ける場所もないと困る
「割増しで戴けるのは大変ありがたいんですが、私の今の生活だと隠しておける場所は鍵もない倉庫の二階だけなんです。ですからこの金貨をそのまま貰っても困るんですよ。なんとかなりませんか?」
目の前にあるのは初任給であるピカピカの金貨。
一か月分の給料のほかに、一人異世界から何かと来て大変だろう、これで服や日用品なんかを買いなさいということでボーナスをくれたのだそうだ。ありがたい。
この金貨の価値はどの程度かわからないが、ウェイバー公と執事曰く衣服代や必需品など諸々払うには十分の価値があるとのこと。
そうなると現金保管場所は割と切実な問題になってくる。
「そういうものか?」
「今は倉庫の二階に住んでますが、あそこに金貨を蓄えておくのは不用心じゃありませんか。金庫持ち込むわけにも行かないし。鍵がかからない部屋でベットの下に金貨を積み重ねたり、首から袋をぶら下げて金貨を持ち歩く勇気もありません。なにかいいアイディアがあればそれでいいんですが」
「いくらこの辺の治安がいいとはいえ、確かにそれじゃ不用心ですね」
執事はそう相槌を打った。
「他の者はどうしてる?」
「大概のものは部屋の据え付け金庫に置いて回ってくる商会組合に預けて債権に変えたり、御用聞きなんかを使って近隣の実家や親戚の者に送金したりしています。普段からツケで給料日初日に支払いで全部使ってしまう人不届きものもいますが」
つけ払い、つまり借金だが保管場所がないなら理にはかなってる。
ただそれじゃあ金は貯まらない。
「そうか、じゃあ屋敷の方に来るか?今度から正式採用だし。それなら金庫もあるだろう」
「今の仕事は朝の水くみから始まるので今の所のほうが何かと便利がいいんですよ。それにあそこは夜も静かだから結構気に入ってますし」
「たしかにあそこは水くみ場から近いからな。便利はいいか」
プライバシーも完備されてる。と言っても帰って寝るか、月明かりの下で体を洗うかの二択くらいしかないが。
「困りましたね。 知り合いや親戚なら私が預かるというのも一つの手ですが、そういうわけでもありませんから。使用人同士での金銭のやり取りはあまりよろしいこととは言えませんしね」
「じゃあ僕が預かって預り書を書こう。それでどうだ。必要になったらその都度必要分を君に渡すことにする。家の大金庫に入れておけば安心だろう」
「ありがとうございます。ぜひともよろしくお願いします」
「じゃぁまず当分の生活費を渡すべきだな。いくら欲しい?」
そう言われてもそもそも金銭の単位を知らないので、いくらと言えばいいのかわからない。
なので何がいるか考えて、そこから二人に概算してもらうことにする。
「服はみなさんからお古をもらいましたので当分はこれでいいですし、食費や住居費はかからないし、えっと」
「あぁ、言い忘れていたが本採用なら休みの日は朝食しか出ないぞ。残りは食堂で自費で買ってもらうか他所で食べてくれ」
「そういうことだったら飯代はいりますね。服もお古があるとはいえ下着くらいは買い増ししたいし」
「あそこならカーテンかなにかあった方が良いんじゃないか?朝日がまぶしいだろう」
これは執事の言葉。彼もこの屋敷で働き始めたころはあそこで寝泊まりしていたとかで、何度か様子を見に来てくれた。
「最初はいるかと思ってたんですが、日が出るくらいに起きて仕事に行き、晩飯を食べて日が落ちたあとに帰るだけなのでいらないんですよね。別に外からのぞける場所もないし。なので、えっと、来週の給料日までに1日休みですから、休みの日の昼めし代と晩飯代の2食分、あと下着を二三着、そのほかに雑貨やら夜食で摘まむようなお菓子やらを買える程度費用が欲しいです。大変おおざっぱですが」
「じゃぁこんなもんだろう」
そういって執事は小ぶりな銀貨を半分に切った物を手渡してくれた。
切った、というのは比喩ではない。文字通り丸い銀貨を半分に切ったものだ。のこぎりか何かできったあとに切り口の処理をしてないのか、切断された部分を触るとギザギザしている。
「切っていいんですか?硬貨って」
「君の世界では切ってはダメなのか?この国だと半貨と呼ばれて出回ってるが」
ウェイバー公はそういった。何か問題あるのか?という具合。
こういう事柄に触れると、あぁ私は異世界に来たのだ、と思う。




