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魔王になりたい俺の友は善人として称えられる  作者: 狼煙
第3話 罠に嵌められたのはグレイ
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3-⑱ 勝者なき戦場、か……

「そこまでだ。勝負あり!」


 空間内に飛び込んで急いで2人の間に入り込むキバット。勝敗は決したのは誰の目からでも明らかだった。だがそこに歓喜は無かった。

 血を流し気絶するグレイと、荒く肩で息を吐き出すだけのキバ。

 喜びに類するものは僅かもなく、ただただ戦いが終わったことがまだ受け入れられてない。呆然とグレイの体を見下ろしていた。


(勝者なき戦場、か……)


 だが勝者はいなくても勝敗は付いた。

 その確認の意味も込めて、キバットはキバの腕を取った。


「この勝負このキバットが見届けた。勝者、キバ!」

 勝利宣言と共に、空間作成の魔法は解けた。魔力が断たれたことにより、針を入れられた風船のようにして空間がはぜ割れ、元の景色と同化した。


「……こんなに嬉しくない勝利は初めてだよ、くそったれ……」

 キバットの腕を振り払い、キバが吐き捨てたと同時だった。


「せんぱい!」

 2人をかき分けて飛び出してきたミリア、すぐさま簡易魔法を展開してグレイの怪我の治療を開始した。

 魔法の質はかなり高い。事実、グレイの怪我はすぐに塞ぎ、皮膚が再構築されていく。

 しかしそれは怪我を治すだけで意識を取り戻すことにつながるわけではない。瞼は深く閉じられ、意識は闇の中に落ちている。


「せんぱい! せんぱい!! せんぱい……! せん、ぱい……!」

 言葉、発する人、全てが同じであるのに、そのどれも塗装された声色は違った。

 喜びも、怒りも、哀しみも、あらゆる感情が詰め込めた訴え。自然、涙腺が刺激され眼に光るものが次々と浮かび上がってくる。

 そんな呼びかけをしていたミリアの頭に何かが添えられた。

 ごつく、努力の跡が分かる、けれど報われなかった。されどミリアが最も好きなグレイの手が。


「ミリア……」


 名前を呼ぶ声によって初めて気が付いたのだろう、ミリアが顔をあげる。

 そしてそこにあるのは目を開けたグレイの顔、口惜しさを持った奇妙に歪んだ表情で。


「……見ていてくれたか……?」

「はい……! はい!」

 微笑、だがそれはすぐ消えた。再び元の表情。


「ありがとうな……でも負けちまった……全力出した姿だけでも見てほしかったんだが、みっともないところしか見せられなかったな……」

「いいんです……いいんです……! もういいんです……! せんぱいを、せんぱいを見てましたから! 十分伝わりましたから! たくさんせんぱいを感じましたから!」


 言い終わる前にグレイの首に手を回してミリアは抱き着いた。

 きつく、強く、決して離すまいと、思いが少しでも伝わるようにと。全身全霊の魂を込めた抱擁。

 そこから言葉はもうなかった。

 ミリアはただただ泣き続け、グレイも一滴、涙滴を落としたそれだけだった。


「行くぞ、キバット、キバ」

 振り返った時すでにキバンカは1人で戻せる範囲の机やいすをいつの間にか戻していた。

「早く戻ってバースさんに謝っていかないとな。協力するはずの生徒会に暴力を振るったことをな」

 そう言うなり先に背を向けてキバンカは行ってしまった。その足は何処か早歩きだった。


「お邪魔虫は退散しろ」


 そんな言葉の代弁ような気がした。それをくみ取ったキバもキバットも、背を向けて歩き出した。

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