1ー③ 生徒会長とは何か?
結局、グレイの意志が挫けたことでその場は収まった。
もちろんグレイ本人としては納得などしているはずもない。腹に据えかね、ヴァンに対して殴る、蹴る、魔法をかますと言った暴力行為を浴びせ続けた。だがヴァンが折れることも無かった。
グレイ自身、特に力が強いわけでもなく、魔法力も人並み以下であったこと。
そして逆に、ヴァンは肉体面も魔法面もグレイとは比べものにならないほど高いこと。
ここにヴァンの不屈の精神が重なったことから、こうなってしまった。
だが、グレイは心の底から納得したわけではない。というか欠片もしていない。そもそもそんなことできるはずがなかった。不平不満しかない様な状況だ。
故に今、グレイはこうなっていた。
「で?」
険しい目、椅子に投げ出している身。カツカツと机を打ち付ける指。不機嫌丸出しな声。誰の目から見ても明らかな程、グレイはイラついていた。
しかしそれが、自分が原因となっているなどとヴァンは露程にも思っていなかった。そうでなければ理解できないといわんばかりの、疑問を浮かべた顔をしなかっただろう。
「で、とは? 何か分からないことがあるのか?」
それは声色からでも伺えた。全く嫌みや皮肉のような感情など少しも含んでいない、純粋な思いがあふれる言葉で、ヴァンは訪ねた。
そしてそれがなおさら、グレイの怒りにつながっていった。。
「ああ、分からないことだらけだよ。正直お前の存在意義とか、価値だとか、俺には全く分からねえ。が、それは置いておく。これだって一兆歩くらい譲ってるからな」
グレイのむき出しすぎる悪口に全く応える様子は無く、ヴァンは悠然としていた。
「ふっ、やがてお前にも分かるようになる。時がお前を大きくしてくれよう。そのとき後悔と共に思い知るがよい」
「分かりたくもないわ! ……で、とにかくだ」
会話の流れを変えようとしたのか、グレイは軽く机を叩いた。
「お前はこれからどうするのかを聞きたいんだよ」
「つまりこれからどのような行動を起こすか、ということか?」
そういうこったな。と嫌そうにヴァンの意見を肯定し、再びグレイは続けていった。
「俺にはさっぱり理解できなくて不満だらけではありそんでもってお前に資質も風格も威厳も何も備わっちゃいない。備わっていないもんを書けって言ったらノート数冊文ぐらい楽に埋められる自信があるよ。だが」
そこまで一気に捲し立て、止める。大きくグレイは一度深呼吸をした。
「お前が生徒会長だ。今回の選挙でお前が受かっちまった。だったらお前が生徒会をまとめなけりゃならねえ。ならこれからどうするか、その方針は考えなきゃいけねえだろ」
グレイの意見に感じるものがあったのだろう、ヴァンは大きく頷いた。
「なるほど、確かにこれからの方針を検討するのは欠かせんな。なぜなら、それによって今後の未来は大きく変動していくものであろうからな」
「だろ? だからこれから何をするか、それを考えようぜ」
ただしまともなこと限定でな。とグレイは続けたが、ヴァンには一切耳に入っていなかったのだろう。瞳を閉じて数度首を縦に振り、自論を展開してきたのだから。
「ふっ、だがそれは愚問だな。俺がその先を考えていないように見えたか?」
額にふれる程度に指先が当たり、ヴァンは手で顔半分を覆うようにしている。そこから覗く部分は不適な笑い顔、気取ったような、いや、気取った格好を取っていた。
グレイとしては癪に触ることだが、いちいち気にしていては話が進まない。なので相槌を打ち話の先を促した。
「ほう……となると何するのか考えていたのか?」
「無論だ」
ヴァンは椅子を軋ませ深く座った。
「グレイ、俺は考えていた。生徒会長とは何か?」
「ほうほう」
「生徒会長とは……」
ヴァンは右手を拳に変化させる。その理論の強さを裏付けるかのような力強さを伴えて、力説した。
「生徒会長とは……それはいわば、並みいる生徒共の頂点に君臨するもの。そう、いわば、王! 生徒達の王!」
「なわけねえだろバカ」
即刻突っ込みグレイ。速攻無視なヴァン、そして肩をすくめながらヴァンは続けていった。
「しかし悲しいかな、民衆はそれを理解していない。いや、理解できていない、というべきか。対象があまりに偉大であるがためか、正確な判断を下すことができずにいると言っていい」
「………………」
最早何を話せばいいのか、グレイは分からなくなった。しかしヴァンはそのままつなげていく。
「よってまずは民衆達に理解させることから始めようと考えている。民衆達に誰が頂点に君臨しているかを、誰が王であるかを分からせることこそが、手始めに行うべき事ではないだろうか! そしてそのために必要なこと、それは行い、行為だ! 故にまず行うべきは偉業だ!」