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魔王になりたい俺の友は善人として称えられる  作者: 狼煙
第1話 魔王になろとしたのはヴァン
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1ー④ 手をはなさなけりゃいいんじゃねーの?

 ヴァンの考えはいつもグレイを呆れさせる。

 持って回った言い回しや気障ったらしい態度など、全てがあほらしく寒々しい。そして、それは今回もそうであった。

 しかし、ヴァンの意見は全く完全な的外れな、頓珍漢過ぎる意見でないこともグレイは理解していた。


「……まあ、確かに生徒会長になったからには何かしらの大仕事というか改革というか、そんな感じのことしておかないと、『あいつ何のためにいたの?』みたいに見られるわな。だから何かしらの偉業を行う、てのは悪いことじゃないわな」

 一応の賛同の声はヴァンを大変喜ばしたようだ。満足げにグレイを指さした。

「そうだろうそうだろう! 我が配下グレイよ。一歩賢くなったではないか。だから言ったであろう。時が貴様を大きくすると」

 気分が良さそうに笑い声を上げるヴァン。

 都合のいいことは聞くんだな、とグレイは聞こえよがしに愚痴るが、先ほどと同様、全く取り合わなかった。


「まあ、方向は悪くねぇよ。だがよ、具体的にはどういう行動をするつもりなんだ? 偉業っていっても色々あるぜ? 校内のゴミ拾いでもするのか? 地域の清掃活動? 防犯活動? 挨拶運動? それとも近くの福祉施設にいってお手伝いでもするのか?」

 グレイの質問にヴァンは立ち上がり、一度マントを翻した。


「ふっ、心配は無用だ。もう考えは固まっている。我に秘策あり、だ! お前は安心して、私の策が実るのを待つがいい」

「秘策……ねぇ……俺さ、ガキの頃もお前がそんな風に言っていて、成功したのを見たこと無いんだけど。いや、ある意味成功といえば成功だけどな。お前の超運ちょううんは」


 その言葉は、ヴァンの仮面を剥いだ。

 演劇をしている、魔王となろうとしているヴァンの仮面を取り去り、怒りと狼狽に満ちた顔へ、年相応の少年の顔へと変えた。


「あ、あんなものが成功であってたまるものか! 俺の魔王化計画が一体何年遅れたことか! 子供の時に行ったあの失敗のお陰で、俺がどんな被害を被ったことか!」

「成功してたってあんなん魔王もくそもあるか! ただ理科室の窓硝子を外から石で割っただけじゃねえか。『これで俺は魔王だ!』とか何とか言ってさ」

「それが中で中毒を起こしていた人族達と魔族達を助ける結果を生んだんだよ!」


 超運。

 それはヴァンが備わった宿命、神からの祝福、本人にしてみると呪いみたいなものである。

 ヴァンは魔王になろうとして、これまでにも数々の悪事をやろうとしてきた。それは今に始まったことではない。だがどういう訳か、先ほど言ったように全て善行となってきた。それらをほぼ欠かさずグレイは見てきたのである。


 例えば、公園の名所である木を切り倒し、それを自らの行為であると宣伝した。

 名所を破壊した悪党、となるかと思いきや、木が腐っており倒れる寸前であったことが分かった。大規模な被害になる前に防いでくれた偽悪的な行為と判断され、励まされた。

 また、女子更衣室に潜入して女子の信頼を失墜しようとした。

 すると盗撮魔を偶然発見、自首させた。当然女子からも、男子からも感謝された。


 それらの記憶が蘇ってきたのだろう。ヴァンは悔しげな足踏みを何度も何度も繰り返し行った。。

 それを見て、内心の負の感情が晴れるのをグレイは感じていた。それは麻薬のような甘美さだったため、追撃も行った。


「はー、いい気味だな全く。その調子で多くの人から善人として称えられてろ。そして天使にでも神にでもなっちまえ!」

「グレイ! いくら貴様が友であるとはいえ、言っていいことと悪いことがある! 今の貴様の言葉は悪いにもほどがある言葉だ! 即刻撤回を求める!」

「誰がするか! さっきからてめえの言うこと無理矢理聞かされて見させられて、こちとらムシャクシャしてんだ! もっと誉められろ崇められろ! 善人としてな!」

「きっさまぁぁぁぁ! そこに直れ! 友であることを調子にのり、魔王に対しての無礼千万、生かしておけば秩序が保たれんわ! 今この場で処刑する!」

「秩序? 笑わせんな! ただお前の心に苛立ち募らせただけだろうが! ほんのわずかな仕返しでしかねぇよこんなもん!」


 グレイが叫んだ刹那、遠くから何かが聞こえてきた。一定の間隔で聞こえてくる音。それは靴が廊下を蹴るときにする音。

 そして、その足音の主が誰かも2人には何となくだが予想できていた。この生徒会室に駆け足で迫ってくるある人物が2人には記憶されていたからだ。

 足音が止み、ドアノブが音を立てて回り、そこから声が聞こえた。


「せんぱい! 会長! 見ましたよアレ!」

 突き飛ばすかのようにしてドアが勢いよく開かれ、壁に激突。そして跳ねて

「ぶべ!」

 返ってきたドアが顔にぶつかり、そのまま閉まる。

「………………」

「………………」

 しばしの沈黙。ヴァンもグレイも何も言わずただ固まっていた。

「……大丈夫か、ミリア」

 あまりにも無音な時間が続いたためか、扉越しにグレイは声をかけた。返事はないように思われたが、ややあって返ってきた。

「だ、大丈夫ですよ! こんなものであたしの志は折れないです!」

「おおーさすがだなー」

 多少棒読みであったが、グレイもそれには応じた。


「じゃあせんぱい、会長、今度こそ入らせてもらいますよ! 邪魔しちゃ嫌ですよ!」

「今度は気をつけろよ」

「大丈夫ですよ!」

 自信に満ちた声、信じて疑わない気持ちがその言葉からにじみ出ている。

「手で駄目なら足で開ければいいんですから!」

 ドアが勢いよく蹴り開かれ、壁に衝突。そして

「今度こぶば!」

 彼女が入ろうと一歩踏み出したとき、戻ってきたドアが再びぶつかりそのまま閉まった。


「………………」

「………………」

 再び訪れる静寂。

 いや、違った。ドア越しに鼻をすする音が聞こえてきた。それと泣き声も。

「く~……どうして……どうして入れないんですか!? せんぱい達もしかしていじわるしてませんか!?」

『どうしてそうなる』

 2人の声が完全に重なった。


「だって……だって、だってだって! あたしが入ろうとしてドアを開け放っても、すぐにドアが跳ね返ってきて入れないんですよ!? あたしは入りたい! でも跳ね返って入れない! あたしの意志を封じる何かがあるってことじゃないですか! つまりこれはせんぱい方の陰謀ですよ謀略ですよ願望ですよ!」

「……手をはなさなけりゃいいんじゃねえの?」

 グレイの突っ込みに3度目の静けさが訪れる。ややあってポンという、恐らく手を軽く叩いたのだろう、間の抜けた音が聞こえてきた。

「せんぱいすごいです! 神です! その発想は全然無かったです!」

「ちっと考えれば分かると思うが……」


「それじゃ今度こそ入らせてもらいますよ!」

 と再度ドアが開かれ、今度はきちんと手にドアノブを握りしめたまま、1人の少女が入ってきた。

 藍色の長い髪をポニーテールでまとめている。顔立ちは年相応だが鼻の辺りが多少赤くなっている。これは恐らく先ほどの影響だろう。

 ヴァルハラント学校の女子の制服を、男子が黒であるのに対し女子は青を基調としている服、きちんと着ていた。模範とさえなれるように、一切の改造やおしゃれも施していない。

 彼女の名はミリア。ミリア・ヴァレステイン。この生徒会の書記係風紀係その他もろもろ一切合切担当である。

 そして、ヴァンのことを正義の実行者だと思い込んでいる少女でもある。

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