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星脈のネクサス  作者: RIOKA
Season1〜The Awakening〜
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15/19

CHAPTER 14 墜落

【アラン・ロベール少佐の執務室】




「タナーが東部砂漠地帯に墜落した?」


 キリュウはロベールと並び、リンクコムの表示を見下ろした。


 まさか──


 タナーは次世代主力戦闘艦。

 正式配備前とはいえ、実戦データ収集任務中のはずだった。


 しかも、対カルザ戦を想定した神経リンク耐性設計。

 それにはルークも力を貸していた。


 それが、墜落?


 ロベールが即座に立ち上がる。


「危機管理部隊、状況を説明しろ」


『タナー艦長ジェームズ中佐とは連絡不能。被害状況は不明。戦闘部隊を現地へ緊急派遣する』


 無機質なAI音声が、室内に響いた。



 ──数時間後。


 断片的だった情報は、最悪の形で揃った。


 乗員五十五名。

 脱出できたのは六名のみ。しかも全員が重傷。


 残る四十九名のうち、

 十名は遺体で発見。三十九名は行方不明。

 大気圏突入時の船体破断で、生存の可能性は、限りなく低い。


 キリュウは無意識に拳を握った。


 緊急事態における事故対策チームが発足。


 だが──


「第三戦闘部隊のクドウと軍用犬リアムは、対策チームに編入されず残った?」


 事故対策チーム長からの報告に思わず聞き返す。


『先週、クドウが二日間消えただろ』


「ああ」


『あれ以来、リアムとの足並みが揃わない』


 たった二日で?


 キリュウの眉がわずかに寄る。


『クドウがリアムに躊躇している。リアムもそれを感じて、指示に従わない』


 キリュウはロベールと顔を見合わせた。


『現地は砂漠地帯だ。空からの降下になる。あのチームが来れないのは痛い』


「……そうだな」


 キリュウは短く答えた。


 だが、思考は別の方向へ向いていた。


 クドウの異変。


 リアムの拒絶。


 ──神経リンクを張られているのだとしたら。


 リアムは、それを〝感じ取っている〟のではないか。


『任務をはずされたのはショックだったんだろう。合気道で精神集中すると言っていた。会ったら励ましてやってくれ』


「ああ、わかった」


 通信が切れる。


 キリュウは一度、目を閉じた。


 ──事故なのか?


 ……いや。


 まだ、そうと決めつけるには早い。


 だが、もしこれが、事故ではないとしたら。


「キリュウ、チームAKFと現地へ向かえ。私は司令部と連携する」


「了解しました」


 キリュウはロベールにうなずき、執務室を出た。




【東部砂漠地帯 戦闘宇宙艦タナー墜落現場】




 タナーの墜落から一夜が明けた。


 渇いた風が吹く砂漠に、焼けた金属の匂いが漂っている。

 機体は原型をどどめておらず、半ば砂に埋もれていた。


 リラはロボットスーツを装着すると、グオと緊迫する現場へ入った。

 まさかこのスーツをこんなに早く実戦で使うことになろうとは、昨日の装備開発訓練室では考えもしなかった。


「基本は通常どおりの救助活動だ。行こう、第三戦闘部隊が降下する」


 グオの言葉にうなずく。


 この惨状とは裏腹に、空はどこまでも澄んで青い。


 そこに点々と現れる黒い機体。

 第三戦闘部隊のヘリだ。


 爆音と強風のなか、リラは目を細めて青空を見上げた。


 ホバリングする機体から次々と、犬を抱きかかえてスカイダイビングで降下する隊員。

 訓練だけでは成り立たない、ハンドラーと強い信頼関係がなければできない技だ。


 そのなかに、見覚えのある隊員の姿があった。


 ──キリュウだ。


 地上に降り立ったキリュウは、リアムを撫でて抱きしめる。

 少しの間そうやってリアムを褒めると、すばやく装備を外してリードをつけ、歩き始めた。


「こっちだ!」


 グオが手を上げる。


「リアムは南側区画よ、行こう」


 リラとグオは、優秀な相棒を連れたキリュウを現場へと先導する。


 墜落からすでに二十四時間が経過している。

 生存者の救助は一刻を争う。


「リアム、Go!」


 キリュウのコマンドを受け、リアムは迷いなく墜落艦へ駆けていく。


「オレはこっちで残骸を退《ど》ける、リアムを頼む」


「了解」


 グオにうなずくリラ。

 そしてキリュウたちの後を追った。


「しかし……想像以上に酷いな……」


 キリュウはそう言いながら変わり果てた姿になったタナーを見上げた。


「ワンッ、ワンッ、ワンッ」


 リアムの吠える声にハッとする。


「バーク・アラートだ、行こう」


「生存者を見つけたのね」


 リアムは小高い丘のようになった機体の一部分に立ち、吠えつづけている。


「私が登る。ここで待機して」


「了解」


 リラはリアムがいる場所まで、ロボットスーツの駆動力を使って登った。


 一歩一歩、足場を踏みしめるたび、ギシッ、ギシッと足もとで音がする。


 リアムはリラが近づくと吠えるのをやめ、破断した外壁の隙間から中に頭を突っ込む。

 そして何かを咥えてこちらを向いた。


「認識票……」


 〝Emma Williams〟


 金属のプレートに記《しる》された名前。


「エマ!」


 機関システム部隊の同期だった。


 リラも隙間から中をのぞき込む。


 彼女は金属の大きな壁に半身を挟まれ横たわっていた。


 閉じたまぶたが、ぴく、と動く。


 ──生きている。


「こちら捜索班。医療部隊へ、南側区画に生存者を発見」


『了解、向かう』


 短いルークの声がした。


「崩れた機体の撤去が必須。第一戦闘部隊、応援願う」


 すぐにグオが姿を現し、あたりを見回した。


「こりゃ、数人でうまく持ち上げないと……崩落するな」


 いくら強化装備とはいえ、こんな巨大な機体がさらに崩れては、被害者もろとも無事ではいられない。


「グオ、そっちを持ち上げろ」


 ロボットスーツに入ったルークが上がって来た。


「担架もだ!」


 あとからニコライも続く。


「リラ、彼女のそばに」


 リラはルークにうなずいた。


「エマ、もう少しがんばるのよ」


 彼女は青ざめた顔でわずかに唇を動かす。


「よし、一、二、三で持ち上げたら、磁力ジャッキをかませろ、いいか?」


「いいぞ!」


 ロボットスーツの数人が声を合わせる。


「いち、に、さん!」


 大きな金属壁が持ち上がり、エマの全身が見えた。


「……!」


 右大腿部を、太い支柱が貫通していた。


 ニコライが空いた隙間に滑り込み、彼女の脇に寄る。


「これは……」


 眉間にしわを寄せ、一瞬考えてこちらを向いた。


「ルーク! 来れるか?」


 ルークも隙間に入り状況を確認する。


 リラはその横でエマに話しかける。


「エマ、もう大丈夫だからね、もう、すぐに出られるわ」


 エマの唇がわずかに動く。


「……ちがう」


 かすれた声が漏れた。


「何がちがうの?」


 リラは彼女の口もとに耳を近づける。


「艦長が……艦長じゃない……」


 どういうこと……?


「リラ、いったん出て、応急処置する」


 メイヴが医療キットを持って入って来た。


「了解」


 ルークとニコライは顔を見合わせ、リラと共に外へ出た。


 ルークが神妙な表情でニコライに同意を求める。


「四肢切断術《アンプタ》だな」


 ニコライはルークの目を見てうなずいた。


「準備する」


 ニコライの声と共にふたたびリアムの吠える声が聞こえた。


「こっちにもいたぞ!」


 隊員の声がした。


「ニコライ、準備ができたら呼んでくれ、助手に入る」


「ああ、わかった」


「リラ、行こう」


 リラはルークにうなずき、焼け焦げて激しく損傷した機体の上を、二人で声のする方へ進んだ。


「ルーク、見てくれ、ここだ」


 キリュウがルークを呼ぶ。


 そこには、外壁に叩きつけられたままの遺体があった。


 ヘルメットが半分割れ、目は空《くう》を見据えたまま開いていた。


 キリュウがその胸元の認識票を手に取る。


「副操縦士だ」


 ルークはその顔をのぞき込んだ。


「これは……」


 瞳孔が、異様に開いている。

 黒く沈み込むように、虹彩がほとんど見えない。


 ──カルザ族の目だ。


 リラはルークと顔を見合わせた。


「……微弱な電気信号を検知」


 医療スキャナの表示が、かすかに揺れた。


「死後反応か」


 ルークはキリュウの言葉に首を横に振る。


「いや……違う。規則的すぎる」


 その場の誰もが、言葉を失った。


 まるで──


 まだ〝何かに接続されている〟ような。


「記録しろ」


 低い声でキリュウが指示を飛ばす。


「全データを回収する。これは事故じゃない可能性がある」


 それは、終わったはずの墜落事故のなかで、なおも何かが、静かに動きつづけている証だった。

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