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大人の男性の心理描写難しいのにゃぁ・・・誰か教えてほしいにゃ
「……美容院?」
助手席側にまわり込み彼女側のドアを開けた時、彼女が小さく呟いた。
初めて声を聞いた気がした。正確には二回目だ。甘く、どこか作ったような声色──声優の声を思わせるような、澄んだ響き。綺麗すぎて、逆に現実味が遠のく。想像していた所とはかけ離れた場所に連れて来られた──そう言いたげに、目を丸くして。鳴き声のように小さなその声は、ほんのかすかな驚きを帯びていた。
胸の奥で言い訳が浮かぶ。ホテルなんかに連れて行くはずがない。そんなことを考えた自分を否定するように──。彼女がこうして目を見開いた姿を見て、「やっぱりこれで良かったんだ」と自分を正当化する。
助手席のドアを支えたのは、別にエスコートのつもりではない。ツーシーターのドアは気を抜けば大きく開いて隣の車にぶつかる。今日は隣に車はなかったが、癖のように手を添えてしまっただけだった。
彼女はしばらく車の中からお店をみていたがやがて決意したように、ゆっくりと身体を屈めて立ち上がった。小柄な体には、あの狭い助手席もそれほど窮屈ではなかったのだろう。
「……おいで」僕はそう言って手を差し伸べた。
当然、その手が握られることはない。宙を切った手が少し恥ずかしくて、指先にかすかな熱が残った。
僕は二歩先を歩き、店のドアに手をかけた。いや、かけようとしたが物理的に開けることができなかった。
ドア越しにはラグドールという大きくなる種である正真正銘の猫のクリスティーナが、ずっしりと座り込んでいたのだ。まるでご主人様の帰りを待っていたかのように見える。……実際は、雨に興味津々でじっと眺めていただけだろう。
僕がもう少し近づき、ドアを押す仕草をすると、クリスティーナは「やれやれ」と言いたげな顔をして、下がった。その視線は僕だけでなく、後ろからついてきた迷い猫にも向けられている。一蹴するような目つきで、しかしどこか誇らしげでもあった。
(彼女は……猫アレルギーとか大丈夫だろうか?)いや、猫だから大丈夫だ。……いや?どうなんだ?考えれば考えるほどよく分からなくなる。頭の中が空回りして、的外れな心配ばかりが浮かぶ。こんな頭を使うことは久しぶりであったし、これからのことを考えると何かと頭を悩ませる──中年男の自己弁論は、自分でも苦笑いしたくなるほどだった。
一方の彼女は、夢と現実の境目に迷い込んだように立ち尽くしていた。美容院に連れて来られた事さえ、まだ理解できていないのだろう。
けれど、ドア越しに見える猫の姿に、その瞳がわずかに揺れる。雨粒がピンク色の髪を伝って落ち、毛先がかすかに震えた。──ただそれだけのことなのに、僕には猫の耳がぴくりと動いたように見えた。
戸惑いと緊張の中に、ほんのわずかな安堵が混ざった“気がした”。そのとき、彼女はふっと笑みとも吐息ともつかない声をこぼす。
「……おかしいな。全部、空っぽでいいはずだったのに……。どうしてだろう……」
僕は彼女に続く言葉を探せず、ただその横顔を見つめていた。
雨の音と、猫の尻尾がゆるやかに揺れる気配だけが、静かに流れていった。
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