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みんなで小説家になろう!リレー小説について  作者: 小説家になろうラジオリスナー&構成作家
3/3

「はぁ…」1人と1羽がいる部屋に私のため息が響く。

「はぁ…」


1人と1羽がいる部屋に私のため息が響く。

その晩は、小説家になろうでお気に入りの作品を読んでいるというのに、全然内容が頭に入ってこなかった。


「溜息なんかついてどうしたんじゃ?何かあったなら、話してみるといいじゃろう?」


「あ、大丈夫です。モモ先生に言っても仕方ないことなんで」


「なっ…!…まぁいい。思春期の若者にはいろいろあるだろうからな。

でも、このモモ先生にはすべてお見通しじゃ。大方、勉強の悩みじゃろう?」


「すごい!自信満々なのに全然違う」


「そういうことも…ある…。とにかく、ワシでよければ話してくれないか?」


バツが悪そうに少し早口になるモモ先生。

心なしか顔はいつもよりピンクが濃くなっているようにも見える。

その姿があまりにもがかわいそうになったので、私はため息の理由を話すことにした。


「実は、下駄箱にこんな手紙が…」


鞄から取り出したのは1通の手紙。


「何々…

好咲よみさきさんへ、明日の放課後、校舎裏に来て頂けませんか?大切なお話があります”だと!?

 これはラブレターじゃないか!?」


驚くモモ先生を横目に、「モテる女は辛いっすよ」的な顔でニヤリと笑ってみた。

鏡で見たら自分でも絶対イラっとするだろう。

そんな冗談はさておき、この手紙には気になることが1つあった。


「でも、差出人が書いてないのよね…」


「心当たりはないのか?」


「全然。私、いままで恋愛なんて小説の中だけのお話だと思ってたから」


喜びと戸惑いを感じながら、手を伸ばしぼんやりと手紙を見つめる。


「まぁ、いまどきラブレターを送るなんて、古風でいいじゃないか!

ヒナは嫌ではないんじゃろう?」


「まぁ、嫌ではないけど…」


「それなら、会ってみればいいじゃないか。

会ってダメならごめんなさいって言えば良いじゃろう?」


「それもそうね。あれこれ考えても仕方ない!

 とりあえず明日の放課後、校舎裏に行ってみる!」


「ワシがの推理によると、きっと知的な読書好きのイケメンからじゃろうな」


モモ先生の推理って当たらないからな、と一抹の不安を覚えたまま、その日は眠りにつくことにした。



翌日の夜。


「はぁ…」


「また溜息なんかついて。で、結局手紙の相手はどうしたんじゃ?」


「それがね、校舎裏に行ったら学校1のイケメンの佐々木先輩がいたの」


「おお!それはよかったじゃないか!」


よかったらこんなテンションになっているはずがない。

なかなかに察しの悪いモモ先生にちょっとイラっとしつつ、言葉を続ける。


「そのあと言われたのよ。

『よかったら図書委員にならないかって。本好きの君なら後を任せられると思う』って」


それを聞いて全てを理解したモモ先生の顔が半笑いになるのが分かった。


「ラブレターじゃないならなんであんな回りくどいことするのよ!意味わかんない!」


「それは残念じゃったなぁ。

まぁ、落ち込むな。もしかしたら図書委員の活動で先輩との距離が縮まったり…」


「先輩はもう引退だから委員会には顔出さないんだって!」


ヘラヘラしながら話すモモ先生の言葉を食い気味に答える。

そりゃあ勝手にラブレターだと勘違いしたのはこっちなんだけど…

恥ずかしさと怒りが混ざり合った複雑な気持ちを振り払うように、天を仰ぐ。


「はぁ…やっぱり私には小説みたいな恋愛は無理なのかなぁ」


「まぁまぁそう気を落とすでない。

とりあえず、小説家になろうで恋愛小説を読んでみればいいだろう!」


言われなくてもそうするつもりだ。

私はベッドに身を転がし、スマホに手を伸ばす。


「一応、知的な読書好きのイケメンというワシの推理は当たってたんじゃがなぁ」


モモ先生のしょーもない発言は無視して、トップページから恋愛のジャンルをタップする。

現実の恋愛なんてロマンチックには程遠い。

でも私には小説家になろうがある。

小説の世界なら、いくらでも甘い恋愛を味わうことができるのだ。


選んだのは、お気に入りの恋愛小説。

ゲームのやり過ぎと過酷な仕事。その両方の所為で過労死したアラサーゲームオタクの主人公が、

最後にプレイしていた乙女ゲームの世界の悪役令嬢であるカトレアに転生するお話。

物語はクライマックスを迎え、絶対不可避ともいえる死亡フラグを

持ち前の知識と行動力で回避した銀髪美少女のカトレアは、

伯爵の子息だったイケメンの家庭教師のアルと結ばれるのだ。


ブックマークしていたのは、アルとカトレアが思い出の庭で待ち合わせをするシーン。

真剣な眼差しのアルを前にして、カトレアの胸のドキドキ…

いつものお調子者のアルとのギャップに読者もドキドキ…

あとは告白するだけ、こんなのパッピーエンドな展開のラストが待っているのに間違いない。

ベタで甘々な展開を求め、読み進めていく。







夜もふけ、2人だけの約束に庭に着いたカトレアは、木陰にもたれ掛かっている人影を見つけた。


「ふふふ、アルったら待ちくたびれて眠ってしまったのね」


いたずら心をくすぐられたカトレアは、人影に近づくと、後ろから顔を隠すように手で覆った。


「だーれだ?」


カトレアが訪ねても返事はなかった。

いつものアルならウィットに富んだ返しをしてくれるはずなのに。

恐る恐る顔を見ると、思いもよらぬ顔が現れた。


「叔父様…?」


カトレアがアルだと思って近づいたのは、この屋敷の主である叔父のジョセフだった。

どうして叔父様が!?

この庭に来ることなんてほとんどないのに!?

理解が追い付かないカトレア。

そして、叔父を抱く手に生暖かい温度が伝わってきた。


「これは…血?まさか、死んでるの…?叔父様!叔父様!!」


見ると、叔父の懐には短剣が刺さっていた。

どうすればいいか分からず、思わずその剣に触れてしまうカトレア。

その瞬間、聞き覚えのある声がした。


「カトレア!?君は何をしているんだ!?」


振り返ると、ブロンドの髪に整った眉、少し下がった目じりと金縁の眼鏡、そして茶色いローブを着た男、

すなわちこの場所で会うはずのアルがいた。


「まさか君がやったわけじゃ…」


「違うわ!わたしもよくわからないの。ここへ来たら叔父様が倒れていて…」


「でも、その剣は君のものだよね…?」


確かに叔父に刺さってる剣は、護身用にアルから貰ったものだった。

いったい誰が!?どうして!?様々な疑問が頭を巡り、カトレアがうまく言葉にならない。

そうしているうちに、騒ぎを聞きつけたお屋敷中の人間が庭に集まっていた。

事件のモヤモヤとザワザワをかき消すようにカトレアが声をあげる。


「とにかく、今は命の方が大事だわ!お医者様を呼んでくる!」


カトレアが立ち上がった瞬間、コロンとポケットから何かが落ちる音がした。


「それは…ジョセフさんが大切にしていた金の懐中時計…。どうしてカトレアが…」


自分のポケットから身に覚えのない懐中時計が出てきたことで、カトレアはいよいよ言葉を失った。

見つめ合う2人。

そしてアルの手がカトレアの肩に触れた。


「カトレア、君に言わなければいけないことがある」


カトレアは信じて欲しい一心でアルの瞳に思いを込めた。


「こうなった以上、君は容疑者と言わざるを得ない」


「私は、やってないわ…」


恋人からの信じがたい言葉に、そうつぶやくのが精いっぱいだった。


「僕だって信じたい…でも…

もうすぐ警察が来る。それまでは地下室でおとなしくしていてくれ」


「そんな…アル…!アル!!」



冷たい石の地下室に連れていかれるカトレア。

ドアを閉める瞬間、アルから非常な言葉を浴びせられる。


「カトレア、婚約はなかったことにさせてくれないか?」


彼女の返事を聞く間もなく、重い扉の音が響いていくのだった。




一体真犯人は誰なんだろう…

じゃない!いつの間にかサスペンス小説になってる!?


「モモ先生!これ見て!」


ベッドから飛び起きて問題の文章を見せると、モモ先生は間髪入れずに叫んだ。


「いかん!小説が歪みだしておる!これは魔法小説家の出番じゃぞ」


「そんな急に!?」


「時間がない!このままだとカトレアは捕まってしまうだろう!」


「分かった!でも、とりあえず靴持ってきていいい?」


「そんなもの魔法でなんとでもなるから!早く!」


そういうものなのか。魔法小説家って便利なもんだな。

規約をちゃんと読んでおけば良かった。

なんて考えつつ、スマホのログインボタンを強くタップする。


「よーし!小説の世界にログイーン!」


まばゆいばかりの光を受けて目をつぶると、前回と同じ浮遊感を覚えた。

そして再び目をあけたときに現れたのは、どこか既視感のある地下室の入り口。

目の前にはうつむいて泣いている銀髪の女性がいた。


「よし、成功ね!カトレアさん、助けに来たわ!」


突然現れた私を見て、目を白黒させて驚くカトレアさん。

カトレアさん、こんな顔してたんだなぁ。イメージぴったり。

それにしても、驚いている顔も綺麗だなぁ…

そんなことを考えながら見とれていると、カトレアさんが恐る恐る口を開いた。


「あの……どなたか存じませんが、婚約破棄されたわたくしを助けても、何もいいことなんてありませんよ?

それどころか、あなたの身にも危険が及ぶと思うのですが……」


心底怪訝な顔で、奇麗なドレスを纏った銀髪の美少女が私の顔を覗き込んだ。

心配そうにこちらを見つめる紫の双眸に、大丈夫だという意思表示を込めて私はひらひらと手を振る。


「私は好咲ヒナ。通りすがりの魔法少女です。この世界の歪みを正しに来ました。怪しい者じゃありません」


「……ヒナ。それじゃあ自分が不審者だと言ってるようなものだろう」


「モモ先生は黙ってて」


「私はあなたの見方よ。

 あなたがいままでどんな困難を乗り越えてきたかも、叔父さんを殺していないことも、ちゃんと知ってる。

 あなたみたいな人は幸せにならなきゃダメなのよ!

 だから、真犯人を見つけ出しましょう!」


「ヒナさん、ありがとうございます。でも一体誰がやったのか…」


「カトレアさん、最近怪しい人影を見たりしななかった?」


そう尋ねると、無言で私の方をじっと見つめてきた。

確かにこの世界で突然現れ、魔法小説家と言い張る少女はかなり怪しい。部屋着だし。

このままだと犯人にされかねないと悟ったモモ先生が、慌てて語り掛けた。


「ヒナ!この姿じゃ怪しまれるばかりだろう!

真犯人を見つけ出すために名探偵に変身するのじゃ!」


「なるほどね!わかったわ!」


私はそう言いうと、貰った魔法のペンを右手に持ち、斜めに振り上げる!


「名探偵に、へーんしん!

って言ってもだめなんだよね。こういうときは、推理小説を読むんだった。

できるだけ短めのがいいなぁ」


素早くスマホを取り出すと、“名探偵”で検索して、ちょうどいい小説を探す。

私が選んだのは『名探偵ノーキンの事件簿』という小説。

頭脳はそこそこ、正義感とフィジカルに多くのパラメータを振った私立探偵ノーキンが

持ち前の筋肉とそれなりの推理で事件を解決していく、一風変わった推理小説だ。

1話完結の短編集だからスラスラ読めてしまった。


「あー面白かった。2話も…」


「そんな場合じゃないだろう!


「そうだった!名探偵に変身!!」


女騎士に変身した時とはまた違う不思議な感覚につつまれ、私の体が輝く。

そして、イメージしていた通りの鹿打ち帽にパイプ、トレンチコートの名探偵に変身することができた。

「さーぁて、名探偵ヒナ、ここに誕生よ!」


「ヒナって、形から入るタイプなんだな」


「モモ先生、雰囲気って大事なのよ。

とにかく、この物語、魔法小説家…いや!名探偵ひなが素敵な物語に書き換えてあげるわ!

 このピンク色の脳細胞でね!」


「ピンク色ってことは普通の脳ってことだよな」


「そうとも言う」


変身を終えた頃、ちょうど入り口から足音が聞こえてくる。


「誰だお前は!?」


現れたのは、カトレアの元婚約者、アルさんだった。


「私はヒナ。数々の難事件を解決してきた探偵です。こちらは助手のモモ」


「助手って!先生だぞ!」


モモ先生の言い分は無視し、探偵然としたセリフを続けた。


「この屋敷で事件があったと聞きましてね。警察からの要請で駆けつけてきたんです

 この事件、何か匂いますね」


決まった!今ほど、子供のころからミステリー小説を読みあさっていて良かったと思うことはない。

探偵とは雰囲気と、勢いが大切なのだ。


「匂う…ですか。

ヒナさん、僕もカトレアが犯人じゃないって信じたいんですが、状況証拠が揃ってしまっていて…」


「そんな状況証拠など、いくらでも覆せますよ。

 カトレアさんが奪ったという時計を見せて貰ってもいいですか?」


アルさんが懐の袋から証拠品の時計を丁寧に取り出し、机の上に置いた。


「時計が止まっていますね。おそらく、襲われたときに壊れたんでしょう。

 時計の時刻は19時、そして先ほどカトレアさんがジョセフさんを見つけたのは21時過ぎ。

 これはおかしな話ですね」


私の推理を聞いて、肩に止まっていたモモ先生が耳元で囁く。


「おいヒナ。止まった時計の時刻なんて信用していのか?

推理小説で言ったら、犯行時刻を操作するなんて、犯人側の細工のイロハのイじゃないか?」


「何言ってるの。これは推理小説じゃなくて恋愛小説に書き換えなきゃいけないのよ。

 複雑なトリックなんていらないの!

こういうのは、言い切るのが大事なんだから!」


「なるほど…」


私の自信満々な顔のおかげか、アルさんは納得してくれた。

こうなればこっちのものだ。


「カトレアさん、19時頃は何をしていましたか?」


「確か…屋敷の農場で執事のジェームスと一緒に農作業をしてた頃だと…」


思った通りの発言が聞けて、私は思わずニヤリと笑った。


「なるほど。これでカトレアさんのアリバイは証明できたってことですね。

 凶器の短剣も、金時計も、真犯人がカトレアさんを陥れるために仕組んだと考えれば…

 事件を一から洗いなおした方がよさそうですね。

 アルさん、もう1度屋敷の人を集めて貰っていいですか?

 そして、19時ごろに怪しい人を見なかったか聞いてみて下さい」


「わかりました!」


アルさんが駆け出すと、広間に屋敷の住人が集まるまでそれほど時間はかからなかった。

主であるジョセフの奥さんに、その両親と5人の子供たち。

3人の使用人にコックとその助手、それに庭師と犬が一匹、そしてカトレアさんとアルさん。

総勢16人が顔を揃える。

モモ先生は犬にやたら絡まれているから、外で遊んでいてもらおう。


「お集まりいただきありがとうございました。

 みなさんにお聞きしたいことがあります。

 本日19時ごろに怪しい人物を見かけませんでしたか?」


すると、長女のサラと次男のルカ、使用人のクリス、そして庭師のティムが名乗り出た。


「怪しい人物…そういえば、花壇の影で怪しい人影を見たわ。確か、茶色い帽子をかぶって、髭が生えていたわ!」


「そのときは僕も姉さんと同じ部屋にいたんだ。僕も茶色い帽子の男をみたよ。何かキョロキョロしていたな」


「私は廊下を掃除していたのですが、2階の窓から、走り去っていく帽子の男を見ました。

 妙にあたりを見回していたから、変だなと思ったんです」


「俺も茶色い帽子をかぶった髭の男が門のところにいるのを見たぜ。

普段ならあの時間に客が来るはずもないから、あいつは絶対怪しいな」


4人の証言を聞いて、アルさんは驚きと少しの安堵の表情を浮かべた。


「なるほど。4人の証言が一致するということは、その男が怪しいですね。

やはりカトレアじゃなかったんですね。

よし!今すぐ警察に言って、そいつを追ってもらおう!」


しかし、その時私はアルさんとは別の考えが浮かんでいた。

帽子、ヒゲ、4人の証言…妙だな…。時刻は19時…そうか!


「待ってください!

 なるほど、謎は全て溶けました。真犯人がわかりましたよ」


「ヒナさん、どういうことですか?真犯人は帽子の男じゃ…」


「そうとも限りません。

 考えてもみてください。ちょっと4人の証言が一致しすぎていませんか?

 この広いお屋敷で4人も怪しい人物を見たというだけでも不自然なのに、

 帽子に髭という特徴まで一致しています。

 みなさん、あちらを見て頂けますか?」


私は窓から門の方を指さす。

そこには犬と戯れるモモ先生の姿があった。


「奥様、あの丸い鳥、何色だか分かりますか?」


「何色って、こんなに暗いと色までは…」


「そう、分からないんです。今日の日没は18時前。

おそらく19時になったら真っ暗ですよね。

でも4人は犯人の帽子の色を茶色だと言っています。

 しかも、髭面であったという特徴まで記憶しているんです。

 人はよほど覚えようという気がなければ、

チラッとみただけの人物の特徴を詳細に覚えていることはありません。

 ということは、4人は口裏を合わせているのではないですか?」


「な、なにをバカなことを…私は…とにかく見たのよ!」


慌てる長女のサラさん。

それを遮るようにまくし立てる。


「だったら、なぜみなさんはその男のことを今まで黙っていたんですか?

 カトレアさんの疑いが晴れてしまったから架空の人物を作りだし、罪を着せようとしたんじゃないですか?

 カトレアさんの短剣を盗み、ジョセフさんを襲い、金時計を忍ばせるの、1人では到底無理でしょう。

 でも、4人が共犯だとすれば、全ての辻褄が合うのです!

 サラさん、これでもまだ謎の男がいたと言い張るんですか?」


普段の生活では到底話すことがないような長セリフがスラスラ出てきて、本物の名探偵気分に浸ってしまう。

これが魔法小説家という物なのだなあと感心していると、犬の涎まみれのモモ先生が戻ってきた。


「ヒナ、大丈夫か?これ以上、決定的な証拠はないんじゃろう?」


「大丈夫よ。ここまでいけば犯人は勝手に自供するものだから」


「そんなもんかのう…?」


モモ先生は怪訝な顔をしているが、それが小説のお約束というものなのだ。

案の定、使用人のクリスが口を開く。


「なるほど…。でも証拠がないじゃないか!お前、適当なこと言ってんなよ」

 

その声を合図に、4人が堰を切ったように詰め寄ってくる。


「そうよ。だいだいこの女は誰なのよ」


「そうですね!これは訴えることも考えなければ」


「おめえ、ぶっ飛ばすぞ!」


「ヒ、ヒナ…どうする!?」


おかしい。思ってた名探偵と違う。

もっとスマートで知的で高尚なものだと思っていたのに。

かの有名な名探偵もこんな苦労をしていたのならちゃんと書いておいて欲しかったと、

あくまで冷静を保とうとするが、4人は全く収まる様子がなかった。

そして庭師のティムにコートの襟をつかまれた瞬間、私の中で何かが弾けた。


「えーい、もううるさい!あんたたちがやったって分かってるんだからね!」


そう叫んで近くにあった机をたたくと、頑丈なはずの樫の天板が真ん中から真っ二つに割れた。

その勢いでティムは大きく吹き飛ばされ、壁に強く激突。そのまま伸びてしまった。


「これが圧倒的なフィジカル…。さすが名探偵ノーキン…」


私の人間離れしたパワーに場の空気が凍り付く。


「とにかく、怪我したくなかったら今のうちに自供した方がいいと思うけど…?」


精一杯の低めの声色で四人を威嚇すると、身の危険を感じた4人はおとなしく犯行を認め始めた。

全てはカトレアとアルの婚約を快く思っていなかたサラとルカが計画したもので、

使用人のクリスと庭師のティムを抱き込み、犯行に及んだのだった。

驚くべきことは、被害者のジョセフでさえグルだったということ。

事件そのものが彼の自作自演だったというのだ。

恨まれるのが主人公の常とはいえ、理不尽に敵が多いカトレアさんには同情する。

それでも「被害者がいなくて良かった」と言える彼女の心の美しさには、感心するばかりだった。


「とにかく、事件が解決してよかったね」


「推理と言うか、最後はほとんど脅迫だったけどな。

 ここはもう大丈夫じゃろう。そろそろ現実世界に帰ろう」


「そうね。それじゃあカトレアさん、アルさん、お幸せに」


「待ってください!この度は本当にありがとうございました。

お2人にはお礼を…」


アルさんがそう言うのも聞かず、モモ先生が頭の髪飾りをつついた。


全く慣れない痛みとともに遠のく意識。

そして目が覚めるとベッドの上にいた。


「それにしても、お礼くらいは貰ってもよかったんじゃない?


「何を言っておる。せっかく正しく小説を書き換えたのに。

余計な影響を与えることはないだろう?」


そんなもんかと思いながら小説家になろうにアクセスし、もとの小説を開いてみると、

カトレアさんとアルさんが約束の庭にいるシーンが目に入る。


見つめ合う2人。

そしてアルの手がカトレアの肩に触れ、告げるのは告白のセリフ。

ここまでくればもう一安心。


「モモ先生、この2人、なんか前よりも甘々になってる気がするよ」


「ヒナも早くこんな恋ができるといいな」


「あたしは…まだいいかな。

 だって、カトレアさん達をみていたら、小説みたいな恋も結構大変なんだなって思っちゃったし」


とりあえ小説の中だけ楽しめれば大丈夫かな、と思いながらハッピーエンドを堪能した。

最後まで読み終わり、心地よい読後感に浸っていると、お風呂場の方から鼻歌が聞こえてきた。


「あ、モモ先生、いつの間に」


「だって、あの犬ワシのことめちゃくちゃに舐めてくるんだぞ」


遠くに響く声をとともに、食欲を誘う香りが漂う。そういえば昨日から何も食べていなかった。


「そうだ!」


キッチンを経由してお風呂場に向かうと、器用に湯船につかるモモ先生が見えた


「モモ先生、せっかくだからバスソルト入れたら」


「ありがとう。気がきくな」


「リラックス効果脳あるハーブもあるよ」


「お、おう。助かる」


「お湯が冷めてきたから、もう少し温度上げるね」


「え?ちょっと!熱っ!熱いって!」


「まぁまぁ、モモ先生。もう少しエキスがでるまでお風呂に入っていてくださいよ」


「お前、ワシで出汁をとろうとしてるじゃろう!」



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