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魔獣が主人を選ぶ時  作者: 猫淵光
出会い
5/11

魔術師の誕生


乳母と母屋で過ごす日々が続いていた。

母親も祖父もどうやら忙しいらしい。

最近の噂話を聞き、飽きてきたところで幼女は母親の本棚を読み漁る。

所々分からない単語は乳母に聞く。


最近は兄も忙しそうなので、専ら本を読み漁っている。


母親の本棚もほとんど読み尽くしてきたので、今度は父親の書斎に潜り込む。


父親の書斎にある本は殆どが難しい医学書だった。

人体の作り、魔力持ちと魔力がないものの差や治療をする時の心得などだ。

薬学の本もあるが、実物が全く分からないので頭に入ってこない。


そんな中一冊の魔術書を見つけた。


中身を見ると簡単な魔法から、複雑な魔法までの発動するコツが書かれている。



『おいおい、まさか魔法を使うんじゃねえだろうな…』



虎が案じていた通りの結果となる。





幼女は母親が以前見せてくれた火の魔法を、再現したのだ。

指をパチンとすると、指から火魔法が放たれる。

すると、少し大きめな火が出てしまった。


カーテンに引火し、慌てて幼女はバケツの水を思い浮かべて、水を生み出し鎮火する。


額に流れる汗を拭い安堵していると、勢いよく扉が開けられ父親がやってきた。



「何者だ!」



幼女と目が合い、父親が自分の書斎の惨状を見つめるとため息をつく。

幼女が俯くと抱き上げ、頬をすり寄せる。



「ユーリアは魔法が使えるんだね!まだ誰も教えていないっていうのに、なんて優秀なんだ…クラウディアー!」



母親は今日は来客が来て歓談室にいるというのに、母親がいる部屋に突進していく!






「クラウディア聞いてー。うちの子がね…自分で本を見て魔法を使ったんだよー!誰も教えてないのに…優秀なんだ!」



母親にグイグイ近寄っていく父親は、手で抑えられると、母親に叱責される。



「エルノ、今日はイェンニと大事な話をすると言ってたでしよ?忘れたの。」



母親の笑顔に凄みがある。怒っているらしい。


イェンニと呼ばれる女性は笑って許し、幼女に話しかけてくる。



「クラウディアの娘か、大きくなってからは初めてだな。私はイェンニだ。お前の母とは古くからの知人だ。」


「ユーリアです。よろしくお願いします。」



父親に下ろしてもらい、幼女はスカートの裾を持ち小首を傾げる挨拶をする。



「んー。魔力が見えぬな。クラウディア隠蔽をとけ。見せてくれてもいいだろ?」


「あの親バカなエルノが去ったらにしますよ。

エルノ、ユーリアには私から話をして聞くわ。サッサと仕事に戻りなさい!」



父親は拗ねながら、扉に向かって歩く。



「そんなに怒らなくてもいいじゃない。せっかく娘が僕の書斎のカーテンを燃やして、床を黒焦げの水浸しにするほどの魔法を、使ったっていうのに!4歳だよ。4歳!」


「はいはい、分かったから、後始末からまずは指示を出してきて下さいな…。ほら、早く!」



母親に追い出されて、父親は部屋を出た。



「相変わらずだなエルノは、親バカぶりに磨きがかかっておる。」


「本当に…」



母親は幼女の額に手を当てると、隠蔽魔法を解いた。



「ほう、さすがクラウディアの娘だ。魔力量といい顔立ちといい、良いところをとったな…」



顎に手をやりじっくり検分され、幼女は思わず目を逸らす。



「性格はエルノですよ。おっとりとしてはいますが、この年で文字も読めますし、知識も本から学んでいます。独学で魔法を使ったと言われても、違和感は感じません。」



女は顎に手をやり、ニヤニヤとする。



「クィントン家は跡継ぎには困らんな…どの世代も優秀な者揃いだ。」



そんな言葉に幼女が首を傾げる。



「私は家を継ぎませんよ。お兄様をお支えします。」


「ほー、そうか。幼いのに頭が良いなあ。まあ、兄の籍を抜いてという手をあるのう。クラウディアよ…ユッカの息子も優秀だと聞く。」



女の言葉に母親は慌てて首を振る。



「その事は追々でいいでしょう。まだ幼いですし…まあ、優秀な子供達がいるという事は心強いですよ。」



母親は幼女の頭を撫で、抱っこする。



「まあ、今日はひと段落したし、どうだユーリアよ。この後少し魔法を使ってみないか?」



幼女は大きく頷くと母親は頭を抱えてしまった。

 


「イェンニ様それは…」


「よいよい。訓練場ならカーテンも焦がされんぞ。なあ、ユーリアは黒い鳥に乗ってお出かけだ。」


「イェンニ様…」


母親は言葉を詰まらせながら、断ることもなく、黒い大きな鳥に乗り、一緒に空を移動する。


上空から見ると、国の真ん中あたりにある城の大きな広い敷地に降り立った。






「ほら、ユーリア、火の魔法を使ってみろ、そうだな。的はあれだ。」



指差した先にいたのは、一人の父親とあまり変わらない世代の男だった。



「陛下?クラウディア様?」



指を刺された男は女に手招きされ、目の前で片膝をついた。



「エドガーよ。これはクラウディアの娘だ。どうやら、少し魔法で遊びたいようでな。少し遊んでやれ。」


「遊びですか?」


「ああ、動きまわっていいぞ?その方が面白い。」


「御意に…」



男は少し離れて剣を構える。



「お母様魔法を人に向かって放っていいのですか?」


少し不安になり、後ろで肩に手を添えてくれている母親の顔を見上げると、渋い顔で頷く。


「いいわよ。エドガーなら大丈夫。私も危ない時は止めに入るわ。」


「大丈夫だユーリアよ。クラウディアの娘に黒焦げにされても文句は言わんよあの男は…」



クスクスと笑う女の言葉に、男は顔を赤くさせる。

幼女はなんとなく言葉の意味が分かり、ニヤニヤとすると、男が俯いた。



「エドガー様、行きますよ。」



幼女は手を銃のように構えて、男に向けて放った。


銃をイメージしたからか、勢いよく出た小さな炎が男の横をかすめる。



「えっ。」



男が、唖然として立ち尽くしている。



「ほう、なかなかだなー。ほら男当たったら減給だがんばれよ。」



女に囃し立てられ、男が動き始め、幼女も狙いを定め打っていく。



「ユーリアよ。お主も動いていいぞ?エドガーに一発当てたらそうだな…パフェを奢ってやる。」



幼女の闘争心にも火がついたようだ。幼女は先ほど魔術書で読んだ知識を思い出して、身体強化のイメージをする。

元からあまり筋力がない4歳児でも一定のスピードは出るようだ。



「ほう、身体強化も使うか…クラウディア、そちの子は本当に今日初めて魔法を使ったのか?」


「ええ、自分の娘の規格外さに驚いております。」



男の動きについて行こうとするが、向こうもスピードを上げてくる。4歳児には身体強化をしてもあまり意味がないことに気づき、火を放ちながら、考える。


幼女はわざと地面に大きめの火を放ち、男の動きを一瞬止めると、風の魔法で土埃を起こし死角を作り、火魔法を放つ。


男が剣を構え、火を払ったところで幼女が背後から火魔法を放つ。


背後からの攻撃に無意識で反応した男が剣を振り下ろすと声がかかった。



「止め!」




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