氷の華の私に、心溶かすキスを
本日、本編最終話です( ^ω^ )
賑やかなホールの喧噪を避けるように、月明かりに照らされたテラスに、レオニード様と2人出る。
先程のレオニード様の公開プロポーズのせいで、私の顔は火照ったまま。
(も、もしかして、先程の出来事は夢かしら)
しかし、夜風に当たると、少しずつ冷静さを取り戻す。
(いや、そもそも偽装婚約だし、エドガルやエリフ様を欺くための演技!?)
あまり表情筋の動かない私の顔の下で、色々な感情が渦巻く。
ちらっとレオニード様を見ると、心配そうにこちらの様子を窺っていた。
「……。いきなり人前で、すまなかった」
目が合うと、いきなり謝ってきた。見ると、手で口元を押さえ、頰がほんのり色づき、恥ずかしそうである。
氷のレオニード様にしては珍しい反応だが、流石に公開プロポーズからの公開キスは恥ずかしかったらしい。
「レオニード様、あれはどこまで本気ですか? それとも、もしや偽装婚約として皆を欺くための演技ですか?」
レオニード様が口をポカンと開く。
「本気に決まってるだろう? 本気でなければ、あんな恥ずかしいことはできない。 ヘッセンに煽られて、お前を奪われなくない一心で、偽装婚約の話は、すっかり頭からすっ飛んでいた。つまり、あれは心からの本心だ。演技であんな告白、できないよ」
「では私は本当に、レオニード様も仕事も諦めなくていいんですね」
「当たり前だ。必ず私の力で何とかしよう」
そう言って、私の頭を優しく撫でてくれた。
「レオニード!」
声がする方を振り向くと、宰相がテラスにやって来た。
「どうだ? 私の計画通り、お前たちは偽装ではなく、本物の婚約者になれたか?」
ご自慢の髭を弄りながら、はっはっはっと嬉しそうに笑う。
「す、全て宰相の策略だったんですか!?」
驚きで、私は思わず聞き返す。
「私は数年前から、此奴の父親から頼まれて、結婚を勧めていたが、全然その気になってくれなくてな。最近では、その結婚相手筆頭候補として、氷結コンビでお似合いのメルゼブルク嬢を推していたのだよ。何かきっかけがあれば上手くいくと思っていたが、やはりそうだったなぁ」
「宰相の先見の明には叶いません。彼女は私の人生に欠かせない女性になりました」
そう言って、レオニード様は私の腰を引き寄せた。
うんうんと、宰相は満足そうに頷く。
「お前の父も喜ぶだろう。陛下には、偽装ではなく、本当の婚約としての許可を取り付けておこう。お前には先程の宣言通り、我が国の女性の働き方改革に取り組んでもらわないとなぁ。忙しくなるぞ」
「お任せを」
「ミハイロ様も、お前にフラれて傷心のエリフ様と、きっと上手くやってくれるだろうし、全て、私の計画通り。では、私は陛下の所へ行ってこよう」
そう言って、宰相はレオニード様の肩をポンと叩き、私達の元を後にした。入れ替わりで、親友のディアーナが1人の紳士を伴ってやって来た。
「アルヴィナ〜! おめでとう! あのキスが上手な職場の人って、イーゼンハルク様のことだったのね!」
嬉しそうに、私とレオニード様の顔をマジマジと見る。
「こっ、声が大きい!」
赤面しながらレオニード様を見ると、口をヒクヒクさせて、珍しく笑顔を無理に作っている。
「イーゼンハルク様、アルヴィナを宜しくお願いします。そして、良かったら、私にそのキステクニックの秘訣を実地で教えてくださいっ! 氷の華のアルヴィナを溶かすキスがどんなものか、私も味わってみたいわ〜」
ディアーナは妖艶な雰囲気を出したながら、唇に指を当て、可愛らしく首を傾ける。
「だ、ダメよっ」
冗談と分かっているが、本気で止めておく。
(でもね、ディアーナ。きっとキスはテクニックだけじゃないのよ。キスしたらきっと分かる。本能がその相手を求めてしまうのよ。この人とくっつきたい、1つになりたいという動物的要素だわ。きっと)
「ディアーナは、イーゼンハルク様以外で、運命の相手を見つけなさい! というか、隣にすでに素敵な殿方がいるじゃないの!」
ウフフと笑いながら、隣の紳士の腕に、絡みつく。
「お邪魔したら悪いので、私達はもう行きますわ。また後日ゆっくり、お話を聞かせてね」
ディアーナは、手をひらひらさせて、去って行った。一緒にいた紳士は私達に会釈して、慌てて彼女の後ろを追いかけている。
ディアーナの勢いに圧倒され、2人で呆然と見送る。
テラスに再び静寂が戻った。
「……賑やかな友ですみません」
「いや、でも、アルヴィナが友人に話したくなるほど、私のキスで心溶かしていたとは、知らなかったよ」
レオニード様が意地悪く微笑み、私の頰に手を当て、指で唇をなぞった。
「れっレオニード様!」
何でもかんでも友に話して、不愉快に思わせてしまったのではなかろうかと焦り、アワアワしてしまう。
「ほ、本当にあの時は戸惑ったいて……。初めてだったんです。頭が真っ白になって、フワフワするような、麻薬のように止められないキスなんて」
(な、何をいってるんだ、私! 恥ずかしい)
「俺とのキスを気に入ってもらえたのなら、光栄だな。結婚したら、もっと心溶かすことをしてやろう」
レオニード様が冗談めかして笑う。
私は思わず想像して、真っ赤になる。
「れ、レオニード様! か、からかわないでください」
「アルヴィナには、まだ刺激が強かったか。でも、結婚生活が楽しみだ」
想像もつかなかったはずのレオニード様との結婚生活が、具体的に頭に浮かんでくる。
(私、レオニード様と結婚できる)
幸せで喜びが胸一杯に広がる。
「アルヴィナ」
彼の心地よい声が、私の名前を優しく呼ぶ。
真剣な瞳で私を見つめる彼の視線とぶつかる。
「愛している。俺にとって君の存在自身が麻薬のようだ」
レオニード様が私の額に額をくっつける。吐息がかこる距離に、胸が高鳴る。
「私もレオニード様を愛しています」
ずっと仕事で近くにいたのに気がつかなかったけど、彼こそが私の運命の相手。
「愛する君に、私が一生心溶かすキスを送ろう」
そうして、私達は一生忘れられないキスをした。
無事に完結しました〜!
最後まで読んでくださり、ありがとうございましたm(_ _)m
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