8話 今後の予定
「ただいまっと」
「ただいま戻りました」
再び街に繰り出しショッピングを済ませ帰宅。両手には沢山の紙袋。
軽い疲労感と共に玄関に荷物を降ろす。
エルフィリアの着せ替えが楽しく、ショップ店員と思った以上に盛り上がってしまった結果の荷物の量だった。
1/1スケール着せ替え王女様!少しやり過ぎたと思ったけれど……
エルフィリア曰く「夜会シーズン前などはドレスの作製や衣装合わせで丸一日試着を繰り返す事もありましたし平気ですよ。それに、向こうでは普段着もドレスでしたのでこちらの衣装は着替えが簡単なので一着にかかる時間も少なく済むのがいいですね」との事。
さらには何故か店員総出で行われた試着の様子はまさに王女と侍女。
着替えさせられ慣れ?しているのか、その動きは実にスムーズで特に恥じらいも無い。
逆に店員の方がエルフィリアの肌の白さやきめ細かさ、均整の取れた肢体、その美貌、とても十五歳とは思えぬ色気と気品にあてられ顔を赤くしているくらいだった。
「今日はありがとうございます。街の案内にお買い物…お金については失念していました申し訳ありません」
「あ、うん、仕方ないと思うよ。私のイメージだけど王女様って自分でお金を持って買い物したりはしないだろうし、最初からこっちで出すつもりだったしね。それに実は臨時収入が出来たから収支はプラス!」
「榛香のイメージがどうなのかはわかりませんが自分でお金を使った事はありませんでしたので間違いは無いですね…それよりも、臨時収入ですか?」
「うん、今日やった鬼退治。仕事で受けた訳じゃ無いから相場は変わるけど、今回は一般の協力者として褒章金が出るの。二人で協力して退治出来たのだから、それは二人で得たお金。そのお金で買い物したのだから問題ないでしょ?」
榛香の説明に最初は要領を得ない顔で首を傾げていたのだが何かを納得したのか頷き始める。
「成る程、これが向こうで言うギルドから斡旋される討伐系クエスト、魔物退治ですね。討伐後に受注という形でもいいのですね」
意図していることは何となくわかる、ファンタジーあるあるに照らし合わせれば認識にそれ程間違いは無いからいいのかな?
「あら、こんな所でどうしたの?ただいま、それとおかえりなさい」
話し込んでいると丁度よく姉さんも帰ってきたのか玄関の引き戸を開けて入ってくる。
「おかえりなさい姉さん、姿が見えなかったけれどもどこかに出かけていたの?」
「えぇ、ちょっと陰陽庁までね。それより、鬼と遭遇したって聞いたのだけれど……」
「うん、その事で姉さんに話があったの」
「私も詳しい事が聞きたかったから丁度いいわね、夕食後にゆっくり話しましょう。それじゃ二人はその荷物を片付けてらっしゃい、私は夕食の支度をしてくるわ。手が空いたら手伝って頂戴」
そう言い残すと、雅は台所に歩いていった。
その夜…
「そう、そんな事になっていたのね……」
「姉さんは、今日陰陽庁へ行ってきたのでしょう。何か聞いていないの?」
「私が今日聞いてきたのは妖のものと思われる事件が増えている事と異形の妖が発生している事くらいかな。原因までは流石に分からないわね……何はともあれ榛香が無事でよかったわ、エルフィリアさんも榛香を助けてくれてありがとう」
「いえ、私の方こそ榛香には助けられていますから」
「ふふ、仲が良くて何よりね…」
最初は難しい顔をしていたものの、二人の仲の良さを見て雅は楽しそうに笑う。
少し和らいだ空気の中、お茶で喉を潤わせると雅はエルフィリアを見つめ尋ねる。
「ねぇ、エルフィリアさん。今後の事で聞きたい事があるのだけどいいかしら?」
「私でお答えできる事でしたら」
「逆に貴女でなければ答えられない事なのだけれどね……今後どうするか何か考えはありますか?」
エルフィリアは少し悩むように目を伏せ考え込み、そして絞り出すように口を開く。
「私は…私は、元の世界に帰りたいです。元の世界に残してきた大切な役目があります。けれども戻る方法が私にはわかりません。どうすればいいのかわからないのです」
エルフィリアは必死の滲む様相で思いを口にする。
「……それが貴女の希望なのね。今日私が陰陽庁に出向いたのは色々と情報を聞く事もあったのだけれど、一番の理由は貴女がこちらに現れた時に展開されていた魔法陣の解読を依頼しに行っていたのよ」
それをふまえてなのだけれど、と付け加える。
「一人で方法を模索するよりは可能性があると思うのよ、勿論貴女の協力も必要なのだけれどもね」
「その申し出は私としてもとても嬉しいのですが…頼ってもいいのですか?今の私には何もお返しするものが無いのですが……」
その答えに雅は少し悪戯っぽく笑う。
「気にしないでと言いたい所だけれど、一つ交換条件を受けて貰えればと思っているのよ」
「何をすればいいのでしょうか?」
「こちらの世界に居る間でいいから退魔執行官として私たちに協力してほしいのよ。聞けば榛香よりも実力は上なのでしょ?身内の贔屓目もあるけれども一応榛香は同世代では最高位、退魔執行官全体で見ても上位の実力なのよ。だからその力を貸して欲しいのよ、貴女なら実力は申し分ないと思うわ」
どうかしら?というように雅はエルフィリアに向かって首を傾げて見せる。
「わかりました、私の力で良ければぜひ協力させて下さい」
「よかった…なら、いくつか最初に貴女にして貰いたい事があります」
「何でしょうか?」
「一先ず、一応私自身の眼でも見てみたいので明日戦闘能力のテストをします。その後座学を行います。それで問題が無さなら退魔執行官の資格の取得をしてもらいます。実力が十分なら座学を集中してやれば試験は通れるから、一週間での取得を目指しましょう。その後の事はまた後で、という事で」
そう言い残すと、雅は楽しそうにその場を去っていった。