ポータルエリア ルリタニア
『Trash Box Online』 ポータルエリア ルリタニア
プレイヤーID sinobu saitou
プレイヤー名 saisin
同期率 53%
プレイヤーID Freesia
プレイヤー名 elf-maid-princess
同期率 25.1%
Trash Box Online。
ゴミ箱の名前をつけられたこのオンラインゲームが何時ごろはじまったのかは知る人はいない。
個人で作っていたMODや開発中止になったゲームなんかをオンラインで繋いだものの総称だったのだが、ゲームとして形が整いだしたのはこの数年だったりする。
理由は簡単。
『エターナル・クエスト・ファンタジア』のVRハザードによってVRMMOゲームが規制されて、次々と開発中止に追い込まれたゲームデータや人材がここに流れ込んだからだ。
それらは、雑多なゴミでしかなっかたデータの群れをゲームとして再編成した結果、ひっそりとかつ徐々に流行して現在に至る。
まぁ、そこで暗躍していたのが、ルリタニアの住人とプレイヤーの視線を集めまくっているこの駄メイドだったりするのだが。
「すげぇ……あの処理技術どうやって演算しているんだ?」
「見ろよ。髪はなびくしスカートもひらひらだぞ」
「エルフメイドプリンセス……ぷっ」
「最後の奴、後でウイルス送りつけます」
「頼むからやめろ」
小声でフリージアを注意しつつ、俺達はルリタニアの町を歩く。
『Trash Box Online』の運営は、ザーバー間アライアンスによって決められている。
つまり、個々のデータサーバーが『Trash Box Online』というルールの盟約の下に集まった形を取っており、そのルールを破らない限り自由に振舞えるという事だ。
その結果としてサーバー間の特色が現れ、プレイヤーの流入という好循環が行われている。
で、我が『ユグラドシル・クロニクル』もこの『Trash Box Online』の盟約に加入して公開を目ざしている訳で。
今日は、その準備の為に『Trash Box Online』にいくつかあるポータルエリアであるルリタニアの街に来ている。
「それで、今日はどちらに?」
「リオン先輩の所。
ちょっと人と会う約束がある」
VRのみの関係だが付き合いはかれこれ三年になるリオン先輩は、俺にとって腐れ縁という感じの位置に居る人間である。
VR技術者だったらしく、デバック作業などのイロハを教えてくれたリオン先輩には色々と『ユグラドシル・クロニクル』公開の相談に乗ってもらっていた。
ルリタニアの表通りから外れて奥に奥に入ってゆく。
このあたりだとゲームプレイヤーというよりもそれ以外の目的でやってきている人間の比率が高く、俺達を一瞥しながらも警戒心を隠そうともしない。
ルリタニアは対人対戦禁止エリアだから喧嘩をふっかけられる事もないが、『Trash Box Online』のポータルエリアの中にはまんまスラムが形成されている所もある。
そんな多様性も『Trash Box Online』の売りという所だろう。
奥通りの片隅にリオン先輩が経営する酒場『酒と煙草と浪漫を愛する者の店』を見つけて中に入る。
このネーミングセンスだけは未だに理解できない。
看板に偽り無く、薄暗い店内に充満する煙草の煙と酒の臭い。
明らかに何か後ろめたい事やっていますという男達と、扇情的な衣服を身にまとって男達の気を引こうとする女達の視線が、一斉に俺達というかフリージアに集中する。
まぁ、いつもの事なので気にしたら負けである。
「サイ。
こっちだ」
「サイシン。です。
いい加減に名前覚えてくださいよ。
リオン先輩」
酒場のマスターであるリオン先輩は魔術師風の衣装でカウンターの向こうからから声をかける。
たてかけた杖から魔術師なんだろうと思うと痛い目を見るのが『Trash Box Online』で、武器に銃はおろか戦車や航空機まであるこのゲーム。
同期率によって今日は魔術師、明日は戦士、明後日はパイロットなんて事ができてしまうのだ。
リオン先輩の正面に座ると、あきらかにやる気がなくてかつ眠そうなくせに深刻な布不足なウェイトレスが注文を取りに来る。
「いらっしゃい。坊や。
メイドつきとはいいご身分じゃないか。
あんたみたいなもんがこの店にきてもいい事は何もないと思うけど、ただで帰ってもらったら困るの。
できればお金をいっぱい落としてちょうだいな。
あ、私を買うなら夕方からにしておくれ」
えらく人生にくたびれたウェイトレスの口上を聞き流しながら、テンプレよろしく俺はあるものを注文する。
「じゃあ、ミルクで」
「あんたが出すんじゃないの?
それとも母乳をご所望?」
ウェイトレスの下品な冗談に酒場の連中が下卑な笑い声をあげるが、それ以上は関与する事も無くウェイトレスはけだるそうに去ってゆく。
「こんな店だから互いに干渉する事はない。
同時に助けてもくれないがな」
ひとしきり笑っていたリオン先輩が真顔でそれを告げる。
そういう風に店を作ったのはあんただろうと突っ込みたいがここは我慢する。
リオン先輩が軽く指を鳴らすと店内の音が消える。
同時に、店内の男達からは店主であるリオン先輩の権限で俺達の姿が見えなくなっているはずである。
つまり、そんな場所でしか話せないやばい話という事だ。
俺の待ち人は既に先に来ていた。
スーツ姿のビジネスマンは席を立ち会釈をすると、俺の手を握って挨拶する。
「ヴァーチャル・ネットワーク・キャピタル・マネジメント『Trash Box Online』営業担当AIアルキメデスと申します。
『Trash Box Online』アライアンスへの加入おめでとうございます。
正式公開時には最大限サポートさせていただきますので今後ともよろしくお願いします」
「気が早いな。
まだは公開時期も決めていないのに」
とはいうが、アライアンス加盟後にはねられるケースというのは殆ど無い。
このアライアンス加盟の条件が、ロー・ヘイヴンにあるサーバー管理権の証明という経済力を試される条件なのでこの時点で事前審査が行われているようなものだからだ。
もちろん、その事は俺もアルキメデスも知っている。
「正式公開後に貴ゲームにおいて私どもからいくつかのご提案があります。
リオン様の仲介の元、今回足を運んでいただいたのはそのご提案を聞いてもらうためでして」
虚空にウィンドウが開き、圧縮データファイルが俺とフリージアに送られる。
解凍すると、そこに書かれていたのは『Trash Box Online』における通貨発行権に関する提案だった。
ゲームである以上モンスターを倒すなり、クエストをクリアするなりで報酬が発生する。
『Trash Box Online』ではVRGという単位を使っているが、アライアンスに加盟すると1000兆VRGの通貨発行権を行使する事ができる。
アルキメデスが送りつけた提案というのはその管理運用を委託したいという申し出である。
「RMT業者も大変だな。
アライアンスに入ってくる輩全てにこうして網をかけて行くんだから」
「これも仕事ですから」
要するに、ヴァーチャル・ネットワーク・キャピタル・マネジメントのRMT部門からのお誘いなのだ。
RMT、要するにゲーム内通貨を現実のお金で取引する訳なのだが、たかがゲームと侮る無かれ。
『Trash Box Online』のアンダーグラウンド面を端的に表している場所でもあり、『Trash Box Online』が未だ存続しつつユーザーを獲得し続けている理由でもある。
一例をあげよう。
ここに、暴力なり麻薬なりで稼いだ一億円があるとしよう。
もちろん、表に出せない金だからどうしても綺麗にする必要がある。
で、この金をRMTによって全部VRGに返還し、適当に時間を経過させて現金に戻す。
こうすれば、この一億円は『ゲームのモンスターを倒した褒賞とかクエストで稼いだものです』と言い逃れができて表に出せるようになる。
この手の取引を世間一般では、マネー・ロンダリングという。
で、このマネー・ロンダリングの問題点は、VRGの通貨発行量は管理しなければ基本的にインフレになるという所で、その為にアルキメデスのような営業AIが出向いてくる訳だ。
なお、現在のRMTの相場は1000円=1M(100万)VRGで、この通貨発行権によって俺達は百万円の金を自動的に得ていると言ってもいい。
もっとも、これっぽっちの資金ではザーバー管理費にもならないのだが。
だからこそ、アルキメデスはこのような提案まで仕掛けてくる。
「このご提案に興味がありましたら、更にザーバー管理費の融資や管理業者の紹介などの更なるご提案も用意しておりますがいかがです?」
もちろん、この融資や管理業者もマネー・ロンダリングの一環である。
サーバー管理費なんてまっとうな支払いを彼らが見逃す訳も無く、無利子・無担保・無制限の融資が超ぼったくりのサーバー管理業者に支払われる事で汚れたお金が洗濯されているのである。
当然、その片棒を担ぐ事になる代償としてお縄にかかるリスクと、小金持ちになるメリットが存在している訳で。
なお、管理者の死去などに伴う管理不在サーバーの多くが未だゲームができる理由が彼らの管理代行の為で、『Trash Box Online』のアライアンス決定会合である『円卓』の最大勢力でもあるから応対には注意が必要である。
フリージアが俺の耳元で囁く。
実際はウィスパーチャットを使っているだけなのだが、この手の小細工が大好きなのだ。この駄メイド。
[どうします?
関わらないという方針でしたが]
[あからさまに拒否して『円卓』最大勢力を敵に回す必要も無いだろう。
手は汚すが、体は綺麗というあたりが妥協線じゃないかな]
方針が決定すると、会話の主導権がフリージアに移る。
かくして、AI同士の熾烈な言葉を用いた決闘の幕が上がる。
「ご提案ありがとうございます。
管理運用の委託につきましては検討させていただきます。
何分準備段階なので、他のご提案については日を改めて回答したいのですがいかがでしょうか?」
「結構です。
あと、これはうちの投資部門からのお誘いなのですが、フリージアさん。
うちで働きませんか?」
「「「はい?」」」
声はフリージアだけでなく、俺や場の提供者として黙っていたリオン先輩からも出た。
当人であるフリージアにいたっては、ぴこっ!という擬音と共にエルフ耳が跳ね上がる驚きを見せていたり。
この間から何かひたすらプログラム作っていたと思ったらこれだったか。この駄メイド。
「我々は今回のご提案にあたり失礼ですが身辺を探らせて頂きました。
どうやって、サーバー管理費を賄なったのか興味がありましたので。
オンライントレードにて収益をあげていた事はすぐに分りましたよ」
「合法的な取引です。
それに、現在のオンライントレードにおいてAIの介在しない取引は存在しません」
反論するフリージアに淡々とした口調で追い詰めるアルキメデス。
はなから感情系プログラムなんて無いのだろうが、それがかえって凄みを際立たせる。
「我々の業界では『どれだけ稼いだか』という指針の他に、『元手をどれだけ膨らませたか』という指針をありまして。
学生の小遣いからはじまったトレードが短期間で会社の売り上げに化ける様は圧巻でしたよ。
うちの投資AIもしてやられた口でして」
[お前ら何をしやがった]
黙っていたリオン先輩からウィスパーチャットが呆れ声と共に飛ぶが、こちらは当事者ではないので苦笑で返すことしか出来ない。
[フリージア曰く、『大口トレード参加者の思考と行動を制御した』そうで]
[……まじかよ。あの駄メイド]
世界を飛び回っている無尽蔵のマネーを操る機関投資家という連中は意外に少なく、数千の口座を抑えればマネーの半分以上を、数万の口座まで拡大すれば八割以上のマネーの流れを把握できる。
常時十万以上の人間の行動を制御する事を前提に作られているフリージアにとっては楽な仕事である。
とはいえ、俺が使っているパソコンからではフリージアの能力を全て発揮する事ができず、レバレッジをかけまくったトレードに失敗して追証に迫られて『ユグラドシル・クロニクル』内のデータを加工して慌てて売り払った苦い記憶が。
で、その取引過程で知り合って、『このデータの加工で食えるんじゃね?』と気付かせてくれたのがリオン先輩だったりするから世の中分らない。
現在でもフリージアは最新鋭トレード用マシンを別に走らせており、目標であるロー・ヘイヴンのサーバー管理権を入手した今では極力目だたぬようにかつザーバー管理費程度を吐き出す儲けを出し続けていたりするがそれはおいておこう。
もし荒稼ぎを続けていたらきっと何だかの手段で潰されていたのだろう。きっと。
「お誘いは嬉しいのですが、私はゲームのAIでして」
「そのAIにしてやられた本職が聞いたら激怒ものですな。今の言葉」
『エターナル・クエスト・ファンタジア』のVRハザードによってAIの進化にも歪みが出ていた。
大規模人員を統括管理するAIは暴走時に全てが駄目になるので、複数AIによる相互監視という形でVR世界は運営されている。
『Trash Box Online』も複数ゲームデータの集合体だから統括管理そのものが必要ない。
フリージア自身、
「環境適合に敗れて滅んだ恐竜のような存在ですよ。私は」
なんて寂しそうに笑った記憶がある。
今のフリージアからすれば考えられない姿だったが。
「まぁ、これも期限はもうけませんので、話を覚えていただけるだけで結構です。
我々、ヴァーチャル・ネットワーク・キャピタル・マネジメントは『ユグラドシル・クロニクル』とその管理者・管理AIに多大な興味を持っております。
これからも良い取引ができる事を期待しております」
アルキメデスの言葉と共に元の喧騒とした酒場に戻る。
見るとアルキメデスの姿はもう見えなかった。
それを確認して俺はリオン先輩に愚痴をこぼす。
「俺達の事売りましたね」
「悪いな。
ここの酒場の維持費に使わせてもらった。
とはいえ、売ったのはお前さんらのアドレスと円卓申請情報だけだがな」
「一番売っちゃいけないもの売っているじゃないですか」
手が早いと思っていたが、第三者が居れば話は別である。
とはいえ、先輩の事はある程度は信用していたのでがっかりですと言おうとする前にリオン先輩が真顔で口を開く。
「これで、何か手を出す輩が出ても、あの業者がバックについているといえば大概は黙る。
その手数料と思っておけ」
先輩なりに俺達の事を心配していたのだろう。
先輩が庇いきれない厄介事の方がこの『Trash Box Online』の中にはいっぱいある。
がっかりなんて言わなくて良かったと内心思っている事なんて知らずに先輩は真顔で話を続ける。
「VR監視機構の締め付けが厳しくなっている。
確実に目をつけられるから覚悟しておけ」
ロー・ヘイヴンによって守られている『Trash Box Online』に対してVR監視機構は表立った介入はしていない。
だからといって、まったく手を出していないといったらそういう訳ではなく、あの手この手を使ってVR監視機構は『Trash Box Online』に手を伸ばしていた。
『Trash Box Online』内部に健全なゲームサーバーである『アルカディア』を立ち上げ、監視AIと良識者プレイヤーによる私設組織『元老院騎士団』を創設。
『Trash Box Online』はザーバー管理AIとザーバー管理者に盟約決定権がある『円卓』の参加権が与えられており、『Trash Box Online』内部の三割がその影響下にあるといわれている。
そして、彼らは悪なるものの排除と同時に、面白いものや良いものについては支援し合法化した上で社会に送り出していた。
『ダンジョンクエスト』も元は『Trash Box Online』で運営されていたものを彼らが支援し表に出したという経緯がある。
『ユグラドシル・クロニクル』が公開された後で本邦初の大規模VRMMOとして当時の話題になっていた事を彼らが知れば、間違いなく誘いがやってくるのだろう。
だが、その為にはVR監視機構によるプログラムの総チェックが入る。
「お断りしますよ。
俺ですら中身が見れないのに、それをあいつらに先に見られるのはご免です」
『ユグラドシル・クロニクル』の元データは管理AIであるフリージアを処理するだけで尋常ではないデータ容量を食う為に、フリージアですらデータはほとんどが解凍されていなかった。
『Trash Box Online』に公開するのもそれが目的である。
ここで公開して資金を集め、ザーバーを増設して『ユグラドシル・クロニクル』のデータを全て開けるという。
それが間違いなく叔父の死の何かに繋がっている。
リオン先輩にはそこまで話していないが、クリエイターとして横から手が出る形に反発していた先輩は俺の言葉に納得してくれたらしい。
「たしかに、あいつらにフリージアは当たらせなくないか」
「先輩。
そういう事ではなくて……」
「ご主人様がそこまで私の事を思ってくれたなんて……」
手に頬を当てて喜ぶな。
そして黙れ。そこの駄メイド。
「そこの嬢ちゃんが色々円卓で画策していたのは知っていたが、なんとかできないのか?」
「厳しいですね。
裏でこそこそするには限界があります。
だからこそ、公開に合わせて表に出てきた訳で」
彼女が暗躍したといっても、したのはたいした事ではない。
ゴミ箱同然のデータ群に対してゲームという方向性を与え、そのゲームを運営するルール設定の『円卓』を設立した程度だ。
雑多に繁殖している『Trash Box Online』の現在の方向性についてはフリージアはまったくタッチしていない。
「公開用データについては出しても問題ありませんが、未公開データ群については私ですらわからないというのにどうしろと?」
『ユグラドシル・クロニクル』公開時のエリアは、ポータルエリアとして世界樹の森の外れにある町トレイルとその周辺、世界樹の森エリア1、世界樹の森エリア2、世界樹の麓が公開される予定で、管理エリアとして世界樹の麓にエルフの郷が作られるがこれらのデータは『ユグラドシル・クロニクル』のエリアデータのコピーで、キャラクターデータや配置モンスターなどは改めてこちらで調達しないといけない。
管理エリアについては基本非公開だが、運営時のデータ処理やトラブル対処などはここで行われる為に『Trash Box Online』公開前のチェック対象に入る。
「ひとまず、『ここまでしか作っていません』と言って言い逃れるしかないでしょう。
事実、未公開データは未だ電子の海です」
ネットに広がる広大なクラウドネットワークに『ユグラドシル・クロニクル』のデータは散らばっていた。
それを掻き集めて解答できるのがフリージアなのだが、正確に言うとフリージアは『ユグラドシル・クロニクル』統括AIのバックアップコピーだ。
未公開データの中にはフリージア本体が未だ電子の海の中で眠っている。
という訳で、気楽にいじれるのと自慢したかったのだろう。
何をとち狂ったのか、この駄メイドは叔父の煩悩の産物と成り果てている。
さっきのウェイトレスが相変わらずけだるそうな姿でやってきてミルクをテーブルに置く。
「はい。ミルク。
このメイドの嬢ちゃんAIなのかい?」
「ああ。
こんな若造とメイドだが、『円卓』の人間だ」
リオン先輩が真実を冗談めいて茶化す。
ロー・ヘイヴンのザーバー管理権を持つ円卓参加者は、それゆえに莫大な管理費を払える人間という暗黙の了解の元で『Trash Box Online』における支配者階級と周りから見られている。
リオン先輩からすれば、冗談を軽口で返してくれる事を期待したのだろうけど、その一言を聞いたウェイトレスは俺に掴みかかる。
「何を……」
声を出す前に、ウェイトレスのあられもない懇願が店内に響いた。
「お願い!
どうか私を買ってくれないかい!」
はい?