第1話 はじめての手紙
>>>>はじめての手紙(途中まで書きかけ)
拝啓 ミスター宇宙人様
僕はきくっち。戸籍上の名前は菊貞湊。だけど君にはきくっちと呼んでもらいたい。いろいろあって引きこもり歴4年の健康な19歳だ。君は覚えているだろうか。僕たちは15年前に会っている。僕が社会から弾かれるまえの比較的窮屈でなかった頃だ。君と会ったことだけは鮮明に覚えている。その頃から一人が好きだった僕の前に君は、なんだろうな、水蒸気かガスのように何の摩擦もなく現れ、透けた体と声で名を響かせたんだ。だけど僕はその名を記憶の縁にひっかけたままどうしても思い出せない。或いは君がすぐに忘れるよう仕向けたんだろうか。
ひとつ覚えているのは君が僕にプレゼントをくれたことだ。そのプレゼントとは、願うことの真逆、即ち願いが叶わない方のイメージをすることで、逆に願いが成就するという不思議な技だったね。名付けて「反対予知能力」。起こらないことを予知することで起こって欲しいことを実現する魔法だ。その名は僕が勝手につけたもので、君はそうは言わなかっただろうがその技の名前も君が残したかどうか定かではない。言ったとしても覚えてはいない。僕はその魔法を使って小さな願いごとをたくさん叶えた。しかしどんなことを叶えたかもすっかり忘れてしまった。イメージと真逆の好ましい結果がでると嬉しすぎておしっこにいきたくなったり火照った頭で君に焦がれたものだ。僕はあの頃から想像にふけることで自分を形作っていたように思う。
僕が君と出会ったのはそれっきりだ。いつしかこの魔法も使えなくなり君にも会うことはなかった。
ところが今般、僕はどうしても君と話がしたくなった。そこで僕は君に手紙を書くことにした。書くに至ったきっかけは、簡単に言えば他に話したい相手がいないからだ。そんなこと言うと君は怒るかな。僕には友達といえる相手が誰もいない。家族とももう長い間用事以外の会話らしい会話をしていない。慰みに顔の見えないひとたちとネット上で交流してみたけれど、似たようなひとばかりで友達になりたいひとは誰もみつからなかった。きっとこれは誰がどうとかいう問題でなくて僕がこの社会に溶け合っていないだけのことだと思う。彼らの話に興味を持てないものだから僕も話さなくなる。いつだって僕は彼らの会話を鼻白んで聞いている。すると彼らも僕を仲間から外そうとする。それはそれで僕も歓迎してしまい、やがて彼らと僕の間には綺麗な境界線が生まれた。こうして引きこもって時を過ごせばいいではないかとも考えてみるけれど、ほんの少しばかり僕にも世俗的なことが残っているようで、
ここまで書いて僕は放り投げた。途切れたあたりに反芻が足りずなんだかとても恥ずかしい。できれば彼から取り戻して一から書き直したい。
だけど、この最初の書きかけの手紙が彼のもとに届いたものだから、僕は気を良くして続けて手紙を書くことにした。彼が読んでくれることを信じて。




