2-6.出会い
同じ頃、エリオスは大雨の森の中、慎重にスノウドロップを走らせていた。
視界はほぼ無く、ぬかるんだ土に何度も足を取られそうになる。だが長時間雨に打たれれば、体温が奪われて動けなくなる可能性もあった。
そうなる前に、せめて雨風が避けられる場所へ移動しなければ…
焦りは募るばかりだったが、ふと、自分たちを包む森のざわめきに、スノウを止めた。
「…木の精たちが」
淡い緑色の小さな光の粒たちが、エリオスの周りで明滅を繰り返している。まるで何かを、伝えようとしているかのように。
(…俺たちを、誘っているのか?)
森に棲む精霊の中には、いたずら好きも多い。しかし、迷っている時間はなかった。
「…スノウ、行ってみよう」
エリオスは再び、スノウの手綱を引いた。
「――来た!こっちですー!!」
観測所の前で待ち構えていたフィオナは、土砂降りの向こうに動く影を辛うじて捉え、精一杯旗を振る。
緊急信号を伝えるための派手な赤色の旗は、この大雨の中でも目立ってくれるはずだ。
どうやら向こうも、こちらに気付いたらしい。馬に乗った人影は、みるみるうちに大きくなった。
フィオナが併設する納屋の扉を開け放ち、その人影が中に駆け込む。
フィオナもすばやく中に入ると、風雨が吹き込む扉を急いで閉めた。
「お怪我はありませんか!?これ、使ってください!」
馬から降りたその人物に、フィオナがタオルを差し出す。と――
「…フィオナ?」
タオルを受け取りつつ、レインコートのフードを取ったその人は…
「エリオス様!」
思いもよらぬ会遇に、見つめ合うフィオナとエリオス。
その横ではずぶ濡れのスノウドロップが、大きなくしゃみを零したのだった。
「ありがとう。フィオナがいてくれて、本当に助かった」
納屋でスノウドロップの身体を拭いてやった後、観測所内に入った2人。
テーブルに着いたエリオスの前に、フィオナは温かい紅茶を置く。
「いいえ、私は何も!木の精たちが、エリオス様のことを教えてくれたんです」
「木の精が…じゃあ今度、お礼を言っとかないとな」
エリオスが紅茶を一口すすり、ほっと息を吐く。
木の精たちは、森に対して無作法な人間を助けたりはしない。エリオスは森の“共生者”として認められていたのだろう。
「でもエリオス様が、どうしてこんなところに?」
「フクロヤマユリの花が咲いたって聞いてね。雨で花粉が落ちないうちに、採取したかったんだ。」
フクロヤマユリは、森深い清らかな水辺に群生する魔法植物の一種だ。その花粉からは、良質な回復薬が採れることで知られている。




