↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妖怪退治は楽じゃない  作者: 奈宮伊呂波
一章 生駒山の幽霊

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/36

一話 料理という以外な特技

 九月二十八日、午後十時。

 やばい。どうなってんだ。さっきまであんなに楽しい時間だったのに、どうしてこうなった。


「くそっ!」


 足をとめないまま毒づいて、俺は後ろを振り返る。

 そこには何もいない。

 なんでこんなことなってんだよ。って言っても暗闇の森林は答えてくれない。

 誰も答えなんて分からない。答えてくれる人もいなくなった。

 だから俺は走る。真剣に、懸命に。だって命がかかってるから。


 数時間前。

 俺は二人の男と三人の女と食事会をしていた。いわゆる合コンだ。


「いやー佐藤ちゃん。可愛いねー。名前も俺と似てるし運命じゃね?」


 小柄男、加藤が嬉しそうに言った。割と本気だろうけど冗談っぽくするために極めて軽い口調だった。

 苗字が似てるから運命ってなんだよ。運命ならせめてお前も佐藤であれよ。

 そうツッコミたくなったがやめておいた。


 今日のこの集まるは加藤の「まじで彼女欲しい。頼む槇原、合コン開いてくれ」という嘆願から始まったのだ。好みの女性を見つけて嬉しそうにしているし邪魔をするのは良くない。


 ショートカットの似合う女、佐藤さんもまんざらでも無さそうだし。


「運命だなんて大袈裟ですよ加藤さん。もー」


 と甘ったるい間延びした声を出している。

 他のメンバーを紹介しようか。まず俺、槇原健太。最後の男は身長の高いヒョロりとした宇藤だ。女は俺の大学の先輩の瀬尾さんと彼女の後輩の園田さんだ。ちなみに佐藤さんも瀬尾さんの後輩で俺や槇原より年下らしい。


 合コンは盛り上がり、最も会話が広がったのは少し変だが怖い話だった。そんな話で大丈夫かよって思ったけど、宇藤が話し上手だったことや瀬尾さんがそういう話が好きだったこともあって、そういう展開になった。


 佐藤さんや瀬尾さんが「いやー」だの「きゃー」だの怖がったおかげでもある。

 これ合コンだよな? もっとポジディブな話しなくていいの?


 宴会も終盤に差し迫った頃、何のつもりか加藤が「今から心霊スポット行かね?」と言い始めた。

 なんでも、生駒山の奈良側の方で行方不明者が出ているという噂があるらしい。それは幽霊の仕業ということになっており、山で生き埋めにされた女が恨みを晴らさんべく徘徊しているのだとか。


 生駒山は大阪側であれば勾配が急で穴が掘りにくい(知らないけど)のだが、噂ではなだらかな奈良側ということになっている為、本当だとは思っていないが若干のリアリティが不気味さを増している。


 この時、すでに全員どうかしていたのだろう。アルコールが効きすぎてたんだろうか。


 明日も仕事があるし、そんな大学生みたいなことする年齢でもない。

 そういう認識はみんなあったはずなのになぜか反対意見は出なかった。


 唯一、この後家で用事を済ませる必要があるといった園田がそこで別れることとなった。


 二時間後、園田を除く五人を乗せた車は生駒山の料金所でお金を支払った。しばらく進んでパノラマ展望台で車を停めた。

 ちなみに運転はアルコールが飲めない俺が担当することになった。まじでめんどくさい。


「こっちこっち!」


 俺達はパノラマ展望台を離れて、徒歩で山道を進むことにした。

 加藤が嬉しそうに道案内を務める。街灯などある訳もなく、暗い山道だった。辺りが暗いせいか、俺達の空気も重くなる。それを誤魔化すように俺達は会話を途切らせなかった。


 三十分ほど歩くと森の方に小さな道を見つけた。道は森の奥へと続き、その奥は光を失くした暗闇になっている。


 やばい。この道はやばい。


 理由は分からないけれど俺はそう思った。この道は人工の物じゃないと思う。が、自然にできた、多分動物とかが通ったてできた道、をよそおった不自然さを持っている。気持ち悪い怪しさがある。その正体はわからない。けど、この暗がりからは悪魔か何か、得体のしれない何かが口を開いて待っているようなそんな不気味さが存在する。

 この道はよくない。決して怖いとかじゃないが。


「たしかこれだったと思うんだけど。どうする? 行く?」


 加藤が悪戯っぽく言う。

 どうやら加藤は最初からこの小道を探していたらしい。まじかよ。冗談じゃない。こんな道行きたくなんかない。


「ええ、本当に行くんですかあ?」


「あれー。もしかして久美怖いの?」


 否定的な佐藤さんを瀬尾さんが茶化した。


「い、行きますよ! 私はみんなの意見を聞いただけです!」


「幽霊なんているわけねだろ。さっさと行こうぜ」


 宇藤がめんどくさそうに頭をかいた。

 俺は正直、行きたくなんてない。みんなこの道の不気味さに気が付いてないのか? どうみても、やばいのに……。アルコールでおかしくなってるのか?


「っしゃ! じゃ行くか! 槇原、ライト頼む」


 駄目だ。行く方向に決まりつつある。


「待て、待てよ。さすがに真っ暗だしやめとこうぜ。夜道は危ないってよく言うだろ? それに、この道はやばいって」


「槇原君怖いの? 大丈夫だって、何かあったら先輩が守ってあげる」


「怖い、そうですね。この道が怖いんです。行くべきじゃない」


「しゃあねえなー! なら先頭は俺が務めてやるから、槇原は俺の後ろについとけ。それでいいだろ?」


「いやだから―――」


「槇原、ここは黙って行こうぜ」


 宇藤が肩をポンポン叩いた。

 うぜえ。


 いやだから、と反論しようとしたけど加藤と宇藤の二人に無理やり連れていかれた。なんで酔ってるのにこんな力強いんだよ。


 何としても振りほどく。そう思ったけれど、少し歩いてだけで加藤が足を引っかけた。転びこそしなかったけれど見てられなかった。頭の危険信号は鳴っていたけど仕方なくついていくことにした。ま、何かあっても逃げればいいだろ。


 それから十分ほどたった。

 森の道は危ないけれど、何事もなく進んでいる。俺が見えにくい木の根とかを注意していたおかげだ。


 何か小さな物音がする度に佐藤さんが「きゃ」と短い悲鳴をあげていた。その彼女を俺以外の三人が弄って楽しんでいた。暢気なもんだ。


 俺は暗い道をスマホのライトで照らして注意するのに神経を使っていて、他の人は多分アルコールのせいで違和感に気が付くのが遅かった。

 ようやく、目が闇に慣れてきたころふと気が付いた。


「なあ、()()()()()()()()?」


 最後尾。

 そこには最初、宇藤がいた。でも今は瀬尾さんに変わっている。彼女の前には佐藤さん、その前は加藤、そして俺。

 トイレか? いやでも一言も告げずに去る必要はないし。


「トイレじゃね?」


「そー言えば、どこ行ったんだろ」


「先に車に戻ったのかもね。怖くなって」


 瀬尾さんがそう言うと佐藤さんが、佐藤さん()()が笑った。


 今日、一日。

 佐藤さんが笑う場面では必ず加藤も笑っていた。お気に入りの女の子に空かれたという重いからだろう。自分と同じ感覚をしていると思われたい。そんなところだろう。


 加藤の笑いのタイミングは言わずともみんなわかっていた。俺も佐藤さんも瀬尾さんも宇藤も園田さんも。バレていないと思っているのは加藤本人だけだった。


 だが笑い声は一つだった。

 これはおかしい。だって加藤は佐藤さんが好きなんだ。だから瀬尾さんがつまらないジョークを言ったとしても佐藤さんが笑ったのなら加藤は笑わなきゃいけない。

 俺達は顔を見合わせた。俺達、三人は。


「加藤君? どうしたの?」


 瀬尾さんの声が震えている。瀬尾さんも異常事態だと判断したのか?


「え、え? 何が起きてるの?」


「分からない……」


「ちょっと戻ってみてくる」


 瀬尾さんはそう言って踵を返した。

 待ってください、という暇はなかった。

 彼女はすでに折り返しを曲がってしまったからだ。


「ちょ、ちょっと!」


 一泊遅れて俺は声を出した。

 折り返しを曲がる。


「え?」


 そこには誰もいなかった。瀬尾さんはいない。姿を消した。


 やばい。まじでやばいって。なんなのこれ。どういうことだよ。わからない。でも、やばい。俺の本能は間違ってなかった。やっぱり来るんじゃなかった。

 佐藤さんも同じことを思ってるようだ。


「戻ろう」


 佐藤さんは頷いた。

 俺達は走った。一応ライトを照らして。

 消えた三人のことは一先ず考えない。

 とにかく、まずは助かりたい。

 自己中だろうがなんだろうが、こんな状況下で三人をどうにかして助けようなんて考えられるはずもないだろ。


「いってえ!」


 転んだ。いきなりだ。

 足元から鈍い音がした。


 なんだ。俺の足元から? もしかして、切断された? いや、足はある。

 わかった。引っかかったんだ。何かに。柔らかくて、ほんのり温かくて重い。しかも変な臭いもする。なんだこれ。

 なんだろう。


 スマホのライトを下げてみた。


「だ、だいじょう―――」


 心配した佐藤さんが言葉を切らした。

 ライトが反射したものは「宇藤」だった。

 動いていない。生気も感じられない。信じられないほど不気味な表情で横たわっている。さらに、その下。

 腰から下がなかった。


「う、えええ……」


 佐藤さんの口からさっきまで食べたものが逆流してきた。

 宇藤、だったものの腰からは大量の血液と内臓が飛び散っている。一瞬だけしか見てないけど。確かに見えた。変な臭いの正体もこれだ。この腐敗臭、あらゆる食べ物をかき集めて腐らせたみたいな気持ち悪い匂い。それは宇藤の体から発せられていたんだ。


「佐藤さん。大丈夫……?」


 彼女の口からは途切れることなく吐瀉物が這い出てきている。

 鶏肉や豚肉の欠片、鯖とかキャベツ、ピザの生地とかデザートのモンブラン、一番多いのはキャベツだった。飲み会だというのに食べていた白い米も。赤いカシスまで出てきている。

 赤い、赤い。あれ、カシスなんて飲んでたっけ? チューハイばっかだった気がする。でも、赤すぎる。濃い赤だった。

 どこまでも赤い、()だった。


「ま、き、はら君」


 彼女の腹から、何だろう。鎌、か何かが突き出ていた。


 俺は。


 俺は走った。彼女はもう駄目なんだ。一人でも、俺だけでも助かる方がいい。いいに決まってる!


 森を走る。歩いてきた道を戻る。それなのに、いつまでたっても出られる気がしない。とっくに来た道よりも走っているはずなのに。


「くそっ!」


 後ろを振り返る。

 何もいない。でも安心なんてできない。一度でも、その姿を見てないから。

 これでもかと足を動かす。


 木の枝が針みたいになって服とか、足の皮膚とかを裂いた。かなり深そうなのもあったけど痛みなんて感じなかった。


 今日は、今日はなんだかおかしかった。

 合コンだっていうのにオカルト話なんかで盛り上がるし、まして心霊スポットに行こうだなんて、どうかしてるとしか思えない。


 加藤、そうだ加藤だ。あいつが悪い。ここに行こうなんて言わなければ。宇藤もだ。怖い話なんてしなければ。佐藤さんと園田さんが怖がらなければ。加藤が合コンなんてしようなんて言わなければ。


 突然、体が浮いた。

 なんで? 崖なんてない。ジャンプもしてない。それなのに。なんでだよ……。


「っ……!」


 転がるように着地した。

 どうなった。スマホがない。見れない。どこだ。どこに行った?

 体を反対側に動かした。あった、スマホ。

 ライトは光っている。光の先は俺に向いていた。うわあ。眩しい。

 思わず目を逸らした。下方向に。


「あ……?」


 体が、ない。

 腰から下がない。宇藤みたいに。さっき死んでいた宇藤みたいに。俺の体がない。ナイ、ナイナイナイナイ。


「わ――のな――し――る?」


 耳元で何かが囁いた。

 虫が蠢いたみたいな音だ。何言ってんだ。聞こえない。てか気持ち悪いんだよ。離れてくれ。


 槇原の意識はそこで閉ざされた。


 ◆ ◆ ◆


 光一は薄暗い部屋の中で卵焼きを乗せた食パンをほおばっていた。

 テレビでは天気予報のお姉さんが空模様について話している。

 パンと卵焼きを喉に通し、牛乳を飲む。


「この卵うめえな。さすが俺。どうよ」


 出来栄えを自画自賛し、テーブルの向かい側に座り同じものを食べている美柑に同意を求める。


「確かにおいしい。なんか意外」


 塩と胡椒が絶妙に卵とマッチしているのだ。同意を得たことで光一は鼻を高くする。


「一人暮らしならこれぐらい当たり前だっつーの」


「彼女とかいないの?」


 この広い家で一人暮らしはもったいない。美柑はそう思ったのだろう。


 光一の家は一階建ての小さな家だ。街とは離れた場所にあり、周囲には人の気配すらない。大阪でこのような場所を見つけるのは一苦労だった。

 かなり小さいため、この家を見たものは必ず驚いてしまう。


 家というよりもむしろ小屋に近い。

 だがそれは外から見たらの話。


 実際は家のほとんどが地下に広がっている。地下には三つのフロアがあり、地下一階は妖怪に関する図書が数千単位で揃えられ、デスクトップPCやテレビ、ラジオなど調べものに必要なものを備えている。

 地下二階は居住スペースとなっており、地下三階はあらゆる妖怪から防御できるよう複数の結界を張っていて、そこにはいくつもの装備が並んでいる。


 二階はともかく一階、三階は一般人にとても見せられない。気が触れていると思われること請け合いだ。というかその前に法に触れている。

 そのため光一に彼女など、


「今はいない」


「今はってことはいたことがあるの?」


「なんだよ。あっちゃ悪いのか?」


「ううん。今いないならあたしが立候補しようかなー?」


「あほいうんじゃねえ。誰が鬼とのハーフなんかと付き合うかよ」


「でも、あたし可愛いよ?」


 ほら、と美柑は両手を広げてアピールする。

 思わず光一は見惚れてしまった。ただ全身を見るだけで美しいのだ。少しかわいいポーズをとれば大抵の男は落ちてしまうだろう。

 大きな目は宝石のように輝き、細く引き締まった体だが出るとこは出ている。まさに理想的なプロポーションだ。像にすればミロのヴィーナスが自壊を決意するだろう。

 こんなしけた家にいるよりもモデルにでもなった方がよほどいい暮らしができる。


「見てくれは確かにいいが、そんなの問題じゃねえんだよ」


「じゃあどんな問題だって言うの?」


 ぷんぷん、という擬音が似合いそうな仕草を美柑はする。


「鬼とのハーフが問題つったろ」


 敵意はない。だが光一にとって自分の両親を殺した者と同じ種族の血が半分とはいえ入っている存在とどうこうなりたいなど思えない。


「あ、そっか。ならしょうがない」


「黙って朝飯食え」


 光一は残りのパンと卵を食べ始める。


「問題と言えば」


 そう言って美柑は机に置いてあった新聞を広げた。

 目についたのは事件を扱う記事だった。


「生駒山で五人の失踪者。ここ最近で三件目。失踪者はこれで十人目だって」


「警察に任せとけ。誘拐か殺人か。俺の出る幕じゃない」


「そうでもないよ?」


「理由は?」


「被害者らしき人物の目撃証言がある。証言によると被害者は二人でその被害者は二人とも上下に真っ二つに分かれていたらしい。文字通りね。それ以外、外傷は見えなかったって。しかも失踪者は全員一般人。裏社会とは何ら関係ない市民ね」


 目撃者は山から下りる途中で車を運転していた。たまたまライトに映ってしまい、急いで逃げたため少ししか見ていない。だがはっきりと見たと言ったそうだ。


「怪しいな」


 人間がやったとするならば行動に違和感がある。

 人を真っ二つにするなど並大抵の精神ではできない。そうとうな恨みがあったのだろう。武器も刀か何かを使わないと不可能だ。


 だが恨みがあるなら外傷が他にないというのがおかしい。それならばもっとボコボコにするだろう。

 それに武器も一般人が持っていいものではない。申請すれば通るが、現代日本ではその数は少ない。

 やくざなら刀ぐらい持っているだろうが、論外だ。やくざの手口にしては色々とお粗末すぎる。

 光一の同業者というのもない。なぜなら失踪者がみんな一般人だからだ。


「でしょ? 行く?」


「そうだな。行こう」


 光一は小さくなったパンを口の中に放り込んだ。

新しい事件が起こりました。さて、今回登場するものは何でしょうか。まあ、文中で言ってますが。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。