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妖怪退治は楽じゃない  作者: 奈宮伊呂波
プロローグ 出会い

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三話 ハーフの美少女と暮らすことになってしまった

 気づけば、光一は黒い空間に突っ立っていた。

 本当に何もないただ真っ暗なだけの場所。それに違和感を抱かなかったのは直感でこれが現実でないと理解していたからだろう。


 そう。光一がいる空間は夢の中だ。


 最後の記憶を辿ってみるがうまくいかなかった。夢だということは理解できたが、自分が寝ているのか、気絶させられたのかそれはわからない。

 前に進んでみた。

 夢だから歩くという感覚でもなく、どこか飛んでいるような感覚だった。


 突然だった。

 目の前に現れたのは思い出したくもない光景。

 いつの間にか少年の姿へと変わっていた光一はかつて暮らしていた家にいた。


 深夜。

 深い眠りについていた光一は尿意を催し布団から出た。少年だった光一には大きな平屋の一室を自分の部屋としてあてがわれていた。


 寝ぼけ眼をこすり、トイレへと無意識に歩く。光一は月明かりに照らされた廊下がギシリと音を鳴らすのを子供ながらに不気味に感じていた。


 トイレに向かうまでに両親が寝ている部屋がある。襖がわずかに開いているのが見えたが、その部屋を光一は素通りした。

 目の前にトイレがある。

 あと数歩歩けば尿意を退治できる。


 だが、進めない。

 あるはずのトイレがない。暗い。

 仕方なく光一は廊下を引き返す。


 いや、違った。

 仕方なくではない。光一は戻るべくして戻ったのだ。トイレもなくなっていたわけではない。確かにそこにあったのだ。


 それよりも光一には気になるものがあった。

 それを見てはいけないと全細胞が警告を鳴らす。頭は澄んでいるのにやけに心臓の音がうるさい。

 すでに尿意は吹き飛んでいた。光一は両親の部屋を覗く。

 さっき、通り際に見たものが気のせいであれと願いながら。


 現実は非常だった。

 両親が、喰われていたのだ。

 怪物が両親の体をゴリゴリと音を鳴らし、両親の存在を奪っていた。


 部屋は赤黒く染まり、部屋の外にまでそれが流れ出てきている。

 光一は動けなかった。

 どういう状況なのかも理解できなかった。


 本能が逃げろと命令した。だから光一は後ろに逃げた。動けない体が動いたと思えば、実際には一歩下がっただけで、そのせいで怪物がこちらに気が付いた。


「小僧。こやつらの倅だな」


 光一は返事をしない。


「成長されては面倒だ。悪い芽は早めに摘んでおくのが良しとは誰が言ったのやら」


 怪物は光一に飛びかかった。幼い子供に避けるすべなどなく、光一はただ眼を瞑った。

 体に変化はなかった。

 目を開けると、怪物のおぞましい顔が目の前にあった。


「……呪いか。あまり時間もかけられん。今宵は退散するとしよう」


 怪物は訳の分からないことを言って光一に背を向ける。


「だ……」


 ようやく、光一は動いた。

 恐怖が光一に行動を許さなかったが、怪物が背を向けたことでそれが少し薄れたのだ。


「誰、ですか……」


 怪物はぐるり、と風を纏い振り返った。


「私の名は大嶽丸。小僧、この世はやがて我々の手に落ちる。それまで精々生を謳歌すればよい。もし、邪魔立てするならば容赦はしない」


 怪物はそれだけを言い残し、去っていった。

 光一は物言わぬ姿となった両親に近づいた。

 優しかった両親が、焦点の合わぬ目で虚空を見つめ、口は開いているが空気の循環は伴っていない。


 腹は引き裂かれ、無惨な姿だった。

 光一は両親のその姿を、そして憎むべき(かたき)の姿を怒りとともに両の目に、心の奥深くに刻み込んだ。


 ◆ ◆ ◆ 


 目が覚めると、まず白い天井が目に入った。

 嗅ぎなれない匂いが自分を取り囲む。そこが普段使っているベッドではないと理解する。光一のベッドも掛布団もこのような純白ではない。

 ついでに部屋も白く、匂いの正体は消毒液のようなものだった。

 光一は病院にいた。


「あ、起きたね」


 女の声だった。

 またも聞き覚えのある声。光一は上半身だけを起こした。そこで自分の体に大量の包帯がまかれていることに気が付いた。

 右脚など無様に固定されている。


「昨日ぶりだねー。お兄さん」


 その女、高島は楽し気にけらけらと笑う。

 光一としては気絶した挙句病院送りという全く笑えない状況だったが、一緒になって笑ってやった。

 あっはっは。


「何笑ってんだ」


 光一の冷めたツッコミに高島はきょとんとした顔を示す。


「いや、ね。また会うつもりではあったけどまさか病院で会うとは思わないし」


 そう言ってまた高島は笑う。嘲笑などではなく純粋な笑いだ。


「……油断してたんだよ。まさか二匹いるとは思ってなかった」


「言い訳ご苦労」


「うるせえ。お前こそ何なんだ? なぜあそこにいた? 入沢はどうした?」


「倒したよ?」


 あっさりと高島は言う。

 あの(入沢)は訓練している光一と比べても強い力を持っている。当たらなければどうということはないが、光一とて余裕で避けられるわけではない。

 気を抜けば死ぬ。

 もちろん、そう簡単に負けぬよう鍛えているがはっきり言って鬼は強い。

 それを高島美柑はあっさりと。


「随分簡単に言うんだな」


「まあね。私、人間じゃないし」


「どういうことだ」


「ハーフなの。人間と鬼の。ほら」


 文字通り空気が変わった。

 人間の世界にあってはいけない邪気がこの病院の一室を圧倒したのだ。

 その出所は一つしかない。


 高島美柑だ。

 彼女の頭には角が生えていた。それは普通の鬼とは違って少し小ぶりだったが確かに角だった。

 光一は身構えたが当然武器はない。

 格闘(ファイティング)ポーズをとるが、鬼の邪気の前では心もとない。


「ね?」


 高島が微笑むと邪気は消え失せた。


「……俺を殺すならさっさと殺せ」


「え? 何言ってんの? 殺すわけないじゃん」


 光一は呆気にとられる。

 さっきからこの女の言うことに戸惑わさせられてばかりだ。


 光一は高島を見る。

 笑顔だ。

 邪気などかけらもない笑顔。心の中までは見切れないが、光一はどうみても純粋なこの笑顔を疑うことはできなかった。


 半分人間で、半分鬼というこの女は確かに昨日自分を助け、こうして病院にまで運んでくれたのだ。一先ず信じるのが礼儀というものだろう。


「目的は?」


「近い将来、百鬼夜行が始まる」


「それがどうした?」


 百鬼夜行。

 数多の妖怪たちが集結し、夜の街道を行進するというだけのいわば現象だ。

 珍しいものではあるし、目撃した人間を死に誘うという危険性もある。だがそれ自体は昔から確認されているし、目を閉じて念仏を唱えていれば凌げる。

 取り立てて騒ぐものでもない。


「どうもしないよ。でもね、問題なのはそれが昼に来るってこと」


「馬鹿言え」


 光一はバッサリと切り捨てた。


「あれは夜にしか行われない。昼に起きるなど今まで聞いたこともない」


「妖怪は人間よりも強い。でも彼らが表立ってこないのは数で圧倒的に劣っているから。それが今、彼らは水面下で勢力を伸ばしている」


 勢力が伸び、人間に勝てる十分な数が集まったと判断されれば百鬼夜行も起こりうる。


「日本には数多くの妖怪狩り(ハンター)がいる。そう簡単にはいかねえよ」


「酒呑童子って、知ってる?」


 京都の大江山で妖怪をまとめていたボスのような存在だった。村の若い女性やお宝を盗んだりと勢力をふるっていたが、源頼光一行に殺されたと伝えられている。


「鬼の頭領だか何だかだろ。それがどうした? そいつはとっくに死んでるはずだ」


「そう死んでるの。でもそいつを復活させようと企んでいるものがいる」


「何者だ。そのバカは」


「大嶽丸」


 思わず、光一は身を乗り出した。憎むべき敵だ。その名前が出てしまえば、話を聞かないわけにはいかない。


「そいつがなんだって?」


「酒呑童子を復活させようとしている。酒呑童子が復活すれば、妖怪は団結する百鬼夜行が始まるってわけ。私はそれを止めたい」


「……お前は鬼とのハーフって言ってたよな。なぜ人間に味方する」


「好きだから」


 高島は迷わずに言った。

 好き。そこに至るまでいろいろなことがあったのだろう。どうやって生まれ、どうやって育ち、どういうものを見て来たのか。

 光一は気にはなったが、聞くことはやめておいた。彼女の眼が嘘ではないと告げていたからだ。


「そうか。で、俺にどうしろってんだ? まさか通りかかったから親切に助けてくれました、何て言わねえだろ?」


「そんなに親切じゃないよ。私は」


「だろうな。わざわざ入沢を紹介するような真似までして。ついでに言うと大学生ってのは嘘だな」


「嘘じゃないけど? 私、一度も大学生なんて言ってないし」


 ……確かに。

 嘘は言っていないがなぜか光一は騙された気分になった。


「そっちこそ探偵なんて嘘ついちゃって」


「殺人事件を解決する。これ以上ないくらい探偵だろうが」


「はいはい」


「腹が立つ女だ」


「それは困ったね。私があなたなら同情しちゃう。これから一緒に行動するのに」


「ああ全くだ……今なんて?」


「私があなたなら同情しちゃう」


「そこじゃねえよ。最後のだ」


 光一が何を聞いているのかわかっているくせにわかってないふりをする。

 苛立ちを隠そうともしない光一に向かって、高島美柑は笑顔を向けた。


「これからよろしくね」


 ほんのりと鬼の邪気が病室に漂う。

 断ったらどうなるか、ということらしい。

 光一は人生で一番大きなため息を吐いた。


 ◆ ◆ ◆


 光あるところに影あり。

 ゲーテの言葉だ。


 光が強ければ強いほど、それに比例して影もまた強くなる。人は物事を見るとき、明るいところばかりに注目してしまうが、そこには必ず暗い部分もある。


 強いヒーローが悩むように。市民の見方をする政治家が裏で悪事を働くように。栄華を極めた金持ちがそれまでに努力や苦労を経験してきたように。


 人は影から目を背け、盲目的に明るい部分だけを求める。その結果、ヒーローは苦悩に押しつぶされ、政治家の悪事がもみ消され、真に学ぶべき金持ちの経験を無下にし、ただ羨望のまなざしを向ける。


 では、見ている側の人間はどうなのだろうか。

 我々人間は常に相互効果をもたらし、多種多様な人生を歩んでいる。


 程度の差はあるかもしれないが、ここではこの人生を光としよう。それでは、人生の裏にある影とはなんだ。

 色々答えはあるかもしれないが、あえて一つに限定させてもらおう。


 妖怪。


 これは妖怪を狩り続ける男の物語である。

ここまででプロローグ的な一話となります。いろんな妖怪が出てくる話です。毎日投稿(予定)していくので、よろしくお願いします!

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