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13の理論  作者: 安藤真司
9/21

リトルシスター

「で、何でいまさらアメリカにいた頃の話なんか聞くんですか?」


琴音がぷぅっと頬を膨らませる。


「別に。その子のこと好きだったんだよね?どうしたらその子みたいになれるかなって」

「……別に好きではなかった、はずです」

「嘘」

「嘘」

「嘘」

「もういいです」

「嘘」

「本当」

「嘘?」

「本当」

「本当?」

「好きは好きでしたけど、いわゆる恋愛感情とか、そういう類のものではなかったと思います。もっと、それこそ妹みたいな」

「ふぅん。でも私の静音に対する気持ちはそのまま異性に向けたら十分恋心な気がするけどな。もちろん、それとはまた別で、柴山君のことは一番好きなんだよ?」


えへっと笑う琴音に、少しむすっとする静音。

本当仲良いなお前らは。


「だってよ、静音」

「藤崎、な。結局お姉ちゃんの一番は彼氏で、私は二の次って言いたいんでしょ?」


ふて腐れる静音に琴音が抱きついた。


「静音好きっ!」


驚いた静音は顔を真っ赤にしてその手を振り払おうと……してないか。

頭をなでなでされるのを必死で嫌がって……ないな。


「お、お姉ちゃ、やめっ」

「静音。確かに私は柴山君のことが好き。でもね、私にとって、静音は静音なの。唯一の私の妹。世界中を、たとえ柴山くんを敵にまわしたとしても、私は静音の味方だし、静音のことを大事に想ってるんだよ」


静音が恍惚として琴音を見上げる。


「うん……私も、お姉ちゃんが、好き。お姉ちゃん」

「なに?」

「……キス、して」

「うん、いいよ。目、瞑って?」

「ん――っぁわぁっ!!??」


急に静音が跳ね上がった。

耳まで真っ赤にして息を荒げながら俺を睨みつけている。

ですよねー。


「彼氏お前殺すぞっ!?いつまでここにいやがるっつーかなにニヤニヤこっち見てんだよどっか行けっ!?」

「いやぁ良かったじゃないか静音ちゃん。さっき琴音さん、俺に対しては付けなかったハートマークが語尾についてたぞ?」

「ちゃんって呼ぶなそしてハートマークってなんだよ!?」


そこにふざけた様子もなく琴音も加わる。


「どうしよう私自分でもハートマークをつけたことに気付かなかったわ。これじゃ実写化もアニメ化もできなくなっちゃうっ」

「安心しろ俺たちは実写化もアニメ化もされん」

「私たちは長○まさみさんとエマ・○トソンさんにお願いしようと」

「しかも結構力いれてんなおい!?」


ついでに姉妹は無理あるだろ。


「柴山由紀人役、○主党元代表」


鳩山由紀○っ!?


「あーでも片やご家族からの寵愛あるエリート、片やご家族から勘当されてのエリートかぁ」

「境遇の問題か……?同い年設定無理があるだろ……」


そして恐らく年齢の問題でもない。

ところで、俺に関する話、つまりどういう経緯でいまここにいるかについては、ほとんどこの姉妹にしてある。

エリートとしてレールの上を歩かされてきたこと。

単身アメリカに渡ったこと。

そこでしていた仕事のこと。

そして、13のこと。

していない話といえば一人、そもそも話す価値がないというか俺と話している時点でそいつと話していることにもなるような、黒くて白くて最強最凶最恐の通り魔な俺の手足についてだけは何も触れていない。


「でも、なんだかんだ私より静音のほうが柴山君の仲良いんだよねぇ、少しジェラシー」

「む、なわけない、お姉ちゃんの彼氏じゃんか」

「そうかな、それに、静音もさ、柴山君のこと好きなんでしょ?」

「そんなことない!!絶対ない!!」

「はぁ、静音に勝てる気はしないなー。静音すごくかわいいから」

「お姉ちゃんのほうがかわいいのに、なにを言ってるの」

「でーもやっぱり問題は柴山君よね。会ってから結構経つのに、まぁ私より静音の方が好きみたいなのは仕方ないとして、まだ私のこと苦手なんだもん」


その琴音の言葉に。

俺は思わず口を開きそうになる。

――それは。

でも先に動いたのは俺じゃなく、静音だった。


「それは、お姉ちゃんが――」


その先は、言わせない。

言って欲しくない。

聞きたくない。


「琴音っ!!」


俺の大きな声がその場の空気を無理やり落ち着かせる。


「……ん?」

「……そろそろ、夕食でもどうかなと、思いまして」

「敬語」

「夜ご飯、食べよう」

「よろしい、静音は少しテレビでも見ながら待っててくれる?」

「ん、宿題やってる」


こんな感じなので、俺はほぼ毎日夜ご飯を藤崎家で食べている。

もちろん初めは琴音がご馳走すると言って聞かなかったが、あまりにも悪いので自分の家作ったものを持ってくるようにした。

今は、お互い担当を決めてバランスよく作っている。



俺は一旦すぐ隣の自分の家に帰り、調理しながら考えてみる。


「静音のことが好き、ねぇ」


特にそれらしい気持ちが自分の中にあるわけではないように思うけど。

容姿は二人とも整っていて、琴音なんかはモロ好みだけれど。

んー、確かに指摘されてみれば琴音に対する気持ちと静音に対する気持ちは若干違うのかもしれない。

ただ、あ、いや別にロリコンって言われるのが嫌なわけじゃないよ?

だからといってこれが、この気持ちが、こんなもので恋愛感情と呼べるか否かは全くの別問題なのだ。

それに、奪われた未来が今ここで戻ってきているはずもない。

というか、アメリカにいた頃と違って、ここは。

満ち足りすぎていて居心地が悪い。

何もかも、上手くいきすぎている。

もちろん、幾らかのっぴきならない事件があったにはあったのだが。

それも今から見れば俺と藤崎琴音の出会いの演出にすぎない。

きっとそれがなければ俺は今でも一人で悠々と暮らしていただろうが。

どちらが良かったかなんて言うまでもなく藤崎のいる今のほうがいいんだけど。

それは今、藤崎と一緒にいるからであって、藤崎と一緒にいなかったって場合のものさしがないからに過ぎないのかもしれない。

だから例えば藤崎琴音が存在せず、藤崎静音だけがいる世界と。

藤崎静音が存在せず、藤崎琴音だけがいる世界と。

そのどちらかを選べとか仮に言われたって。

ないものはわからない。

存在しない「もしも」を想定することなんでできない。

だから今の俺は、琴音の気持ちに応えることも、静音に対して積極的になることもできない。

そうこう考えているうちに良い感じに俺担当分のおかずが完成した。

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