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13の理論  作者: 安藤真司
10/21

ダンデライオン

「行ってきまーす」

「はーい行ってらっしゃーい、あ、静音お弁当持った?」

「うん、大丈夫、それじゃ」

「行ってらっしゃいのキースっ」

「ふぇっ!?」

「ん……ん……はい、行ってらっしゃい静音」

「んぁ、う、うん、行ってきま――っっだぁ!!??てっめいっつもいっつもいつもいつもお姉ちゃんと私の時間を邪魔すんな死ねぇっ!!!」


そりゃお隣さんなんだから、たまたま家の前で会うことくらいあるだろうに。


「行ってらっしゃい静音ちゃん?」

「次呼んだらコロス」

「静音ちゃん帰ってきたらお帰りなさいのキスしようね」

「へっ、あ、う、ん、いや別に大丈夫ほんと大丈夫だから行ってきます!」

「「行ってらっしゃーい」」


嵐のような一分にも満たないやり取りからなんとなく取り残された俺と琴音。


「……静音はホント琴音さんのこと溺愛してますね」

「敬語」

「お前らの所為で百合百合しちまってるじゃねーか!!」

「いや俺の発言みたいにしないれくれよっ!?」


くそう、「」が変わったからと言って話者が変わったとは限らないんだぜ。

これ古文読むときの鉄則な。


「それで、私と愛する静音のキスを生で見た感想は?」

「別になにも。というか愛するってやめてくれ」

「ふーん、なら私今日一日中フリーだからデートしよ?」

「今の順接はおかしいだろ……まぁ、別に構いませんよ。授業も今日はありませんし」

「あれ、誘っといてなんだけど今日ってフランス語なかったっけ」

「あぁ、フランス語の授業は期末一発勝負で成績が決まるんで。俺もう喋れますし」

「ずるいっ、ずるいよ柴山君っ、なんでこんななのに頭良いのよー、元理系なのに語学できてんじゃねーよー」

「まぁ、小さい頃から学んでましたから。それで今日はどちらへ?」

「まだ決めてない。柴山君は行きたいトコとかある?」

「特には……じゃあ映画なんか借りにいきますか。お互い一本ずつ選べばちょうど昼を挟んで二本くらい観れるでしょうし」

「むー、なんでそこで映画を観にいこう、ってなんないかなぁ……」

「え、いや、いいですけど、レンタルのが安いし好きなもの観れるじゃないですか」

「どーせ柴山君借りるの怪獣映画でしょー?私ちょっとあれ無理なのよ」


以前も似たような流れで二人仲良くレンタル屋に赴いて映画を観たことがあるのだが。

俺はいっそ壮大な熱量でもって、ゴリラとクジラを合わせたかの如き威圧感のある外見で怪獣の王とまで呼ばれることのある怪獣がメインである作品をオススメしたのだが、どうやら藤崎琴音にはあの作品の奥深さは伝わらなかったらしい。


「毎回聞きますけどなんで無理なんですか?」

「だって怪獣さ、題名の割に終盤まで出てこないし、出てきてもこう、街壊して別の怪獣と戦って、ちっとも何がしたいのかわからない」

「まさにそれが醍醐味なんですけどね」

「とにかく今日はそれ以外っ」

「はいはい、別のを借りますよ」

「っていうかいつの間にかレンタル屋に決まってる!?」


こうして、俺と琴音は家から少し離れた、といっても徒歩20分くらいのレンタル屋さんに足を運ぶことになった。

しかしまぁ最近は色々とネットで見れるようになってしまってよくないよなぁ。

勝手にネットに他者の作品を上げるのは当然犯罪だし。

海外の人が運営しているサイトだからオーケーとか言ってる輩もいたりするけれど。

いいわけないだろと。

視聴者も色々と言い分があるだろうけど。

やっぱり正当に作品を楽しむためには正当な手段で適切な対価を支払うべきだよなぁ。

この世から海賊版や違法なネット配信がなくなりますように。

今度お祈りしておこう。


「あ、ダンデライオン」


道端に咲くたんぽぽを見て琴音が言った。


「こんなところでもしっかり咲き誇ってるものねー。あ、ライオン」


道端に立つライオンを見て琴音が言った。


「こんなところでもライオンって見れるものなのねー」

「あれは確かに珍しいですね。普通こんなとこにライオンなんていませんから」

「だよねだよねっ。わー、野生の子が迷ってきちゃったのかなぁ」

「かもしれませんね、こればっかりは警察とかに任せるしかないでしょう」

「うん、そだね。行こっか」

「そうしましょう」


ライオンを視界の端にいれつつ、少し道を進んだ辺りでレンタル屋が見えてきた。


「見えてきましたね。思ったよりも早く」

「敬語、さっきからずっとだよ」

「えーと、結構すぐ来れたな?」

「うん、ずっと話していたしね」

「だな。でもやっぱ車とか欲しくないか?」

「いやいや、さすがに車とか持ってるわけないし、ついでに免許もないし」

「危ない運転する人多いだろうからしょうがないけど、もう少し楽に取れたらいいんだけライオンッ!!??」

「へ?」

「日本でここ日本で野生のライオンだとっ!?てか野生だとっ!?てかライオンだとっ!?いやいやいやいやありえんありえんいや嘘だろなんであいつ首輪もタグもついてないのまじ野生なんて嘘だろ着ぐるみか着ぐるみじゃなかったらタチの悪い模型だろいやぁ動いてるしめっちゃ呼吸してるしなんなのあいつあれかあれなのかアニマトロニクスかなんかだろすげぇ毛の先までリアルだなおいつーかまじでどういうことだよおかしいだろそしてなんかさっきからすげぇ目があってんだけどやめろやめろよおいこっちくんな嗚呼嗚呼あああああああああああああああああああっ!!??」



さて。

目的地に着いた俺たちは二人一緒にDVDを眺めていた。

着く前ってあれにしようかこれにしようか色々と考えるのにいざ眺めているとどれもいまいちでぱっとしないような気がするから不思議だ。


「うーん、来る前って特に見たいなって思うものないのに、いざ眺めてみるとあれもこれもってなるから不思議よね」


なんと。


「そう、だな。うん。っと、あ、これとか観たいな、俺まだ観たことないやつだ」


俺が目に付いた作品を手に取ると、なんだか険しい顔で琴音が俺を睨んでいる。


「柴山君、私がさっき言ったのは、基本的に、そーいう系全般が嫌って言ったの。別に青白い炎吐く怪獣じゃなくて亀っぽいのならいいよと言ったわけじゃないのよ」

「その二作を一括りにするな愚か者めっ!!」


全然……全然違うんだよこの二作品は。

ドラマの構成とか怪獣に対する倫理観とか怪獣バトルの演出とかとかっ。

ついでにあれは炎じゃなく熱線と呼びなさい!


「かくかくしかじかわかったか!?」

「はぁ?気持ち悪いなにこのオタクもう二度とその話題私にしないでくれる?」

「……でも、その、大人でも、楽しめる、ストーリーが」

「いい?私はその作品を貶めているんじゃなくて、柴山君が気持ち悪いって言ったの。大人でも楽しめるストーリー?別に子供向けの作品なんて大体大人でも楽しめるでしょうがアン○ンマン楽しめない大人はそれこそ捻くれた人間だけじゃない」

「ご、ごめんなさい」

「作品自体も確かに私には合わないけれどなにより見ている間の柴山君の意味不明なうんちく聞くのが苦痛でしょうがないのよみなまで言わせないで」

「ごめんなさい……」


こうして数少ない俺の趣味は封印された。

悲しい。


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