表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
79/79

番外編11 初恋の終焉【sideマティルデ】

「大学の講師になるとき、侯爵様の薦めでグリフ家を出て平民になったんだ。『グリフ』の名のままじゃまともに生活できないからね。マティルデ様が…女性も王位につけると法律を変えた際、貴族位も同じく女性が継げるようになっただろう? 私は除籍したけれど、母は死ぬまでグリフを名乗ると決めていたから、爵位は母が継いだんだ」


「まぁ、叔母様が女男爵に?」



「ははは。かっこいいだろう? そうして、身分を隠してロレーヌ大学で働いていたんだけど、大学長だけが私のことを侯爵からお聞きになっていてご存じだったんだ。けれどリベラルな方でね、偏見なく私を実力で評価して下さったんだ」


「大学ではずっと土木学の研究をしていたんだ。爵位も貴族生活も全て無くなって裸一貫になったら、私に残っていたのは、あのヴァイマル川の氾濫の記憶と領民を救いたいという思いだけだったから。そうやってがむしゃらに研究に没頭していたら、大学長が色々手を貸して下さって、他国の論文を取り寄せて下さったり、留学させて下さったり……そうして10年、気が付いたらノルトハイムの土木学の第一人者になっていたという訳さ」




「ハインリヒ様は昔からの夢を叶えられたのね」


「そうだよ。君と二人でダムを作ろうって話してたじゃないか」



 昔と変わらない笑顔を浮かべるハインリヒ様。


 そうだった。

 あのグリフ家の屋敷で、二人で机を並べて、土木学の本を読みながら意見を出し合っていた。

 懐かしい思い出に胸が締め付けられる。



「そんな私を大学長がずいぶんと買って下さって……孫娘の婿に向かえて下さったんだ。大学長のお子さんはずいぶんと前に事故で亡くなっておられて、身内は孫娘のクリスティアーネだけだったから、婿に入ったのを機に、ルイトポルト伯爵の地位を私に譲って下さったんだ」


「それでハインリヒ様がルイトポルト伯爵と呼ばれていたのね」


 怪我でグリフ伯爵になれなかったハインリヒ様が、婿養子となってルイトポルト『伯爵』になるなんて……。

 運命って分からないものね。



「それで今は二人の子がいる」


「まぁ! おいくつなの?」


「4才と2才だ」


 可愛い盛りね。


「幸せ?」


「ああ…あんな事があったのが信じられないくらいだ。母も一緒に暮らしているから、毎日孫に囲まれて楽しそうだよ」


 良かった。

 おば様はもちろん、不幸に見舞われながらも努力を惜しまない、優しいハインリヒ様が幸せになれて本当に良かった。




「……先日、エッケハルディン侯爵にお礼に伺ったんだ。無事、埋葬できたと…」


 笑顔から真顔になって話が変わる。


「埋葬?」


「フェルの、だよ」


 哀れなことに事故のあと、遺体は獣に食い散らかされたと聞いたのだけれど。


「エッケハルディン侯爵様が手をつくして遺体の一部を回収して下さったんだ。私たちのために」


 ハインリヒ様たちのため?


「あいつのせいでグリフ家は崩壊したと、父上も死んだんだと、ずっと恨んでいたし顔も見たくないと思っていたけれど、死んだと聞いてずっと後悔していた」


「……」



「廃墟になった屋敷で会ったとき、もう少し優しくしてやれば良かったと。手を差し伸べてやっていれば、あんな悲惨な死に方はしなかったんじゃなかったかと。

 以後思い出すのは、小さい頃のあいつの笑顔ばかりで……『あにうえ』って舌足らずに呼ぶ声ばかりで…」


「ハインリヒ様…」


「母上も、助けを求めて来たんだからせめて抱きしめてやれば良かったと泣き続けていて……そうしたら、エッケハルディン侯爵が埋められていた遺体の一部を探し出してくださったんだ。そうしてこの前、葬儀をあげて、無事にグリフ家の墓地の、父の隣に埋葬することができたんだ」


 フェルディナントはグリフ領に帰れたのね。



「ふふっ、今頃あいつ、父上にこっぴどく叱られてると思うよ」


 笑うハインリヒ様の目じりから一筋涙がこぼれた。


「そうしたら気持ちにひと区切りがついたというか…母上も気がおさまったみたいだった。葬儀って故人の冥福を祈るためでもあるけど、遺族の心の整理のためにもあるんだなってつくづく思ったよ」




 そうして15分ほど話したところで、次の執務の時間だとカーチャに声をかけられたので、ハインリヒ様は退出した。


 ダム建設は私の名で行われるが、実務は官僚たちが取り仕切るから、女王と教授では今後、言葉を交わすことはないだろう。


「わたくしもひと区切りついたわね」




 幼かった私の淡い初恋。


 悲惨な結末だったけれど、彼の埋葬によって完全に過去となった。



「陛下」


 カーチャが私を呼ぶ声がする。

 私はお茶を飲み干し、談話室を出た。



 私は女王として、これからも生きていく。


 そして、まだやることが山のようにあるのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ