06 私たちでフェルを支えよう【sideマティルデ】
フェルディナント様が貴族学院に入学しても、私はグリフ伯爵家のカントリーハウスに滞在したままだった。
というのは両親が、次期侯爵のお兄さまの地盤作りため、より一層社交に力を入れ始めたからだ。
どうせ放って置かれるし、王都にいたって寮生活のフェルディナント様にも頻繁に面会もできないし、ならば一足早いが花嫁修業として婚家のグリフ伯爵家でそのまま暮らすことになったのだ。
「マティルデ様はすばらしいですね。よくまとめられておられます」
私が書いたレポートを読み込んだ教師が感嘆の声をあげた。
足の悪いハインリヒ様は貴族学院には通わず、領地の屋敷で家庭教師に師事されていた。そして一人も二人も一緒だからと、私も一緒に勉強させて頂いていたのだ。
今日の授業で私が教師に見せたのは、土木事業について調べたことをまとめたものだった。
「ハインリヒ様に色々教えてもらったので……」
褒められたのが恥ずかしくて、淑女らしからぬボソボソとした小声になった。
「僕は聞かれたことに答えただけだよ? ちゃんと書物を読み込んで調べたのはティルデだろう?」
「そうですよね。以前ハインリヒ様にも土木関係のレポートを見せて頂きましたが、全く切り口が違いますから、これはマティルデ様自身がお書きになられたものでしょう」
「……はい」
「まだ11才のご令嬢なのに素晴らしいです。数学や地理、語学の成績も優秀ですし、今からでも貴族学院に通えますよ! 『淑女科』などもったいない!『領地管理科』で是非学んでいただきたい!」
私とハインリヒ様は土木事業に関心があった。
きっかけは勿論、領地に破壊的な被害をもたらしたあのハリケーンだ。
風雨の被害も深刻だったが、被害を大きくしたのは侯爵領と伯爵領の間に流れていたヴァイマル川の氾濫だ。
治水事業の発展は日進月歩で、他国でも様々な対策が試行されている。
私とハインリヒ様の目標は、あの川に最新式のダムを建設すること。
彼は父伯爵にお願いして土木学の博士の講義を受けたり、専門書を取り寄せてもらったりもしている。
「僕はもう当主にはなれないけれど、少しでもフェルと領民の力になりたいんだ」
そう言うハインリヒ様の横顔はとても凛々しくて、優しくニコニコ笑っていた子どもの頃とは少し違っている。
「ふふっ。フェルは勉強が苦手だろう? 僕がそこを上手くフォローできたら、アイツ良い領主になれると思うんだ」
一生車椅子だと言われていたが、彼は懸命にリハビリをし、杖が必要だが一人で歩けるようになっていた。
そして領民のための勉強も欠かさない。
努力を重ねるハインリヒ様を尊敬し、私も遅れを取るまいと勉学に励んでいた。
「そして、もう2度と領民にあんな辛い思いをさせたくない。グリフ伯爵領で暮らせて幸せだったと思って欲しいんだ」
「私もそう思っています」
私とハインリヒ様で、フェルディナント様を支えて領民を幸せにする。
それを目標に私たちは努力を続けていた。




