二章 9話 嵐の日1
用語説明w
セフィリア:竜人の女子で、長く美しい金髪が特徴。容姿端麗、学科、実技とも常に学年一位だが、パーティには恵まれていない。ラーズとフィーナは学園入学前からの知り合いで、セフィ姉と呼んで慕っている
「…何で休みなのに出かけちゃいけないの!?」
「もう少しでピークだからだって」
ミィが珍しくプリプリと怒っている
外は暴風雨
しかも、風がどんどん強さを増している
「はぁ…つまんないね」
フィーナがため息
少し遅めの台風がブリトンを直撃し、学園島もその影響をもろに受けている
そのため、学生は学園外への外出禁止を言い渡されてしまった
「先輩たち、帰り始めたわね」
ここは本校舎の図書館
寮にいてもつまらないということで、ヤマト、ミィ、フィーナと集まってみたのだが…
本を読むことしかやることがないため、思ったより面白くない
とっくに飽きて、ぼんやりと図書館内に飾られたレリーフや外の台風の景色を眺めている
窓の外に見える、学園島唯一の山であるミヤッカ山の頂上付近が雲に隠れている
大して高くもない山なので、相当低い位置にまで雲が降りてきているのだろう
「あら、あなた達まだいたの? そろそろ寮に戻らないと、雨が酷いことになるわよ」
僕たちに声をかけて来たのはマーゴット先生
一組の担任で、薬草関係の研究をしている
「先生、これから出かけるんですか?」
マーゴット先生はレインコートを着て、杖を持って風属性の魔法を纏っていた
「ええ、少し前に植えた薬草の畑を見にね。あそこ、土壌がゆるいから大雨が来ると心配なのよ」
薬草とは聖属性を帯びた植物で、体力を回復したり傷を塞ぐ薬の原料になる
植生には、その土地の属性値が大きく影響する
そのため、薬草の栽培には、その土地が一定以上の聖属性値を持っている必要がある
栽培できる場所が限られることから、多少条件が悪くても畑にしたりする
マーゴット先生の畑は、大雨でぬかるむと薬草ごと流されてしまう可能性がある場所だ
「島は風の影響が大きいから、今日は絶対に学園から出ないようにね」
「はい、先生もお気をつけて」
そんな強風の中、マーゴット先生は風魔法で体を包みながら歩いて行く
台風の風がマーゴット先生に届いていないように見える
風魔法って、あんな使い方もできるんだな…
僕たちはマーゴット先生を見送ると、寮に帰る準備を始めた
・・・・・・
ビュオォォォ――ーーーッ!!
「うわっ!」
「か、風が強い!」
外は風が吹き荒れていた
だが、タイミングよく小雨になっていてる
ラッキー
「なぁ、おい!」
「痛っ、何!?」
ヤマトが僕の肩を乱暴に叩く
「あれって、ラングドン先生とセフィリアさんじゃないか?」
「え?」
ヤマトの視線の先には二人の人影
黒い大きな帽子はラングドン先生のトレードマーク
長い金髪はセフィ姉のものに見える
「珍しい組み合わせね」
「何やってるのかな?」
ミィとフィーナも振り返る
僕たち四人は、なぜか生垣に隠れるようにして二人を見守る
「セフィリアさんとラングドン先生って知り合いだったのか?」
「話しているところは見たことないけど…、高等部なら、他の部の先生くらい知ってるのかも」
「ちょっとだけ…、ついて行ってみる?」
「いつもビビりのフィーナがそんなこと言うなんて珍しいわね」
そんなことを言いながら、僕たちは息を合わせたかのように生垣を移動する
二人がどこへ行くのか、気になってしょうがなかったからだ
「こらっ!!」
「うわぁぁぁっ!!」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
突然、後ろから声をかけられて、僕たちは腰を抜かしそうになる
「セ、セ、セフィ姉!?」
振り返ると、セフィ姉が腰に手を当てて立っていた
「え、あれ? 今まで前にいたのに…!」
「四人もぞろぞろと追いかけてくるから、何かと思って見に来たの。何やってるの?」
「ご、ごめんなさい、セフィ姉。ラングドン先生とどこかに行くみたいだったから気になって…」
「それなら、声をかければいいじゃない。後をつけるなんて、泥棒みたいなことしなちゃダメよ」
「ごめんなさい…」
ミィ、フィーナ、ヤマトも謝る
「おや、ラーズとヤマト、ミィとフィーナだったのか」
ラングドン先生もやって来る
「セフィ姉とラングドン先生はどこに行くんですか?」
「私の部活は神秘研究部で、ラングドン先生が顧問をしてくれているの。今日は、台風みたいな大雨の時にしか見られない遺跡を見に行くところだったのよ」
セフィ姉がため息をつきながらも教えてくれた
「遺跡? え、ラングドン先生ってセフィ姉の部活の顧問なの!?」
「そうよ。ラングドン先生は歴史や考古学の研究者だもの、神秘研究部にもってこいでしょう?」
「ああ、確かに…」
そういえば、ラングドン先生は考古学を研究してるって言っていたな
「ねぇ、セフィ姉。私達も一緒に見に行っちゃ………、ダメ?」
「え?」
フィーナがセフィ姉の手を取る
「あ、僕も行きたい!」
「私も! お願い、セフィ姉、ラングドン先生!」
「俺も俺も!」
そして、フィーナに便乗する僕たち
だって面白そうだし
「先生…」
セフィ姉が困ったようにラングドン先生を見る
「うーん、間もなく台風の弱体化をかけるってニュースで言ってたから大丈夫かな…。勝手についてこられても困るしね」
ラングドン先生がヤレヤレと頷く
「…それじゃあ、ここから近い遺跡だから特別に連れて行くけど。台風は本当に危険なんだから、終わったらすぐに帰るのよ?」
「はい!」
「ちゃんと帰ります!」
こうして、僕たちは特別課外授業について行けることになった
やった、面白そうなところに連れて行ってもらえる!
「先生、遺跡の場所はこの先ですか?」
「うん、この森の先だ。ただ、海沿いの道に出るから、風には気を付けるように」
ラングドン先生を先頭に、最後尾をセフィ姉が歩いてくれる
「ね、セフィ姉。どうして私達が隠れてるって分かったの?」
フィーナが振り返る
「探知魔法を使っていたのよ」
「探知魔法…」
探知魔法とは、その名の通り周囲の状況を探知する魔法だ
霊属性で周囲の霊体を探知する、風属性で周囲の障害物の状況を把握する、雷属性の磁場による簡易レーダーなど、いくつか種類がある
ダンジョンでは、モンスターの奇襲対策に有効だ
奇襲を受ければ一気に隊列が崩される危険性もあるため、斥候タイプが使うことが多い
ただ、使い続けるとすぐに魔力が尽きてしまうため、使い処が難しい
ブワァァァーーーーー!
「うっ……!?」
森が途切れて、海を臨む高台に出る
途端に強風がダイレクトにぶつかって来て、僕たちは吹き飛ばされないように踏ん張って耐える
「お、見てごらん。環境操作が始まっているよ」
「え?」
海の向こう、ブリトンの内地側の海から大きな竜巻のような物が空へと上がっている
「あれが箱舟ですか?」
セフィ姉が尋ねる
「そうだ。君達も島外学習で見ただろう?」
箱舟
海上に建設された浮遊都市
海神と水の精霊、風の精霊とのリンクにより周囲の環境に干渉する
具体的には、台風の減衰、津波の相殺などの天災に対しての、都市防衛機構としての位置づけだ
「それじゃあ、あの竜巻みたいなのが…」
「そう、あれはこの台風の勢いを減少させているんだ。減衰率は一割程度だと言われているが、そもそものエネルギーが大きいため、都市の被害リスクは格段に下がる」
「へー…」
「台風の最中に箱舟を見られるなんて、めったに無いから運がいいわね」
セフィ姉がいう
暴風の中、箱舟の働きを見学
僕たちは、文明の凄さと自然の驚異に圧倒されるのだった
薬草 二章 4話 実験
神秘研究部 神秘研究部 一章 31話 追い込み
箱舟 一章 25話 島外学習1




