二章 8話 属性親和性
用語説明w
ラングドン先生:ノーマンの男性で三組の担任、黒いとんがり帽子がトレードマーク。数々の魔法に精通し、考古学や歴史学を研究している
ゴンサロ先生の訓練が終わり、僕たちは重い足取りで教室に戻る
「つ、疲れた…」
「少し涼しくなったから、まだマシだったね」
秋の紅葉が学園島の木々を彩っている
もちろん、訓練中はそんなものを見る余裕はない
「台風が近づいてるって」
「確かに天気悪いな」
ヤマトが言う通り、今日はずっと曇り空だ
「あ、ラングドン先生」
「今日も四人で受けるのかい? 感心だね」
フィーナが、教室に入って来た先生に声をかける
今日も、ヤマトの補習に僕とミィ、フィーナの三人が付き合う
「先生、よろしくお願いします」
ヤマトが頭を下げる
「ヤマト。かなり良くなっているから、焦らずじっくりとやろう」
ラングドン先生が頷く
僕たちは先生を囲むように椅子を並べ、床に立てた杖に両手を置く
背筋を伸ばし、魔力の感覚に集中する
…僕は最近、この瞑想にはまっている
なぜなら、感じることができているから
全身を巡っている魔力の流れが、杖から入って杖から出ていく
その循環が分かるのだ
僕は全身から魔力を集める
手から杖に魔力を送り込む、それだけじゃ足りない
その前に、身体全体の魔力を意識的に手に送り、集めて集めて集めてから杖に注ぎ込む
そうすることで、杖の中に今までにない程の大量の魔力を送り込める
この感覚に気が付いてから、面白くてたまらない
上達を実感している
この杖に詰め込んだ魔力が、何か別の現象、おそらく魔法と呼ばれる力に変換できそうな、そんな予感がする
…もう少しで魔法が使えるようになる気がするのだ
「ラーズ、上手くなったね。第八感がかなり開いている」
「はい」
「その感覚を、もう少し磨いてみたくないかな?」
「はい、磨いてみたいです」
「よし、ではヒントだ。体の中の魔力は、どこが多くてどこが少ないかな?」
「…え?」
体の中のどこが…?
僕は全身の魔力を漫然と集めていた
だが、考えてみれば魔力量は体の中に一定にあるわけではない
ラングドン先生のヒントによる気付きに、僕は雷に打たれたように興奮を覚える
まだ魔力というものの理解が足りていない
もっと理解して、もっと上手くなれる
僕は、もう一度自分の体内に意識を沈めていく
「よし、そろそろ終わろうか」
「はい…」
瞑想を続けたことで、ぐったりと疲れる
でも、やりきった心地の良い疲れだ
「フィーナは、そろそろ具体的な魔法の習得に取り掛かってもいいかもしれないな」
「魔法の習得ですか?」
「攻撃魔法や補助魔法、回復魔法など、自分の覚えたい魔法を決めて練習して行くということだ。授業中は無理だから、補修の時間に教えよう」
「は、はい!」
フィーナは凄いな
やはり、魔法の素養があるというのは騎士学園では大きなアドバンテージだ
飛び級で入っただけはあるよな
「ラーズとミィもかなり良くなっている。二人とも、そろそろ最初に覚える魔法の属性をイメージしておきなさい」
「属性…」
「悩むなぁー」
人類は、理論上は全ての属性の魔法を覚えることができる
その反面、一つの属性を極めることはできない
そのためには、属性親和性と呼ばれる特性を獲得する必要があるためだ
この属性親和性を持つものとしてはドラゴンが有名だ
ドラゴンは得意属性を持っており、その属性に特化した強力なブレスや魔法を使う
例えばファイアードラゴンの火属性攻撃は、人間の火属性の攻撃とは威力のレベルが違う
その理由が、ファイアードラゴンが火属性との親和性を持っているためだ
火属性親和性は、火属性の耐性を強化し、更に火属性の攻撃を強化することができる
しかし、デメリットとして相克の属性からのダメージが増えることが上げられる
ファイアードラゴンは冷属性攻撃という、弱点属性を持つことになるのだ
更に、属性親和性を持った場合、相克属性の魔法や特技を身につけることができない
逆に、人類を代表とする属性親和性を持たない生物は、得意属性を強化できない代わりに、弱点属性も持たない
そして、相克の弱点属性が無いおかげで全ての属性を身につけられるというわけだ
なお例外的に、人類にも先天的、後天的に属性親和性を獲得する者が存在する
「…先生、三組の中で、一番魔力の扱いが下手なのって誰ですか?」
ヤマトが暗い顔をする
「ヤマト、人と比べることに何か意味があるのかい?」
「…」
「その問いに答えるなら、残念ながらヤマトだ」
「やっぱり…」
「では、一番下手なヤマトが進級できるのか? この問いに答えるなら、私は出来ると答える」
「え…」
ヤマトが顔を上げる
「騎士にとって必要なことは、不得意なことにも挑む根気だ。得意なことだけをやるのは、誰だってできるからね」
「は、はい」
「ヤマト、君には騎士としての才能がある。そして、補修に付き合ってくれる仲間もいる。焦らずに、じっくりとやっていこう」
「…よろしくお願いします」
ラングドン先生に励まされ、ようやくヤマトは笑顔になる
そして、僕たちをチラッと見て少しだけ耳を赤くした
こいつ、かわいいんだけど
・・・・・・
寮への帰り道
「わー、もう暗くなって来てる」
フィーナが、西側に少しだけ夕焼けを残した星空を見上げる
「日が落ちると、ちょっと寒くなるね」
「あー…全然上達している気がしねぇ……、あー……」
ヤマトが呻いている
「ラングドン先生が大丈夫だっていってたでしょ。補習だってやってくれているし」
ミィが言う
「訓練だったらいくらでもできるのによ…。どうも、魔力ってやつは…」
「私は訓練が無理だよ…」
フィーナが頭を振る
「フィーナとヤマトって、得意なことが真反対にあるよな」
「得意な事だけじゃダメって言われたばっかりじゃない」
「うぅ…」
ミィの言葉に、ヤマトが何も言えなくなる
だが、タイミングのいいことに、ちょうど女子寮に着いた
「それじゃあ、また明日」
「お疲れ。…付き合ってくれてありがとよ」
僕たちが二人を見送って男子寮に向おうとすると…
「あ、ねえ、ちょっと付き合ってくれない?」
ミィが振り返る
「え、何に?」
「ミィ姉が、セフィ姉においしそうなお菓子買ってたんだって」
フィーナが答える
「お菓子って?」
「いつも、いろいろ買ってもらってるから、そのお礼にと思って」
「…!」
こ、こいつ、できる女だな
確かに、僕もセフィ姉にいろいろ貰ってる
今度、何か買ってこよう
「でも、今から高等部の寮に行くのか? 暗くなっちまったぞ」
「…寮は無理かな。でも、もしかしたら部室にいるかもしれなくない?」
「そうか、中等部以上の先輩は部活があるもんね」
以前、セフィ姉は、勉強する場所を探していた僕たちに部室を使わせてくれた
「確か、本校舎の地下だったよな?」
ヤマトが言う
「そう、あそこに行きたいのよ」
「神秘研究部だっけ? それじゃあ行ってみようか」
僕たちは、寮に帰るのを止めて本校舎に向かう
「確かこっちよね」
本校舎の裏手から、用水路に入って地下道を進む
用水路内は、蛍光灯が付いていてこの時間でも明るかった
「ここを右だったよ」
「フィーナ、よく覚えてるな」
「この地下用水路、思ったより複雑だったんだな」
記憶を頼りに進んで行くと、壁と壁の間に挟まれた細い行き止まりの通路にたどり着いた
前にセフィ姉が明けていたので、僕達はこれがドアであることが分かっている
ただの壁のように見えるが、よく見ると何かの文様なのか文字なのか、よく分からないものが掘られていることに気がついた
「ここね」
「どうやったらドアが開くんだっけ?」
「とりあえず押してみろよ」
「えーい!」
フィーナが押すが、突き当りの壁はびくともしない
「よし、変われよ」
今度はヤマトが押すが、やはり同じだ
力押しでは開かないようだ
「いないのかな?」
「大声出して、先生に見つかったら怒られそうだよ?」
フィーナが言う
「そうね…、今日は諦めるわ。ありがとう」
僕たちは諦めて寮に戻ることにする
セフィ姉、どうやってあのドアを開けたんだろ?
神秘研究部 一章 31話 追い込み




