EP.53
ルイは、窓を開けた。
ほんのり冷たい空気が、部屋に流れ込む。
「おはよう。小鳥さん達」
ルイの言葉に、「ピピッ」と三羽の小鳥が返事をする。
「今日も穏やかな日になりそうね」
ルイは、トーストをオーブントースターで焼いた。
「そうね……。今日は、ブルーベリージャムにしようかしら」
冷蔵庫からブルーベリージャムを取り出すと、ササッとトーストに塗った。
飲み物は、ホットのハーブティー。エルダーフラワーの甘く爽やかな香りが、部屋に漂う。
「今日もツナグ達は元気そうね。彼女達も元気そう」
彼女とは、叶奈のことである。
ルイは、叶奈・涼太・悟の様子を瞼の裏に映し見ると、目を開けてトーストを一口齧った。
「ツナグ達の所は、夕方に行けば間に合うわね」
サクリとトーストを齧る音が、部屋に響く。
ルイは、不意にある男を瞼の裏に映す。その男は、ルイが最も愛を感じた人。
「彼も元気そう。良かった」
ルイが愛したその男は、叶奈達の世界にいる。彼はルイの夫である。ルイとは異なり、髪は白く薄くなっている。
彼は、老人ホームで穏やかな余生を過ごしている。
ルイは、いつか来るであろう彼との再会の日を楽しみに待ちながら、今日も彼が元気であることを確認する。これは、ルイの日課である。
「彼がこちらの世界へ来るのは、もう少し先ね。でも、彼が幸せなら、それで良い」
ルイは、また一口トーストを齧った。
窓際に、小鳥が一羽止まる。その小鳥は、ルイを見つめている。
「パンが欲しいのね。わかったわ」
ルイはクスリと笑って立ち上がると、焼いていないパンを持ち、小鳥に近付いた。
小鳥は、「ピピッ」と鳴く。
「はい、どうぞ」
小鳥の前に、小さなパンの欠片を置く。小鳥は、あっという間にパンの欠片を飲み込んだ。そして、また「ピピッ」と鳴いた。
「はいはい」
ルイは微笑みながら、またパンの欠片を小鳥の前に置いた。
穏やかな時間が流れる。ルイは、小鳥にパンの欠片をあげながら、空を見上げた。
空から優しい日差しがシャワーのように降り注いでおり、その光はルイがいる部屋を一際明るくしていた。
「今日は、流星群も綺麗に見られそうね」
そう、今日はツナグ達と流星群を見る日。
ルイは、この日を楽しみにしていた。流星群を見るのは久々だ。
「最後に見たのは、彼とお別れする前ね」
ルイが最後に流星群を見たのは、愛しい夫と向こうの世界で別れる一週間前だった。向こうの世界での最後は、老衰だった。
夫が押す車椅子に乗り、二人で家の前で見たのだった。
「あの日も幸せだったわね」
ルイは、遠いその日に思いを馳せる。
その思い出は、エルダーフラワーの香りと共にルイを包む。温かい布団のように、それでいて軽いタオルケットのように。
窓際のスイートピーが、色鮮やかに咲いている。薄いピンク色のその花は、ルイの楽しい思い出を彩っていた。
読んでいただき、ありがとうございます。
今回はルイのワンシーンでした。
ここで明かされましたが、ルイには夫がいます。今は離れ離れですが、いつか再会できると良いなぁと思っています。
その辺は、番外編などを書く機会があれば書こうかなと思います。
お気付きの方も多いと思いますが、ルイは千里眼の持ち主です。
だからこそ、その能力を優しいことに使ってほしいと思いながら想像しました。
自分の想像が優しいままでここまで来れて良かったです。
最後に出てきたスイートピー。この花は、「優しい思い出」という花言葉があるそうです。
ピンク色のスイートピーには、「恋の楽しみ」という花言葉もあるそうです。
ルイの思い出が優しい思い出であること、その思い出がルイの夫との思い出ということから、この花を選びました。
さて、次は誰のワンシーンとなるのでしょう?
ぜひ、続きもお楽しみいただけますと幸いです。




